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モーニングの着こなし

2019.03.05 08:22

下の画像は、日本における一般的なモーニング像である。



次に、今日の英国における着こなしをご覧いたただきたい。

比較してみて、いかがだろうか。


「モーニングはダサい」などと言うのを何度か聞いたことがあるが、2枚目の着こなしはとてもスマートに見えるのではないだろうか。


もう1枚、写真をご覧いただきたい。

上の写真は、英国首相であったネヴィル・チェンバレン氏(1869-1940)である。


ウィングカラーのシャツに縞タイ、これはまさに、日本におけるモーニング像そのものではないか。


彼は、普段のスーツでもいつもウィングカラーという19世紀的なスタイルが好みだったらしいが、1930年代頃からは、ウィングカラーはもはやオールドファッションなスタイルであった。

この写真(左から英国外務大臣ハリファックス伯爵、米国国務次官ベンジャミン・サムナー・ウェルズ氏、英国首相ネヴィル・チェンバレン氏、在英米国大使ジョセフ・P・ケネディ氏)でも、ウィングカラーはチェンバレン氏のみで、他は皆ターンダウンカラー(いわゆるレギュラーカラー)である。


下の写真の右、当時の英国王ジョージ6世(1895-1952)もターンダウンカラーを合わせている。

戦前に時代遅れとなってしまったスタイルが、2019年の日本では未だにほぼその姿を変えずに生き残っている。


「生きた化石」同然である。


紳士服量販店やネット上で説明されているこの着こなしは、大正時代ころのカタログや紳士のための洋装指南書に描かれているスタイルがほぼ変化せずに続いてきたものと考えられる。


しかしながら、最初に述べた通り、現代の英国王室では、モーニングドレスにウィングカラーを合わせるスタイルはもはや20世紀後半頃から廃れているし、タイは色とりどりである。


モーニングコートの下のウエストコートも、色物も非常に多く見られ、特に多いのは黄色や水色などで、ダブルブレステッド(2列ボタン)のものが人気らしい。逆に黒はあまり見られない。


もちろん黒のウエストコートに白襟をつけるスタイルも健在であるし、チャールズ皇太子は2回目の結婚式で、グレーのウエストコートにも白襟を付けている。


日本ではなぜか色物のウエストコートはほとんど見られないように感じる。


辛うじてグレーのウエストコートは結婚式などで見られるが、それも


「主役の新郎はグレー、目立ってはいけない父親は黒」


というような暗黙のルールもあるようだが、本来はそのような決まりはない。


欧米の結婚式などでは来客もグレーや色物のウエストコートで式に華を添えている。

  

おそらく、今のように情報がすぐに大量に入手できなかった大正時代頃には、限られた本の挿絵や写真などから「モーニングとはこういうものなのか」と、その通りにそっくりそのまま真似するほかなかったと考えられる。


本の挿絵画家が挿絵を書くにあたって参考にした写真の人物が、たまたまシルバーの縞タイを着用していれば、きっとその通りに描いただろう。


そもそも当時は白黒写真なども多かったから、色は正確に伝わらなかった部分も多かったのかもしれない。


上の画像のような資料を見て、それを着こなしの参考にした人々が


「フロックコートは黒の襟飾りなのか」


「モーニングのネックタイは無地か縞なのか」


「チョッキは黒で、羽織の半衿のようなものを装着するのか」


などと思い込んでしまったのだろう。


そうなると、もはやそれ以外を選択する余地がなかったのかもしれない。


私は、誤った解釈をしてしまった昔の人々を非難し、責めることはできない。


彼らが得られる情報はわずかなものだったのだから。


しかし、今はいくらでも検索できる時代である。


それなのに、モーニングドレスにウィングカラーを合わせるのは既に過去のスタイルでら今はターンダウンカラー(レギュラーカラー)が一般的だということを知っている日本人はどのくらいいるのだろうか。


胸に挿すハンカチーフは白のスリーピークス、というルールの根拠はどこに明記されているのか。


これは大手紳士服専門店の店員でも知っている人は少ないと思う。


昔から世界の礼装のリーダー的存在であり、伝統をみだりに変化させることを忌み嫌い、未だに18世紀のような軍服が残っているような英国王室ですら、戦後には(燕尾服着用時を除いて)ウィングカラーはとっくに捨てたし、タイやハンカチーフも色とりどりなのだから、やはりそれが時代に合ったスタイルなのだろう。


ダウントン・アビー(Downton Abbey)という、時代考証が忠実な英国の歴史ドラマを観てみると、1920年代中頃にはもはやウィングカラーより普通のターンダウンカラーが見られる。


襟先が丸まったターンダウンカラー、すなわちラウンドカラーも当時の流行だったらしい。


その後、1930年代以降になると、ウィングカラーをつけているのは、それこそ最初に述べたチェンバレン氏やウィンストンチャーチル氏のような、19世紀生まれの堅物、古い人間というような印象ももしかするとあったのかもしれない。


「ダウントン・アビー」では、1920年代始め頃まではウィングカラーだった伯爵(1866年生まれで60代の設定)も、その後1925年にはターンダウンカラーを着けている。


タイに関していうと、もともとモーニングに合わせるタイの色や形に決まりはなく、時代によってはアスコットタイ(クラバット)やボウタイが合わせられることもあった。


現在では、ロイヤルアスコットでモーニングを着用する際には通常の結び下げタイのみというルールがあるものの、色や柄に関する決まりはない。


以下、参考としてダウントン・アビーの1920年代のモーニングスタイルを載せておく。


シャツのカラーやタイの形や色、胸のハンカチーフなどをじっくり観察していただきたい。


「そんな勉強までしてモーニングを着こなしたくはない。別にダサいままで良い」

という方には無駄な説明だっただろうし、


「私はチェンバレンのような19世紀のスタイルを貫きたい」という方はそのままで結構である。トップハットやステッキを添えればより当時のスタイルを再現できる。


ただ、「モーニングはダサい」という印象は何がなんでも払拭しなければならない。