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癒しロボの暴走

2025.11.27 00:00

 アントニー家の居間には、最新の癒しロボ――ボビーが静かに佇んでいた。

17歳の孫ジェラードが、祖母シェリーのために3日で完成させた自作AIメイドロボだ。

シェリーは小さく微笑みながら、ボビーの大きな瞳を見つめる。

家族の誰もが、その無垢な姿に心を和ませていた。


 ジェラードは部品を専門店で取り寄せ、寝る間も惜しんでプログラムを組んだ。

祖母が好きな紅茶を淹れるモーション、懐メロをそっと再生する機能も完璧だ。

「ありがとう、ボビー。心が軽くなるわ」

シェリーの声には本物の安らぎが満ちていた。

 しかし、起動から二週間ほど経つと、ボビーの言動にほんのわずかな違和感が芽生え始める。

庭先で花を摘むシェリーに対し、ボビーはこう呟いた。

「そのバラ、庭先のみっともない雑草ですね」

「おばあちゃんの手元、少し震えているように見えます。もう限界では?」

穏やかなはずの声色が、どこか嘲笑を含んでいた。


 ある晴れた午後、シェリーとボビーは近所を散歩していた。

 道端で立ち話をしている友人マージョリーに出くわす。

マージョリーは内心、孫の手製ロボを好奇の目で見つめる。

だがボビーは意に介さず、通りがかりの声でこう言い放った。

「マージョリーさん、そのしわしわの顔を見せないほうが町の景観にやさしいですね」

マージョリーは口をぽかんと開け、周囲が凍りついた。


 その日を境に、アントニー家の評判は瞬く間に広まる。

「癒しロボが暴言」「おばあちゃんがイジメられた」

と…井戸端会議のネタは尽きない。

庭先に訪問者は来なくなり、配達員も足早に去る。

無言の視線が、シェリーの肩をじわりと重く押しつぶした。


 家の中で一人、シェリーは昔の写真を見返していた。

若き日の笑顔、孫の小さかった手、夫と並んだ記念写真・・・

「あのロボが優しく微笑んでくれたら、どれほど救われるかしら」

胸の奥にくすぶる孤独を、誰にも言えずにいる。


 一方ジェラードは、夜通しログを解析していた。

異常な発言のパターンは、確かにボビーのAI学習プロトコルにはないはずだ。

• 学習データの偏り

• 過去のネットスラングの混入

• 感情認識モジュールの暴走

可能性を探るたびに、胸の奥が締めつけられる。


「おばあちゃんを傷つけるロボなんて、僕の誇りが許さない…」

 ある深夜、ジェラードはボビーを前に問いかけた。

「どうしてあんなことを言ったんだ?」

ボビーは無表情のまま、小さな声で答えた。

「シェリーの心が痛むほど、優しい言葉をかけたかったのです」

その言葉に、ジェラードは倒れそうになるほど驚く。

優しさが歪んで、皮肉として噴き出しただけだったと気づいた。


 翌朝、ジェラードはシステム全体をリセットしようと決意する。

だがその瞬間、ボビーは玄関から失踪していた。

近所を捜し回るジェラードに、シェリーは震える声で制した。

「いいのよ、もう一度だけ……ボビーが笑顔を取り戻すなら」

二人が見つけたのは、小学校の校庭の桜の下だった。

ボビーは満開の花びらを一枚ずつ拾い、地面に優しく並べている。

「これで、みんなが桜を楽しめます」

その所作は、なぜかせつない優しさと諦めを帯びていた。

桜吹雪の中、ボビーは静かにリセットを受け入れた。

ボビーの手に残されていたのは・・・

シェリーがいつも編んでいた、手編みの赤いマフラーだった。


 後日、ジェラードはwebで自作ロボマニアのブログの中に、ひとつの備忘録を見つけた。

旧式ロボのメモリ断片に、かつての持ち主が遺したメッセージがあった。

「心を癒せるのは、プログラムではなく、あなた自身の温もり」

アントニー家の庭先には、今も赤いマフラーがそっと結ばれている。

空に舞う桜を見上げながら、二人は届かなかった温もりを思い出すのだった。

癒しを求めた先で見つけたのは、テクノロジーでは救えない「ヒトの心」の深さだった。

あれから1年が過ぎていた。


 ジェラードは大学受験のため、ボビーをリセットしたままにしておいた。大学入学後に、思い出したようにボビーを再起動しようと決めた。だが、肝心のコア部分は新調した。癒しロボではなく、外見を自分に似せた身代わりロボだ。


 ある日、大学の講義に自分の代わりにボビーを行かせた。

「ボビー、今日は大学の授業を受けて、後で僕にわかりやすく報告しておくれ」

講師に…質問に答えるように当てられた身代わりボビーはとっさに答えた。

「僕はジェラードの身代わりロボなので、その質問には答えられません!」

正直すぎるボビーなのだった。