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lander labo

メディア流 社会課題への向き合い方 #1

2019.03.06 10:00

女性の働き方生き方を特集するメディア/個人をlander laboが逆取材する新企画。どういう意図や目的で発信しているのかを掘り下げ、各々の社会課題への向き合い方を伺います。


第一回目は元ハフポスト日本版副編集長で現在フリーランスの編集者・ライター、笹川かおりさん。国際ニュースメディアで女性の働き方・ワークライフバランスや家族のあり方など、多角的な視点で社会課題を独自に特集し続けている。女性活躍推進に取り組むきっかけから、過去の取材での思い出、自身が感じる責務などを詳しく伺い、笹川さんの哲学に触れます。

◆Profile◆

笹川かおり(ねこさんと呼ばれています)(@kaori_sasagawa)/編集者・ライター 元ハフポスト日本版副編集長/30代


Q1:HUFFPOST日本版はどのような媒体?

「2月からフリーランスの編集者・ライターとして活動しています。私がいまも関わっているハフポスト日本版は、『会話がはじまる』(Conversation Starts Here)ことを大事にしています。ジェンダーや、LGBT、働きかた、これからのエンタメなど、様々なイシューについて、記事をきっかけに議論が生まれるようなメディアを目指しています。」


Q2:HUFFPOSTが女性活躍のために行なっている社内での取り組み内容は?

「ハフポスト日本版は、報道媒体ではめずらしく女性のニュースエディターが過半数の編集部です。#Metoo や医学部入試のニュースなど、当事者の目線を持ちながら積極的に発信しています。 仕事は、リモートワークが認められているので、チャットツールの『Slack』やビデオ会議ツールを使って、子育てや介護をしている人もそうでない人も、場所を問わず働いています。他にも、生理痛の重い同僚の提案で『生理休暇』ができました。柔軟な働きかたができる環境です。 」


Q3:笹川さんが女性に関する記事を多く執筆する理由は?

「自分が女性というマイノリティであることを実感しているからですね。自分の疑問を、記事や企画を通して、読者や識者のみなさんと一緒に考えられたら、社会が変わるきっかけになればいいなと思いながら書いています。

2018年のジェンダーギャップ指数(WEF)は、日本は110位でした。男性の育休取得率は、5.14%(2017年)。数字にすれば男女格差は歴然です。政府が女性活躍を掲げても、共働き世帯が大半になっても、実際のところは長時間労働やワンオペ育児、待機児童などの課題が、根強く残っていて働きやすい社会とはいえません。 日常でも、メイクやおしゃれ、家事育児、料理、気遣い…日本の女性はもう十分に頑張っていると思います。女性が生きやすい社会になれば、それは他の人にとっても生きやすいはず、と思っています。 」


Q4:(上記の質問に対して)また、そのきっかけは?

「実は、ハフポストのフロントページが、男性の写真ばっかりだな…と感じたことがきっかけです。

時事ニュースの主語は男性ばかり。政治家も大手企業の経営者もほとんど男性で、『この国の意思決定って男性がしているんだな』と実感しました。もともと、出版社で編集の仕事をしていたので、リアルな男女格差を肌感覚で理解していなかったんです。

それから、サイトにもっと女性の顔を増やしたい、活躍している女性を伝えたいと思って、当時は『Woman’s Story』などの企画をはじめました。同企画は、様々なジャンルで活躍する女性に焦点を当て、女性の働き方やライフストーリーをテーマにしたインタビュー記事の連載です。」


Q5:記事・媒体が人々にどのような影響を与えることを目的としている?

「働きかたや男性の育児参加の記事は、当時は終電まで忙しく働いていた夫に向けて書いていたところもあります。このままでは子どもは産めない、働けないと(笑)。自分のリアルな悩みが企画につながっています。その後、記事を読んだ夫は早く帰ってくるようになりました。

世の中の当たり前の枠がほんの少し広がるような、固定観念を解きほぐすようなストーリーテリングを工夫しています。具体的には、考え方が変わる、明日の『時間』や『お金』の使い方が変わる、10年後の暮らしが変わる、そんなコンテンツを出したいと思っています。

炎上しがちなテーマも、海外の事例だと素直に読んでもらえることが多いです。ズボラに思われるカンタン家事育児も、午後4時に退社して保育園に直行する働きかたも、海外では当たり前みたいな(笑)。フィンランドやドイツ、フランスなど、海外の多様なライフスタイルを伝えることで、みんなが少しずつラクになる、そんな空気を作る工夫をしています。」


Q6:今まで記憶に残る記事の企画やその出演者は?また、どのような点が印象的だった?

「国際女性デー(3/8)関連の特集を担当したときに、編集部でアルバイトしていた学生が『私がフェミニストになった理由』という記事を書いてくれてました。ひとりの学生が、真正面から、この繊細なテーマで声を上げてくれたのはうれしかったですね。エマ・ワトソンの国連スピーチなども発信してきましたが、若い世代にちゃんと刺さっていたんだなと実感しました。

あとは、2016年に『保育園落ちた日本死ね』のブログが話題になりました。私もブログの中の人にインタビューしましたが、Webメディアで発信していた側としては、ネット発の大きなうねりが国会で議論されて、待機児童の問題が一気に解決すべき問題になったのは記憶に残っています。」


Q7:社会で活躍する女性は増えてきていると感じる?

「共働き世代が当たり前になり、子育てしながら働くのが一般的になりました。正社員だけでなく、フリーランスや女性起業家も増えてきていますし、一つの所属にしばられない働きかたが広まっていると感じます。

2018年の女性管理職は約7%、衆院議員の女性の割合は10.1%と、まだまだ政治や経済の分野で、リーダーシップを発揮する女性は少ないのが現状ですが、社会に居場所のある女性はたくさんいます。」


Q8:なぜ女性は男性に比べて、社会で活躍するにはハードルが高いと考えられているのだと思う?

「女性の場合は、子育てや介護など、ライフステージの変化によって、相対的に仕事へのコミットメントが下がるフェーズがありますよね。男性と比べて、長時間労働や飲み会参加などができない状況で、部署異動したり、新規プロジェクなどやりがいのある仕事にチャレンジする機会が失われたりすることも原因だと思います。

ライフの面から考えると『核家族が、個別に家事育児していること』が根本の原因ではないかと感じています。総務省の調査によると、6歳未満の子を持つ夫婦の家事・育児関連に費やす1日当たりの時間は、妻は7時間34分、夫は1時間23分。共働き世帯は、妻は6時間10分、夫は1時間24分です。みんな家事しすぎ…!(笑) 

働き方改革の次は、ライフの方にもスポットを当てて、日本の総家事時間を減らす議論があってもいいのではと思っています。

ワンオペ育児という言葉もありますが、そもそも各家庭で個別に家事育児をしなければいい。コミュニティで子育てしたり、シェアリングエコノミーのサービスを利用して、家事や育児のスキルをシェアしたり…。子育てや家事を外に開いていけば、みんながラクになるのではと思います。」

Photo:家族で沖縄旅行。0歳の子どもを抱いてビーチへ。


Q9:今後、どのような女性が社会で活躍できると思う?

「女性に限らずですが、コンフォートゾーンをはみ出して、いろんな経験を重ねて自ら学んでいく人だと思います。

わたしは出版社で、ビジネス、小説、エッセイ、コミック、実用書…など様々な書籍を企画編集しました。その後、Webメディアで報道の世界にきたことで、海外や日本の時事ニュース、社会問題もフォローできるようになりました。

メディアの立ち上げも経験し、紙やWebのコンテンツ作りや流通も理解できたいま、今後は未来志向で、新しいメディアのありかたや新規事業、リアルな場づくりなど、コンテンツだけにとどまらない『立体的な編集』にトライしていきたいと思っています。」


Q10:世の中に発信する編集者として、笹川さんが感じる自身の責務とは?

「半歩先の時代を読みながら、世の中の空気を作っていくことでしょうか。難しいことをわかりやすく、自分ごとになるようなストーリーを伝えています。

ジェンダーや働きかた、LGBTQなど、ダイバーシティの発信をしてきました。一人ひとりが生きやすい、働きやすい社会を考えていたら、選択的夫婦別姓や同性婚、里親/養子縁組などの課題と向き合うことになりました。そこで、一人ひとりが『誰かとともに生きる』権利について考えようと、2年前に特集『家族のかたち』を立ち上げました。

当時この企画が多くの人に響くかは半信半疑だったのですが…、当初からYahooなどでも大きな反響がありましたし、チームで熱量を持って続けたら、いまでは他のメディアやイベントで『家族のかたち』をたくさん目にするようになりました。

編集長によると、わたしの関心は『世の中の20カ月くらい早い』そうです(笑)。事実婚やLGBTファミリー、里親/養子縁組など、いろんな家族のかたちが当たり前になったのかなとうれしく思っています。」


Q11:女性が社会でより活躍するために、それらに関する媒体が果たすべき役割とは何だと思う?

「メディアによって役割は違っていいと思いますが、企画や記事、イベント、コミュニティなど、様々なかたちで、女性をエンパワーメントしていくことでしょうか。

リーダーとされる人から一般の人たちまで、様々な女性の声をちゃんと吸い上げていくこと。メディアも、専業主婦/ワーママ、管理職/一般職、『ブス』/『美人』などと、安易に女性を対立(分断)させて伝えない姿勢はとても大切だと思います。

人それぞれ、キャリアもスタイルも多様でいいと思います。女性のみなさんが、情報に踊らされるのではなく、自分で選択肢から選べるようになるような発信をしていきたいです。」

Photo:仕事場にて。


Q12:笹川さんにとって『自分らしい』生き方・働き方とは?

「行きたいところに行き、会いたい人に会いにいくこと。いま輝く人の言葉を、多くの人たちに届けること。

仕事と人生はつながっています。時間や場所、空間にとらわれない自由な生きかた・働きかたができればと思っています。」


Q13:より多くの女性が『自分らしい』生き方・働き方をするために、社会に必要なことは何だと思う?

「ひとつは、会社を辞めても、また正社員に戻れる可能性のある社会。

わたしも今年フリーランスになりましたが、昨年までは子育てと仕事の日々でした。自分の時間の使い方を、自分で決められることはとても大事だと思います。拡張家族『Cift』というコミュニティのメンバーや、子育て支援団体『渋谷papamamaマルシェ』の実行委員をしていますが、社会との関わりかたは会社だけではないと思います。

子育てしながらフルタイム勤務を続けられるごく一部の人だけが、管理職に登用される社会よりも、ライフステージに応じて、自分で働きかたをマネジメントできる社会がいいなと思います。

もう一つは、選択的夫婦別姓の実現。これだけ働く女性がいて、旧姓でキャリアを継続する人が増えている現代。事実婚を選ぶカップルも増えていますが、男女平等のひとつの指標として、選択的夫婦別姓の実現をベンチマークにするのは良いことだと思います。」


Q14:世界各地に暮らす女性メンバーで成り立つlander laboに、今後期待する事があれば教えて。

「自分らしい生きかた・働きかたの体現者のみなさんに、その経験をシェアしてもらいたいです。人生のターニングポイントとか教えてもらいたいですね。それぞれのスキル・ナレッジをシェアするオンライン勉強会(コミュニティ)なども面白いと思います。」


Q15:あなたのモットー(座右の銘のようなもの)は?

「責任をとれば、自由になれる。仕事で立ち止まったときも、この言葉に何度か救われました。自分の人生にも責任を持てたら、自分らしく生きられると思います。」


《編集後記》

本企画のインタビューを快諾してくださり1月の帰国時にはじめてお会いしました。ハフポスト創刊の2013年から今日まで社会の動きは激動でしたよね。今まで黙視されてきた社会問題もやっと口に出せるようになってきた。大きな変化だと思います。この流れに確実に影響を与えた笹川さん、ご本人の前だとついつい色々と話したくなってしまうのも才能なんだなと思いました。今後新しい環境でどんな活動をされていくのか本当に楽しみです。(by Mutsumi from LA)


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