Another 緑柱石-乙女心は-
ヴァルがヘリオとエタバンをしてから、早くも1年が経とうとしていた。
その間に、二人の関係は少しずつではあるが変化していた。
基本的にベタベタする関係ではないが、時折、ヴァルが読書中のヘリオに体を寄せ、それに気付いた彼が頭を撫でるか、肩を抱く様になった。
ちょっとした変化ではあるが、夫婦らしさが出てきている。
そして今まさに、ヴァルが体を寄せ、ヘリオは本に視線を落としたまま彼女頭を撫でていた。
その彼女の顔は、目を瞑り、気持ちよさそうだ。
「ヘリオ」
「ん?」
呼ばれて視線を向けると、突然頬に軽く口付けられた。
「!?」
普段されない事をされ、驚いて固まる。
それを見てヴァルは小さく笑った。
「おやすみ」
そう言って、彼女は自分のベッドに潜り込んだ。
ヘリオは固まったままだったが、次第に顔は紅くなっていった。
***************
「あらぁ~!ヘリオちゃんじゃなぁ~い♡」
ヘリオがグリダニア旧市街を歩いていると、声をかけられた。
振り向けば、そこに居たのはヴァル経由で知り合ったスイレンだった。
「スイレンか」
「覚えててくれて嬉しいわぁ♡今日はヴァルちゃんは一緒じゃないのね」
「今日は別行動だ」
そんな会話をしていると、スイレンが何かに注目していた。
なんだと思い、ヘリオも視線をそちらに向けると、そこに居たのは1組のカップルだった。
「ねぇ~、私の事好き?」
「なんでそんなこと聞くんだよ。言わなくても分かるだろ」
「えぇ~、だってぇ~、ちゃんと言葉で聞きたいんだもぉん」
「言わないぞ」
「ひどぉい!」
頬を膨らませる彼女。
すると、彼氏の方が急に彼女の顎を掴み口付けた。
「言わなくても、分かるよな?」
「もぉー!強引なんだから!………でも……好き……♡」
そこから、カップルはイチャつきながらどこかへと行ってしまった。
「はぁ……、人通りが多いところで、よくまぁイチャつけること」
「……」
「でも、好きな人に強引に攻められちゃうと、キュンキュンしちゃうわよねぇ♡」
「…そうなのか?」
スイレンの言葉に反応するヘリオ。
「まぁ、人によりけりでしょうけど、普段クールな彼に強引なアクション取られたら、ドキッとしちゃうもんよぉ♡」
「……」
考え込むヘリオを見て、スイレンは更に続けた。
「あなた達、あまりイチャつか無いタイプでしょ?ヘリオちゃんに強引にされたら、ヴァルちゃんメロメロになっちゃうんじゃないかしら♡」
「……どうだかな」
「絶対そうよぉ!あなた達、パートナーになって1年ぐらいなのに熟年夫婦みたいに落ち着きすぎなんだもの!」
「じゅ……熟年……?」
「乙女はいつでも刺激を求めてるものよ?」
「あんたは男だろ」
「もぉ!ワタシは身体は男でも、心は乙女なの!」
「……はぁ」
そんなやり取りをしつつも、ヘリオは何か思うところがあるのか、考え込んでいた。
***************
FCハウスのヘリオの個人部屋。
夕飯を終えたヴァルは、自分のベッドに座り軽いストレッチをしていた。
「なぁ」
「ん?なんだ」
唐突にヘリオに声をかけられ、返答する。
すると、彼は何も言わず近づいてきた。
不思議に思いながら、黙ってそれを見つめるヴァル。
すると、彼女の脇に手を付き、一気に距離が近づいた。
「え?」
珍しい至近距離にヴァルは驚き、思わず体を後退させる。
「な、なに?」
戸惑う彼女の顎を掴み、顔を近づけると、ヴァルの頬に紅みが差す。
「あんたも少し強引な方がいいのか?」
「……ん?」
ヘリオの言葉に、戸惑いからキョトン顔に一瞬で変わる。
「…何の話だ??」
ヴァルの問いかけに、ヘリオは顎から手を離し、経緯を説明する。
「……それで、行動してみた……のか?」
「……そうだ」
少し照れくさくなったのか、頬を紅らめてそっぽを向く彼を見て、ヴァルは思わず笑いだした。
「ふっ…ふふふっ、あははははっ!!」
「……なぜ笑う」
「いや、すまない。お前、本当に素直だよなぁ!ふふふふっ!」
笑いが止まらない彼女。
笑われて、ヘリオに恥ずかしさが込み上げた。
「……笑うなっ」
「んんっ!?」
再び勢いよく顎を掴まれたと思ったら、強引に口付けをされ、ヴァルは硬直した。
唇が離れる感覚に我に返ったヴァルは、そのままヘリオの首に抱きつき、今度は自分から口付けをした。
「んっ!?」
ヴァルの行動に驚き、バランスを崩したヘリオは、そのまま彼女を押し倒す形でベッドに倒れた。
「お、おいっ」
赤面し、彼女に抗議の声を上げる。
「先に強引に来たのはヘリオだろ?あたいに火をつけたんだ。責任、とってくれるよな?」
「…っ!!」
ヴァルはそう言って、再び彼の唇を奪ったのだった。