映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』レビュー
映画『A Big Bold Beautiful Journey』を観てきました。
友人の結婚式で偶然出会った、見知らぬ男女──デヴィッドとサラ。
式の帰り道、デヴィッドの車のGPSが突然、こう問いかけます。
「素晴らしい旅に出ませんか?」
彼がその誘いに応じると、GPSは二人を再び引き合わせ、森の奥に現れた一枚の不思議なドアへと導きます。
ドアを開けた先に広がっていたのは、二人がかつて「やり直したい」と願った過去の瞬間でした。
この映画は、はっきりと「統合」の物語です。
デヴィッドが訪れる灯台、サラが母と通った美術館、高校時代の記憶──
ドアを開けるたびに、愛されたかった記憶、傷ついた記憶、大切にしていた記憶が、静かに立ち上がってきます。
それは単なる回想ではありません。
過去に戻るための旅ではなく、過去と向き合い、癒し、未来を変えるための旅。
久しぶりに、深くセラピー的な映画を観た、という感覚が残りました。
特に印象的だったのが、出だしのGPSとのやりとりです。
“Do you want to go on a big, bold, beautiful journey?”
デヴィッドが「Yes」と答えても、GPSは先へ進ませません。
“Say it again, David. Like you mean it.”
何度も言わせ、最後には情熱と魂を込めて言うことを求めます。
そしてついに、デヴィッドは叫ぶのです。
“I wanna go on a big, bold, beautiful, motherfucking journey!”
この場面、人生に必要です。
人は、本気でコミットしないと、ナビが作動しない。
「なんとなく変わりたい」「できれば楽に変わりたい」──
そんな腰の引けた願いでは、扉は開かない。
扉は目の前にあるのに、
「開ける」と決めない限り、人はずっと立ち尽くしている。
「変わりたい」と言いながら、過去と向き合う覚悟、痛みを感じる覚悟、手放す覚悟がなければ、何も動かない。
ナビは、沈黙したままです。
デヴィッドが魂を込めて叫んだ瞬間、旅は始まりました。
あのシーンには、「コミットメントの境界線」がはっきりと描かれていました。
過去にYESと言うこと。
自分にYESと言うこと。
それが、人を自由にします。
過去を「なかったことにしたい」「忘れたい」と抵抗するほど、私たちは過去に縛られる。
でも、「あれも私だった」「あの痛みも、確かにあった」と認めた瞬間、初めて過去から自由になれる。
傷ついた自分、失敗した自分、愛されなかった自分に、
「それでも、あなたは私だ」とYESを言えたとき、未来が開く。
デヴィッドとサラがドアを開け、過去の場面に足を踏み入れていく姿は、
過去をやり直すためではなく、過去を受け入れ直すための旅そのものでした。
否定していたものを統合する。
拒んでいた自分を抱きしめる。
過去を解き放つことでしか、本当の意味で前には進めない。
「どうせまた傷つく」
「うまくいくわけがない」
「期待してダメだったら怖い」
「前もこうだった」
これは全部、今の判断に見えて、
実際は過去の記憶の再生。
未来は、どこか遠くにあるのではなく、
すでにフィールドに存在していて、
私たちがコミットできるかどうかを待っているのです。