画風論:『タクティクスオウガ』『ニーアオートマタ』のキャラクターデザインを手がける吉田明彦氏のハッチングテクニック
僕が尊敬してやまない絵師の一人に、吉田明彦という人がいる。彼はゲーム業界で主にキャラクターデザインを手がけているデザイナーだ。今でも第一線で活躍されているが、今やその仕事はキャラクターデザインにとどまらず、ゲーム全体を統括する役割を担うこともあるようだ。
僕が吉田明彦氏の絵に出会ったのは、スーパーファミコン用としてリリースされた伝説のシミュレーションRPG「タクティクスオウガ」だった。当時の僕は中学生で、テレビゲームに夢中な時期だった。このゲームは伝説になるほどすべてにおいて完璧だった。シナリオ、システム、サウンド、グラフィック、全てだ。その中でも特に僕が気に入っていたのが、魅力的なキャラクターたちを中心としたビジュアルアートだった。そのアートを担当していたのが吉田明彦氏だった。当時は、吉田明彦氏もまだ駆け出しで、本格的にゲームのデザインを始めたばかりだったそうだ。当時、ゲームの公式攻略ガイドブックも購入したが、その理由の半分以上は、吉田明彦氏のキャラクターデザインを見たかったからだ。
年月を経て、この「タクティクスオウガ」は、最終的にサブタイトルとして「運命の輪」の文言が加えられ、PS VITAへプラットフォームを変えて移植されている。僕はまたこれをプレイしたのだが、中学生の頃は理解できなかったシナリオやキャラクターの細かな描写を含めて、改めて感動したのである。
移植のタイミングでシナリオやキャラクターの追加があったのが、なによりの朗報は、画集が改めて販売されることになったことだ。僕は即買いした。吉田明彦氏のアートワークの掲載数は、若手の現役デザイナーのそれに比べてやや少なめではあったが、やはりその一つ一つの作品は感動するクオリティだった。特に表紙の絵が好きだ。メインのキャラクターたちが輪になるようにデザインされている。ゲームに思い入れがあるせいか、時を超えてまたデザインされていることにとても感動した。
最近では「ニーアオートマタ」というゲームのキャラクターデザインもされている。このゲームもまた大人気だ。僕はまだプレイしていないが、時間がとれたらいつかやりたいゲームの一つだ。こちらも設定資料集や美術記録集なるものが出ており、個人的には非常に気になっている。ただ、ゲームをやっていない状況で先に見てしまうとネタバレの可能性があるため、ただグッと堪えているのだ。
吉田明彦氏の画風といえば、ハッチング技法だ。ファンならば即答できるほど、彼の絵の象徴的な要素になっている。ハッチングというのは、細かな短い線を連続的に並べたり、交差させたりすることによって、陰影や質感(テクスチャ)を表現する技法だ。
アナログのペンと紙でハッチングを施した時、「シュッシュッシュ」とリズミカルにペンと紙の擦れる音がするのだが、これがまた耳に心地良い(と、最近iPadで絵を描いている僕が言うと説得力にかけるのだが)。プロの漫画家は、アシスタントがハッチングを施している時に、その音を聞いただけで、うまく描けているかどうかを聞き分けられるという。上手い人ほど、リズムが一定で、自然な音色のようだ。
僕も彼の画風に憧れて、なんどもハッチングを試したものだ。しかし、当然、ハッチングだけが上手くいってもイラストレーションそのものの完成度が高くなるわけではない。やはり全体の調和が重要だ。その点、吉田明彦氏のイラストレーションは、ハッチングが自然に溶け込むような全体の調和がある。彼の画風を真似したいのならば、ハッチングだけでなくその全てを吸収する必要があるだろう。
これまでたくさんのキャラクターデザインを手がけてきた彼だが、意外にもキャラクターの顔の描き方は未だに定まらないようだ。そのあたりの話は、雑誌「illustration 2018年6月号」で語っている。ファンならば完全保存版だと思い、僕も購入して熟読した。彼のインタビュー記事というのは非常に貴重なのだ。また、最近人気のスマホゲーム「グランブルーファンタジー」のキャラクター等のデザインが吉田明彦氏によるものではないか、という噂がネット上に出回ったが、実際は違うようだ。彼の画風に憧れたデザイナーが世の中にたくさんいることを裏付けるような話である。このことについても、この雑誌で触れているので、是非ご一読いただきたい。
画風を真似しても盗作にはならないから、あとはモラルの面でどこまで許容されるのか、という議論はあるだろうが、ここでは控えておきたい。ちなみにpixivでも吉田明彦風のイラストはわんさか見つかるから一度見てみてほしい。
吉田明彦氏は、今もゲーム業界で数多くのキャラクターデザインを手がけられており、かなり長い間、トップを走り続けていらっしゃる。ここまで見る人を飽きさせない、いや、むしろもっと見たいと思わせるイラストレーションの真髄というのは何だろうか。それは絵を眺めているだけではなかなか見出せないし、予想の範疇である。ぜご本人にお会いして聞いてみたいものだ。