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美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

13.8センチの雅で小さな宇宙がそこに「名所図小箪笥」(駒井 作 明治時代 清水三年坂美術館蔵)

2019.03.02 13:26

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.2.9>主な解説より引用)

 細密かつ精緻で華麗な装飾。雅なる金工による、線と面の超絶技巧作品「名所図小箪笥」。しかも、わずかに高さが13.8センチでしかない小さな象嵌(ぞうがん)による作品。

それは京都・清水三年坂美術館に収蔵されている。館長の村田理如氏云く、「数ある作品の中でも、これほど美しく緻密に装飾が施されている小箪笥は、他に観たことがない。豪華な中にも、気品が漂う最高級の作品である」と。

 箪笥の正面には、京都界隈の風景、寺や庭のほか、蔦や葉の文様が隙間なく散りばめられている。天には二羽の鳳凰、背面には市松、麻の葉、青海波といった文様が、心地よく無限の連なりとなって描かれている。

 本作品は、明治期屈指の金工房、京都「駒井」において製作された品である。ただ、駒井には、主に海外に日本文化を発信するため制作された作品が多く、我が国に現存する物は、本作品を含め非常に数少ない。それだけに、大変貴重なものとなっている。

      

 駒井音次郎は、清兵衛の三男として天保13年(1842)に生まれ、父、兄ともに刀匠であったが、音次郎は肥後出身の三崎周助から、肥後象嵌の技術を学んだ。

 金銀の布目象嵌の作品が圧倒的に多く、本作品以外にも置物、盆、手箱、花瓶、皿、装身具、宝石箱など多岐にわたる。

 「布目象嵌」は、完成までに辿る6つの工程を辿る。順に「1.布目切り」→「2.入嵌」→「3.腐食」→「4.漆焼き」→「5.研ぎ出し」→「6.毛彫り」と続き、ようやく完成に至る。線の幅はわずか1ミリ、さらに0.01〜0.09ミリ金糸で図柄を緻密に描いていく。その様は人間技とは思えないほど、根気のいる、かつ細密で緻密な作業の連続である。

(番組視聴後の私の感想綴り)

 象嵌(ぞうがん)は、鉄の地に、金、銀を打ち込んだ装飾手法である。現代の日常生活ではあまり馴染みのない言葉であるが、ここでの装飾技法を拝見するにつけ、日本における金工技術の粋の高さに、愕然とした。

 これまでも、本番組では「超絶技巧」と題して、七宝、金工、根付、牙彫などの見事な作品が紹介されてきた。昨年(2018年)の秋10月に私自身も二回目となる、清水三年坂美術館に足を運んだ。

 その際の一番の鑑賞目的は、本番組でも2018年7月14日に取り上げられた、「桜蝶図平皿」(並河靖之 作)の鑑賞であった。(その際の感想綴りはすでに2018.10掲載済)そのほかにも、数々の超絶技巧作品をじかに鑑賞することができたが、今回の作品「名所図小箪笥」はその価値の重要性からか、館内には陳列されていなかったと記憶している。 

 日本人の「手先の器用さ、細やかさ、繊細さ」というのは、海外からもよく言われることである。こうなると、そのルーツはどこからきているものなのか、一度詳しく調べてみたい気もする。

 「名所図小箪笥」で描かれた京都の風景、蔦や葉の隙間なく絡み合う文様、鳳凰の飛び交う様などなど、観ていて全く飽きない。箪笥は本来、ものを仕舞う実用的な家具のひとつでもあるが、ここまで美の粋を極めて描き、小さな宇宙ともいえる小箪笥に、数々の日本美をあしらったのは、やはり観賞用として製作したものであるにちがいない。

 イタリアの伝統的な職人工房などでは、いまだに製作されているバッグや靴、縫製といったものが、大量生産品とは別に、手作りで丁寧に丹精を込めて創り上げている。スイスの時計製作などもそうであろうか。

 本作品は、究極のオンリーワンであるが故に、明治期の創作技巧における、まさに日本の「伝統的創作価値」を後世に伝える保存として、尊ばれるに価するのであろう。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.2.9>より転載。同視聴者センターより許諾済。