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【ウィシュマさん裁判第20回】裁判報告 新美医師の証人尋問第一回目が行われました!

2025.12.10 03:00

名古屋入管死亡事件国家賠償請求訴訟は2022年3月4日提訴し、すでに3年半が経ちました。いよいよ、一審段階の証人尋問が始まり、12月4日はその1回目です。

1回目の証人は、当時名古屋入管で非常勤医師としてウィシュマさんを診断していた、新美医師です。12月11日(木)は新美医師の二回目の尋問、その後、被告側の協力医師一名、原告側の協力医師二名の証人尋問が今月、来月に渡って行われる予定です。

原告側は、ウィシュマさんが入管の収容施設内で亡くなったのは、医療だけの問題ではなく、ウィシュマさんを詐病扱いし、仮放免の許可を出すことなく収容しつづけたという収容の問題を主張してきました。そのため、証人尋問には四人の医師だけでなく、当時の名古屋入管局長、収容統括責任者、職員、看護師等、ウィシュマさんと関わりのある人を調べるべきだと証人の申請をしましたが、現状、裁判所は医師以外の申請を採用していません。


〈新美医師の証人尋問について〉

1回目は、被告・国側が先に尋問を行いました。原告側も15分ほど尋問を行いましたが、原告側の尋問は2回目でさらに時間をとって行われます。

新美医師は、2021年1月28日、2月4日、2月18日、2月22日の計四回ウィシュマさんを診察しています。「食事をとれない人がいる。」と名古屋入管から報告を受け、1月26日、新美医師は健康チェックのために採血、尿検査、X線検査、心電図を行うよう指示しました。検査結果は、血液検査と尿検査で異常値が複数個所みられています。

1月28日には初めてウィシュマさんと対面で診察しています。初回の診察で、彼女から足が痛い、唇のしびれがあると訴えがありましたが、新美医師は特定の疾患がはっきりしないため経過観察する必要があると判断し、痛みやしびれを和らげる薬を処方しました。

それ以降、ウィシュマさんの体調はさらに悪化しており、2月4日の診療においては、車いすで移動しました。しかし、診察をした際に彼女が車いすを使用していたかという質問に対して新美医師は「記憶にない。」、「足が痛いという人が車いすで来るのは違和感ない、もしくは廊下で車いすをやめて診察室に入ったのかもしれないので、診療録に車いすの有無は記載していない。」「(ウィシュマさんから)歩けないなどの訴えはなく、訴えがあれば診療記録にも書いているはずだ。」と答えています。また、2月4日の診療の時点で、新美医師は消化器官の疾患が疑われるが、そうでなければ、「過食と嘔吐を繰り返したことは名古屋入管に収容される以前もあった。」と看護師から報告を受けていたことを理由に挙げて、彼女の体調不良の根拠は精神的な要因の可能性があると評価していました。

3回目の診察の前、2月15日に2回目の尿検査を行っており、結果は、ケトン体3+、タンパク質3+といった一回目よりも悪化した異常値が検出されました。特に、ケトン体3+については飢餓状態へと進行している状態にあることをあらわしています。

2月18日の3回目の診察で新美医師としても2回目の尿検査の結果は伝えられたはずですが、新美医師は伝えられた「記憶がない」と主張、しかし、入管の看護師は伝えたと言っているため「記憶はないが、伝えられたのでしょう。」と述べています。飢餓状態を示す検査結果を受けても、血液検査を早急に行うなどの対応をしなかったことについては、「精神的によくならないか」と考えていたため、血液検査を早急に行う必要はないと考えていたと新美医師は主張しました。また、2月18日の診療について尋問を行う中で、点滴を考えていたかという問いがありました。それに対して新美医師は、「全く食事がとれていない状態ではなかった」、「点滴が入管にはないので、自分が判断することを考えていなかった。本人から緩和的な点滴の要望があれば外部に伝えたが、なかったので考えなかった」と述べています。ウィシュマさんは、2月5日に外部の消化器内科を受診し胃カメラ検査をしましたが、疾患が見られなかったことから、新美医師は、外部の精神科医へ依頼書を作成しました。

被告代理人からの尋問の最後には、「ウィシュマさんがなくなったことについては驚いた。亡くなる兆候は見られなかった」と述べました。


証人尋問は、被告代理人が質問項目を読み上げ、新美医師が事前に準備したように当時の診療録を確認しながら淡々と答える形で進んでいきました。

ウィシュマさんが体調不良となっていた当時は、食べても吐いてしまうなかで栄養が取れず、日に日に衰弱していき、自力で歩くこともできない状態でした。しかし、証人尋問での新美医師の発言は、「意思疎通には問題なかった。」「車いすを使用していたかどうかは記憶にはない。」というような、ウィシュマさんの状態がほとんどわからない内容であり、都合の悪いことは記憶にないとごまかし、最終的にはウィシュマさんが亡くなったという事実はありながらも、当時の自らの判断に不合理性はなかったと主張しています。

裁判傍聴をした市民のみなさんからも、「言っていることがおかしい」、「新美医師の陳述書を読むよりも尋問を聞くとより怒りがこみあげてきた」と意見があがっており、新美医師の主張している内容そのものに不合理性や、おかしな点があり、そもそも、医師としてウィシュマさんの命と健康を守る立場から診察を行っていたとは到底考えられません。

 しかし、この問題が新美医師個人の問題で片付けられてしまっては、ご遺族の望む真相究明、再発防止を実現することはできません。新美医師が問題ないと判断した背景について、陳述書では、看護師から嘔吐はしているが食事はとれているという報告を受けていたことや、新美医師よりもウィシュマさんに接している頻度の多い看護師が、ウィシュマさんに命の危険があると認識していなかったから、新美医師も当然そのような認識は持たなかった、という趣旨の主張がなされています。

ウィシュマさんは、吐血を繰り返した1月後半から、自分はこのままでは死んでしまうかもしれないという恐怖を感じていました。このままでは死んでしまうと、職員や支援者に訴え、生きて外に出たい一心から、吐かないで食べられるように工夫をしてなんとか栄養をとろうとしていました。ウィシュマさんの実際の状態と、新美医師や職員、看護師の対応や認識が、あまりにもかけ離れています。その背景には、ウィシュマさんを仮放免で外に出さない、帰国意志をひるがえしたウィシュマさんには自分の立場をわからせなくてはならないという考えを持つ入管の体質があります。

ウィシュマさん死亡事件が解決しないなかで、現場である名古屋入管では、強制送還が強化されています。日本で10年以上生活してきた仮放免者も、次は自分ではないかと恐怖を感じています。ウィシュマさんを見殺しにしてしまった、入管にその反省があればこんなことはできるはずがありません。そして、その入管の差別、抑圧を、日本に暮らす私たちが、ウィシュマさん死亡事件はひどい、かわいそうだと言いながら、また同じように見過ごし、許してしまっていいのでしょうか。


今、裁判は山場にきています。この裁判を医療過誤の問題で終わらせてしまえば、入管の体質を問うことはできません。ご遺族は、客観的証拠である監視カメラの映像の提出、入管職員の尋問を望んでいます。真にご遺族の立場に立ち、真相究明を追及するのであれば、国側が拒否している監視カメラの映像提出、職員の尋問は絶対に実現しなければなりません。

次回は原告団の証人尋問が行われます。入管の体質そのものを問い、本当の意味での真相究明・再発防止を実現するために、日本に暮らすみなさんの協力、支援が必要です。

ぜひ裁判傍聴支援をよろしくお願いいたします。


新美医師の陳述書はこちらからご覧ください。↓

〈裁判期日〉

12月11日 新美医師の証人尋問 二回目

12月24日 被告協力医(野村医師)の証人尋問

1月14日 原告協力医(今川医師)の証人尋問

1月28日 原告協力医(下医師)の証人尋問