知れば、知るほど、好きになる「ショービズ界の4大アワード」「オーケストラの打楽器?」
演劇の小箱
「ショービズ界の4大アワード」
テニスの4大大会のように、アメリカのショービジネス界にも4大アワードがあります。音楽のグラミー賞(授賞式は1〜2月)、映画のアカデミー賞(2〜3月)、演劇のトニー賞(6月)、そしてテレビのエミー賞(9月)。いずれもその分野における最高の栄誉と位置づけられ、受賞すれば後世に名を残すことになりますし、ノミネートだけでも経歴に箔がつくことは間違いありません。
その4大アワードを、全制覇した人がいるのをご存知でしょうか。Emmy / Grammy / Oscar / Tonyの頭文字をとって“EGOT”と呼ばれる快挙を成し遂げたのは、史上たったの15人だけ。昨年秋には、「ジーザス・クライスト・スーパースター」「エビータ」などで知られるミュージカル界の大御所アンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライスのコンビが、唯一手にしていなかったエミー賞を受賞したことで、EGOTを達成しました。
じつは4大アワードのうち3賞を獲得し、EGOTにリーチをかけている人が大勢いるのですが、残るひとつを取るのが最大の難関。なかなか達成できないからこそ、アメリカではアワードシーズンを迎えるたびに、EGOTの話題がメディアを賑わせるのです。
いずれの賞も、業界関係者が投票で選ぶのが共通点。一番少ないトニー賞でも約850人、アカデミー賞は約6千人、グラミー賞は約1万3千人、エミー賞は約2万4千人の業界人が、プロの目で評価して票を投じる。だからこそ受賞は最高の栄誉ですし、観客にとっては作品選びの目安になってくれます。KAAT神奈川芸術劇場では3月19日から、トニー賞で振付賞など4部門に輝いたミュージカル「パリのアメリカ人」が上演されるので、お見逃しなく。
文:浮田久子
イラスト: 中心にメダルが輝くトニー賞のトロフィー
楽器ミュージアム
オーケストラの打楽器?
ミュージカル「パリのアメリカ人」は、ガーシュウィンが1928年に作曲した同名の交響詩を基にしています。この管弦楽曲でガーシュウィンは、タクシーの警笛をパリから取り寄せ用いました。このような「楽音(がくおん)」ではない音を出す楽器(?)は、オーケストラでは多くの場合、打楽器セクションが担います。今回はそんな打楽器のお話。
20世紀初め、マーラーは「交響曲第6番《悲劇的》」(1903-04)で、細い枝を束ねた笞(むち)、牛の首に吊り下げるカウベル、さらに大型の木槌(ハンマー)などを用いました。この規格外の打楽器に人々は驚愕し、右のような風刺画が週刊誌に載るほどでした。1917年には、パリ・シャトレ座で初演されたバレエ「パラード」(コクトー台本、ピカソ美術)で、作曲者のサティはサイレンやタイプライター、ラジオの雑音、ピストル、空き瓶などを用い、その奇想天外さに会場は騒然としたそうです。「黄金の1920年代」に入ると、ヴァレーズが楽器の制約から「音楽を開放」するとして、ニューヨーク消防署のサイレンを管弦楽曲に用い、時代の喧騒にふさわしいモダンな響きは大いにもてはやされました。
以降、現代音楽の作曲家たちは自分をとりまく環境からさまざまな音=打楽器をオーケストラに持ち込み、新しい響きを探求していきます。日本の主要作曲賞を総なめにした坂田直樹氏の「組み合わされた風景」(2016)では、蛇腹ホースを振り廻す、アルミホイルやレジ袋を擦るなどした音を楽器音と重ね、斬新な響きをオーケストラから引き出しました。新たな音響世界を開く現代管弦楽曲、要注目ですね。
Photo:
週刊誌『DIE MUSKETE』1907年1月19日発行。画の下の「警笛を忘れてた! これでもう1曲交響曲が書けるぞ」の言葉は、「パリのアメリカ人」を予言しているかのよう
©Lebrecht Music & Arts / Alamy Stock Photo