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できた!がふえる - なないろ式学習法の実践ブログ

学校に馴染めない生徒たち——“解放区”が生まれた背景

2025.12.09 15:00

■ はじめに——「みんなと同じことができない」生徒は、なぜ学校が苦しいのか

県内私立高校で教育相談担当を務めていた頃、私はあることに気づきました。

それは、

「みんなと同じように活動することが苦手な生徒ほど、教室での居場所を失いやすい」

という現実です。

・離席する

・提出物が遅れる

・行事参加を拒む

・集団活動ができない

・朝起きられず遅刻が多い

——これらは特性のある生徒にとって“自然な行動傾向”である場合があります。

しかし学校文化ではしばしば、

「どうしてできないの?」

という“指導”の対象になります。

特性のある子は「がんばればできる子」と誤解されやすいため、

行動が改善しなければ「反抗的」「意欲がない」などと評価されてしまうことも珍しくありません。

こうして生徒は、

「できない自分は迷惑をかけている」

「教室にいてはいけない」

と感じ、居場所を失っていくのです。


■ 既存の相談体制の限界——“月1回のスクールカウンセラー”では間に合わない

教育相談担当になった私は、

学校の相談体制が生徒のニーズに追いついていない

という現実に直面しました。

当時の相談体制はこうでした。

・スクールカウンセラーは月1回来校

・相談枠は数名まで

・予約制で、日程調整に時間がかかる

・生徒は担任を経由しないと相談にたどり着けない

これでは

“今すぐ助けてほしい”生徒には間に合いません。

例えば——

・朝、教室に入れず保健室にうずくまっている

・行事を前に情緒が不安定

・友人トラブルで昼休みに混乱している

こうした“その瞬間の支援”が必要な場面で、

誰も対応できない構造になっていたのです。

これは決して特定校の問題ではなく、

日本の学校全体が抱える“制度的な遅れ”だと言えます。


■ 教室で苦しい生徒は、どこに逃げればいいのか?

特性のある生徒は、教室での集団行動が負荷になりやすく、

・他者の視線

・音刺激

・役割不明瞭な集団活動

・座り続けることの強制

などの刺激により、急速に疲弊します。

しかし当時の学校には、

「教室にいられない生徒が過ごす中間的空間」

がありませんでした。

・保健室 → 病気の子の場所

・図書館 → 静寂が必要、私語禁止

・廊下 → 居場所ではない

・相談室 → 予約制

「逃げ場」に適した場所は、ほぼ存在しなかったのです。


■ そこで私は“小さな実験”を始めた——コンピュータ室の開放

教育相談担当と情報科主任を兼任していた私は、

管轄していた コンピュータ室 が“未利用の空間”であることに気づきました。

放課後、そこを

「教室にいられない生徒の自由な居場所」

として開放したのです。

ルールは極めてシンプルでした。

・何をしてもよい

(漫画、動画、ゲーム、雑談、昼寝)

・出入り自由

・叱らない

・評価しない

・先生も生徒も“素のまま”でいてよい

すると口コミで徐々に生徒が集まり始め、

多い日は十数人がそこで穏やかに過ごすようになりました。


■ なぜ、あの空間は生徒を惹きつけたのか?

理由は明確です。

👉 あの空間だけが、

「みんなと同じでなくても許される場所」

だったからです。


■ 解放区で見えた“本来の生徒の姿”

解放区に来た生徒たちは、教室とは全く違う表情を見せました。

・行事では固まっていた生徒が笑顔で話す

・離席ばかりしていた生徒が安心して座る

・提出物を拒んでいた生徒がレポートを書き始める

・不登校気味の生徒が放課後だけ来校する

“安心感が行動を変える”

という教育心理の基本が、生々しい形で可視化されていったのです。

教育現場では「指導」が優先されがちですが、

特性のある生徒に必要なのはまず、

安全基地(セーフベース) です。

それが確保されて初めて、

・課題に取り組む

・人と話す

・学ぶ

・学校に戻る

といった行動が可能になります。


■ しかし——“解放区”は学校文化の限界にぶつかる

解放区が広がるにつれ、生徒の声は管理職にも届くようになりました。

そしてある日、私は校長室に呼ばれました。

「勝手に学校のルールを変えないでくれ。

秩序が保てなくなる。」

この言葉に象徴されるように、

学校にとっては

“新しい居場所”はときに脅威 となります。

学校の論理:

・秩序

・平等

・教室中心主義

生徒の論理:

・安心

・選択

・個別性

この両者が衝突する場面は、教育現場では珍しくありません。

私は粘り強く説明しました。

・解放区は問題行動の温床ではない

・生徒の安心感を高める効果がある

・不登校傾向の生徒の来校支援になっている

しかし結論は

「継続は認められない」

でした。


■ “辞める”という選択が、その後の教育活動につながった

指導方針の相違は、単なる意見のズレではありませんでした。

学校という構造そのものが、特性のある子どもや生徒を救えない仕組みになっている。

そう痛感した私は、

このタイミングで学校を退職する決断をしました。

そしてその後、

教員時代に作れなかった“解放区”を自由に構築できる場所

として、市内で教育支援拠点「SGSG」を立ち上げることになります。


■ “解放区”が教えてくれた、学校に足りない視点

学校は「学ぶ場所」であると同時に、

生徒にとって **“安心していられる場所”**である必要があります。

しかし現場には、以下のような構造的課題があります。

・教室に入れない生徒の受け皿がない

・相談体制が“即時支援”になっていない

・苦手を抱えた生徒が“問題行動”として扱われる

・教師が新しい試みをする余地が少ない

これらはどれも、“特性のある生徒”がつまずきやすい背景です。

👉 支援の第一歩は、

「安心できる場所がある」という当たり前の条件を整えること。

これは学校改革の根本であり、

個々の生徒支援を成功させる最も確実なアプローチです。


■ まとめ——“居場所づくり”は、教育の最前線のテーマ

第3話では、

「解放区」が生まれた背景と、

それが生徒に与えた影響、

そして学校組織との齟齬を描きました。

ここから見えてくるのは、

「教室中心主義」から「多様な居場所モデル」への転換

が必要だということです。

教室が合わない生徒は、どこにでもいます。

しかし、居場所が一つしかないことが、生徒の困難を強めています。

学校は、教室、保健室、図書館、相談室だけでなく、

もうひとつ、“特性のある生徒のための中間的空間”を持つべきです。

その重要性を、私は「解放区」で学びました。


📚 明日の予告

【木曜日】第4話:

「紹介できる場所がない——なら、つくるしかない」

・SGSG立ち上げの背景

・発達特性のある子の学習ニーズ

・「塾に馴染めない子」の存在

・右田氏との出会い

・なないろ学習塾創設への道

をテーマに、学校外の教育資源の必要性と、実務での課題をお伝えします。

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