苦手を抱えたまま教師になる——“特性のある先生”が見た学校現場
■ はじめに——“特性を抱えた教師”は教育現場に何をもたらすか
近年、「特性のある子ども」への支援が注目されていますが、実は
特性を抱えているのは子どもだけではありません。
教師自身にも、
・注意の偏り
・感覚過敏
・多動傾向
・処理速度の差
といった特性をもつ方が多くいます。
しかし学校という組織は、暗黙のうちに「標準的な教師像」を前提に運営されており、教師の特性が可視化されにくい構造になっています。
私は大学卒業後、県内私立高校で15年間教員として働きました。その間、
“みんなと同じように働くことが難しい教師”としての苦悩と、
その経験から見えてきた課題があります。
■ 式典・行事が“苦痛でしかない”——座り続けられない教師の実態
式典(入学式・卒業式・始業式・終業式など)は、多くの学校にとって重要な儀式です。
しかし、私にとってはこれが 最も耐え難い時間でした。
教師席に長時間座り続けること自体が困難で、
・背中がざわつく
・足が動いてしまう
・周囲の視線が気になる
・頭がぼんやりしてくる
といった状態になり、「先生なんだから我慢しなければ」と自分を追い込むばかりでした。
特性のある生徒が式典を苦手とするのは一般的ですが、
**同じ特性を抱える教員は“苦手を表明できない”**という点がより深刻です。
生徒はサポート対象になっても、教師は「できて当然」と見なされる——
これは学校組織の盲点と言えるでしょう。
■ 講演会・研修への参加も苦痛——“一方的な話を聞く”という高負荷
特性の一つとして、私は
「単調な話を長時間聞き続ける」ことが著しく困難でした。
教員研修や講演会では、90分以上の講話形式が一般的です。
しかし私は
・内容が興味関心と離れている
・体を動かす機会がない
・空気が静まり返っている
という条件が重なるだけで、集中が維持できませんでした。
“大人”“教師”であっても、
脳の特性は学生時代から変わりません。
ところが、多くの教員研修は
「すべての教師は一律に聴講できる」
という前提で組まれています。
この構造が
教師の学びの質を下げ、負担を増やしている
という点は、現場としてもっと議論されるべきだと強く感じています。
■ 黒板にまっすぐ字を書けない——“書字の困難さ”は教師も例外ではない
教員として致命的に見えるかもしれませんが、私は
黒板に文字をまっすぐ書くことができませんでした。
・罫線がないと文字が曲がる
・図形が歪む
・□で囲むとフニャッとしてしまう
これは教員として能力が低いのではなく、
「空間認知」と「運動制御」の特性によるものです。
しかし当時の学校文化では、
「黒板の字が下手=やる気がない」
という解釈がされ、叱責を受けることもありました。
その結果、
特性が“怠慢”として誤解される
という状態に陥ってしまうわけです。
■ 特性を“弱み”ではなく“スタイル”に変えるための工夫
こうした苦手を抱えながら働く中で、私は次第に
環境を工夫することで特性は十分に補える
ということに気づきました。
● ① 式典・行事 → “記録係”を自ら担う
式典中でも自由に動ける業務があることを発見し、
校長に「記録撮影を担当させてほしい」と直談判しました。
これによって、
・立ち歩くことが許容される
・動くことで集中が保てる
・式典の場に「役割」をもって参加できる
という最適解を得ました。
● ② 講演会 → メモ・写真・ICTで“能動的に参加”する
特性のある教員にとって、
受動型研修は極めて負荷が高いものです。
私は研修時に
・写真を撮る
・資料に直接メモを書く
・気づきをICTにまとめる
など、能動的な作業を加えることで負荷を下げていました。
● ③ 黒板 → ICT活用による“弱みの転換”
黒板書字の困難さを補うために、
当時としては珍しく電子黒板・PC投影を授業に導入しました。
結果的に学校からは
「先進的な授業」と評価されることになりましたが、
動機は
“できないことから逃れたい”という切実な自己調整
に他なりません。
しかしこの経験から、
教師の特性が授業改善の原動力にもなる
ということを学びました。
■ 学校は“多様な子ども”を求めるのに、“多様な教師”には不寛容
現代の教育は
・多様性
・個別最適化
・特別支援の充実
を掲げています。
しかし実際の学校組織は、
教師に対しては「標準化・同質性」を強く求める傾向があります。
・朝礼や式典は一律の姿勢・参加
・研修は全員同じ形式
・黒板指導は固定的
・書類業務は処理速度が前提
これは、
特性のある教師にとっては非常に生きづらい環境
となります。
そして同時に、
特性のある教師は、特性のある生徒の理解者になりやすい
という重要な視点が、現場で十分に活用されていません。
■ 教師の特性は、必ず“生徒支援の武器”になる
私自身、苦手を抱えたまま教職を続けたことで、
特性のある生徒の行動に対して、
直感的な共感と観察の精度が高まっていきました。
・なぜ離席するのか
・なぜ集中できないのか
・なぜ行事が怖いのか
・なぜ宿題に手がつかないのか
これらは自分自身が経験してきた困難そのものでした。
特性がある教師は決して“欠けた存在”ではなく、
むしろ
多様な生徒支援の先駆者となりうる存在
です。
■ まとめ——教師もまた“多様性の対象”である
第1話では、私自身の子ども時代の特性を紹介しました。
第2話では、そのまま大人になり、教職に就いたときに直面した現実をお伝えしました。
ここで強調したいことは1つです。
👉 学校は「多様な子ども」を受け入れようとする一方で、
「多様な教師」を受け入れる準備がまだ十分ではない。
教師の特性を正しく理解し、その強みを活かせる環境が整えば、
それは必ず 生徒支援の質の向上 につながります。
特性のある教師の存在は、
“弱さ”ではなく“教育改善のヒント”なのです。
📚 明日の予告
【水曜日】第3話:
「学校に馴染めない生徒たち——“解放区”が生まれた背景」
・特性のある生徒が抱える“学校という環境”のしんどさ
・既存の相談体制の限界
・私が教室外に“逃げ場”を作った理由
そして、管理職から中止を求められた出来事
など、“現場の矛盾”をテーマにお届けします。
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