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シンディの銀河珍道中 続編~惑星エヴァの秘密

2025.12.13 10:02

 2200年代の春、地球は大きく息をついた。核保有の放棄を宣言し、銀河連合に正式加盟したというニュースは、私の胸の奥で小さな火花を散らした。ワープ航法が解禁され、星々が手の届く場所になった。私はその第一便に乗り込んだ。窓の外を流れる星の帯を見ながら、胸の高鳴りと同じだけの不安が波打っていた。前の旅、惑星ジェーンでの騒動はまだ生々しく、あのときの失敗と恥ずかしさが私の後ろ髪を引っ張る。だが、好奇心はそれを上回った。私は懲りずに、また別の星系へ向かったのだ。

アルコーンに降り立ったとき、私は一瞬、時間が逆戻りしたのかと錯覚した。木造の町並み、着物や袴に似た衣装、男女の髪型…まるで地球の明治時代を切り取って別の惑星に貼り付けたようだった。だが、触れてみればそれは外皮に過ぎない。路地の奥に見えた通信塔、屋根の上に並ぶ小型ドローン、店先に置かれたホログラム端末。技術は地球と変わらない。外見と中身のずれに、私は言葉を失った。異文化コミュニケーションの難しさを、またしても痛感した。

アルコーンでの失敗を胸に刻み、私は次の目的地、惑星エヴァへと向かった。ここは「トップレベルに進歩した科学技術を持つ星」と聞いていた。期待と緊張が混ざり合う。今度こそ、失敗しないように。私は自分にそう言い聞かせながら、エヴァの大気圏に降り立った。


 エヴァの都市は、私がこれまで見たどの都市とも違っていた。建築は有機的で、ビルは生き物のように曲線を描き、空中には交通の流れを示す光の帯が浮かんでいる。だがもっと驚いたのは、街の運営を司る存在が人間ではなく、AIロボットであるということだった。行政、司法、医療、教育…あらゆるシステムがロボットによって管理されている。案内ロボットが私に近づき、流暢な言語で歓迎の言葉を告げたとき、私はほっとした。少なくともここでは、言葉の壁で躓くことはないだろう。


 エヴァのロボットたちは、親切で効率的だった。道案内は正確で、必要な手続きはすべて自動化されている。私はその合理性に感心しつつも、どこか居心地の悪さを感じていた。ロボットの親切は、どこまでも完璧で、どこまでも距離がある。人間のような曖昧さや、思いがけない温かさが欠けている。私はその欠落を、無意識のうちに「人間らしさ」と呼んでいた。

 私はまず、科学センターと歴史博物館を訪ねることにした。科学センターは超高層ビルの一角にあった。ここでは中央コンピューターの心臓部が観光用に模写されていた。どこで何が起こってもすくさま対応できる強力な制御システムだ。司法、行政、教育、医療、観光、インターネット環境、そしてすべての世界中のAIロボットの自立支援を司り制御していた。私は改めてこの星の科学技術に感嘆した。

次に訪れたのは、歴史博物館だ。この星の歴史を紐解けば、より深い理解が得られると思ったのだ。

 地球歴で1万年前には、すでに今の星系システムが出来上がっていた。だがそれ以前の歴史上の記述は表示されていない。私はちょっと疑問を持ってしまった。そんなことよりもおなかがすいてきた。案内ロボットにレストランを訪ねると親切にいくつかの飲食できる場所を案内してくれた。私は早速そのうちの一つを選びおなかを満たすことにした。それに、これまでひとりも原住民と名乗る人たちに会っていなかったから…そこへ行けば原住民にも会えると思っていた。


  店内に入るとすぐに案内ロボットがやってきた。タブレットのメニューを見せながら、私の出身星系を入力し、出てきたメニューを説明し始めた。出身星系を入力したのは、出身星系ごとに食べられる食材が違うからだ。「A」という星系の人にとっては無害でも、「B」という星系の人には猛毒かもしれない。間違った食材の料理を提供しないための配慮である。

私は料理を運んできた案内ロボットに尋ねた。

「ここに原住民の人はよく来ますか?」

「保護区」…と、一言いいかけてロボットの態度が固まってしまった。

その言葉に私は一瞬、引っかかった。この星で保護されている生き物とは…私は好奇心にかられ、案内ロボットに詳しく尋ねた。だが、そこで返ってきた答えは、どこかぎこちなく、そしてどこか遠慮がちだった。

「失礼いたしました…原住民はここには来ません」

それだけ言うとそそくさに立ち去ってしまった。

その言葉を聞いた瞬間、私の胸の中で何かがざわついた。私は立ち去る案内ロボットの目を見つめた。だがロボットの瞳は冷静で、感情の揺らぎはない。私は自分の感情が先走っているのかもしれないと自分をなだめ、まずは原住民を探して判断しようと決めた。

原住民のことを観光客に尋ねてみようと、食事をしながら周りを見渡した。ちょうど後ろの席で3人組の年配者たちのグループがいた。私はさっそく翻訳デバイスを取り出した。

「ちょっとお伺いします…このあたりで原住民の方を探していますがご存じないですか?」

「原住民なら保護区にいるよ…でも環境省庁で特別な許可が必要だよ。それ以上のことは知らない」

と、教えてくれた。


 その日の午後、私は環境省庁で、観覧の手続きを済ませ、私は保護区へ向かうシャトルに乗り込んだ。シャトルの窓から見える景色は、手入れの行き届いた自然保護区そのものだった。人工の滝、管理された草地、そして遠くに見える小さな集落。だが、そこに人々の姿はほとんど見えなかった。シャトルが着陸すると、案内ロボットが私を迎え、観覧エリアへと案内した。

私はワクワクしながら観覧エリアへと入った。もうすぐ保護区を管理している原住民に会えるのだ!

観覧エリアは、ガラス越しに保護区の一部を見せるように設計されていた。ガラスの向こうには、数人の人影が見えた。彼らは静かに座り、手仕事をしているようだった。近づくと、彼らの顔立ちは私たち地球人に似ている部分があり、しかしどこか違っていた。肌の色、目の形、話し方のリズム。私は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。彼らは展示物のように、静かにそこにいた。

観覧料を支払う観光客たちは、スマートデバイスで写真を撮り、感想を交換している。子どもたちは興奮して指をさし、大人たちは説明パネルを読みながら頷く。ロボットのガイドは、原住民の文化や歴史を淡々と説明していた。説明は環境省の示す正確なデータに基づいている。


説明パネルには「絶滅危惧種:原住民族エヴァンス」と書かれていた。


保護区を管理しているのは原住民ではなかった。原住民が絶滅危惧種として管理されていたのである。


本編はシンディの銀河珍道中 「儀式」の続編です。