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境界線のかたち

2025.11.21 00:01

 夏の光が差し込むデイサービスセンターで、佐伯まどかはそっと手を取り、認知症の祖母の指先を温めていた。そこには最新型介護アンドロイド「ハル」が担当するシフト表が貼られている。ハルは決まった時間に、的確な薬を準備し、バイタルを記録し、優れた会話プログラムで入居者の機嫌を高める。

 まどかが解雇されたのは半年ほど前。まどかの仕事はもう不要と言われた。

 レストランのフロアで料理を運び、外国語混じりの客の注文を瞬時に理解し紳士的に応じるアンドロイド・リオンに仕事を奪われたのだ。理論上、ミスも疲れもない存在が接客の未来を担う。まどかは途方に暮れながらも、祖母と同じ屋根の下で過ごすうち、表情の揺らぎや沈黙の中にこそ、人間同士の絆があると気づき始めた。

 今日はまどかが友情を育む時間だ。祖母が昔話を始めると、ハルは記憶モジュールから類似エピソードを検索し、見事に語り返す。しかし祖母の瞳は固り、データでは埋められない「懐かしさの痛み」を求めていた。それを見ていたまどかは震える声で歌い始める。幼い頃の子守唄は不完全で、音程もどこかずれている。それでも祖母の手がまどかの背中を叩き、二人の距離が繋がっていくのがわかった。

その夜、まどかは思う。

 アンドロイドにしかできない完璧さと、人間だからこそゆらぐぬくもり。どちらかではなく、二つが交わる場所に新しい「働き方」が生まれるのではないか。


 翌朝、センターに出向いたまどかは、ハルの手首を軽く撫で、

「一緒に歌、聴いてみる?」と話しかけた。

まどかはハルに、子守唄を歌って聞かせた。どこか頼りない歌声だが、ハルは真剣に聞いていた。次の入居者会では、人間とアンドロイドが歌い継ぐ小さなコーラスが生まれるだろう。

 データと感情が寄り添い、新たな労働の境界線が曖昧になる。その先にこそ、人間らしさの価値が光を放つ。

 仕事とは、単に成果を生む機械的な作業だけではない。誰かの心を揺さぶり、そばに居ることを伝える行為でもあるのだ。

 まどかは悟った・・・その役割は、アンドロイドには真似のできない、かけがえのないものだと。