学校に馴染めない生徒たち——“解放区”が生まれた背景
■ はじめに——「みんなと同じことができない」生徒は、なぜ学校が苦しいのか
県内私立高校で教育相談担当を務めていた頃、私はあることに気づきました。
それは、
「みんなと同じように活動することが苦手な生徒ほど、教室での居場所を失いやすい」
という現実です。
・離席する
・提出物が遅れる
・行事参加を拒む
・集団活動ができない
・朝起きられず遅刻が多い
——これらは特性のある生徒にとって“自然な行動傾向”である場合があります。
しかし学校文化ではしばしば、
「どうしてできないの?」
という“指導”の対象になります。
特性のある子は「がんばればできる子」と誤解されやすいため、
行動が改善しなければ「反抗的」「意欲がない」などと評価されてしまうことも珍しくありません。
こうして生徒は、
「できない自分は迷惑をかけている」
「教室にいてはいけない」
と感じ、居場所を失っていくのです。
■ 既存の相談体制の限界——“月1回のスクールカウンセラー”では間に合わない
教育相談担当になった私は、
学校の相談体制が生徒のニーズに追いついていない
という現実に直面しました。
当時の相談体制はこうでした。
・スクールカウンセラーは月1回来校
・相談枠は数名まで
・予約制で、日程調整に時間がかかる
・生徒は担任を経由しないと相談にたどり着けない
これでは
“今すぐ助けてほしい”生徒には間に合いません。
例えば——
・朝、教室に入れず保健室にうずくまっている
・行事を前に情緒が不安定
・友人トラブルで昼休みに混乱している
こうした“その瞬間の支援”が必要な場面で、
誰も対応できない構造になっていたのです。
これは決して特定校の問題ではなく、
日本の学校全体が抱える“制度的な遅れ”だと言えます。
■ 教室で苦しい生徒は、どこに逃げればいいのか?
特性のある生徒は、教室での集団行動が負荷になりやすく、
・他者の視線
・音刺激
・役割不明瞭な集団活動
・座り続けることの強制
などの刺激により、急速に疲弊します。
しかし当時の学校には、
「教室にいられない生徒が過ごす中間的空間」
がありませんでした。
・保健室 → 病気の子の場所
・図書館 → 静寂が必要、私語禁止
・廊下 → 居場所ではない
・相談室 → 予約制
「逃げ場」に適した場所は、ほぼ存在しなかったのです。
■ そこで私は“小さな実験”を始めた——コンピュータ室の開放
教育相談担当と情報科主任を兼任していた私は、
管轄していた コンピュータ室 が“未利用の空間”であることに気づきました。
放課後、そこを
「教室にいられない生徒の自由な居場所」
として開放したのです。
ルールは極めてシンプルでした。
・何をしてもよい
(漫画、動画、ゲーム、雑談、昼寝)
・出入り自由
・叱らない
・評価しない
・先生も生徒も“素のまま”でいてよい
すると口コミで徐々に生徒が集まり始め、
多い日は十数人がそこで穏やかに過ごすようになりました。
■ なぜ、あの空間は生徒を惹きつけたのか?
理由は明確です。
👉 あの空間だけが、
「みんなと同じでなくても許される場所」
だったからです。
■ 解放区で見えた“本来の生徒の姿”
解放区に来た生徒たちは、教室とは全く違う表情を見せました。
・行事では固まっていた生徒が笑顔で話す
・離席ばかりしていた生徒が安心して座る
・提出物を拒んでいた生徒がレポートを書き始める
・不登校気味の生徒が放課後だけ来校する
“安心感が行動を変える”
という教育心理の基本が、生々しい形で可視化されていったのです。
教育現場では「指導」が優先されがちですが、
特性のある生徒に必要なのはまず、
安全基地(セーフベース) です。
それが確保されて初めて、
・課題に取り組む
・人と話す
・学ぶ
・学校に戻る
といった行動が可能になります。
■ しかし——“解放区”は学校文化の限界にぶつかる
解放区が広がるにつれ、生徒の声は管理職にも届くようになりました。
そしてある日、私は校長室に呼ばれました。
「勝手に学校のルールを変えないでくれ。
秩序が保てなくなる。」
この言葉に象徴されるように、
学校にとっては
“新しい居場所”はときに脅威 となります。
学校の論理:
・秩序
・平等
・教室中心主義
生徒の論理:
・安心
・選択
・個別性
この両者が衝突する場面は、教育現場では珍しくありません。
私は粘り強く説明しました。
・解放区は問題行動の温床ではない
・生徒の安心感を高める効果がある
・不登校傾向の生徒の来校支援になっている
しかし結論は
「継続は認められない」
でした。
■ “辞める”という選択が、その後の教育活動につながった
指導方針の相違は、単なる意見のズレではありませんでした。
学校という構造そのものが、特性のある子どもや生徒を救えない仕組みになっている。
そう痛感した私は、
このタイミングで学校を退職する決断をしました。
そしてその後、
教員時代に作れなかった“解放区”を自由に構築できる場所
として、市内で教育支援拠点「SGSG」を立ち上げることになります。
■ “解放区”が教えてくれた、学校に足りない視点
学校は「学ぶ場所」であると同時に、
生徒にとって **“安心していられる場所”**である必要があります。
しかし現場には、以下のような構造的課題があります。
・教室に入れない生徒の受け皿がない
・相談体制が“即時支援”になっていない
・苦手を抱えた生徒が“問題行動”として扱われる
・教師が新しい試みをする余地が少ない
これらはどれも、“特性のある生徒”がつまずきやすい背景です。
👉 支援の第一歩は、
「安心できる場所がある」という当たり前の条件を整えること。
これは学校改革の根本であり、
個々の生徒支援を成功させる最も確実なアプローチです。
■ まとめ——“居場所づくり”は、教育の最前線のテーマ
第3話では、
「解放区」が生まれた背景と、
それが生徒に与えた影響、
そして学校組織との齟齬を描きました。
ここから見えてくるのは、
「教室中心主義」から「多様な居場所モデル」への転換
が必要だということです。
教室が合わない生徒は、どこにでもいます。
しかし、居場所が一つしかないことが、生徒の困難を強めています。
学校は、教室、保健室、図書館、相談室だけでなく、
もうひとつ、“特性のある生徒のための中間的空間”を持つべきです。
その重要性を、私は「解放区」で学びました。
📚 明日の予告
【木曜日】第4話:
「紹介できる場所がない——なら、つくるしかない」
・SGSG立ち上げの背景
・発達特性のある子の学習ニーズ
・「塾に馴染めない子」の存在
・右田氏との出会い
・なないろ学習塾創設への道
をテーマに、学校外の教育資源の必要性と、実務での課題をお伝えします。
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