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源法律研修所

市町村から都道府県への逆分権

2025.12.28 09:03

 下記の記事によると、「政府は、人手不足で市町村が担いきれない自治体業務を都道府県が担うなど、市町村事務の再編・統合に向けた検討に入る。2026年1月にも政府の地方制度調査会で議論を始める方向だ。住民に身近な自治体へ事務や権限を移してきた地方分権改革が、人口減少などの社会変化で転換を強いられつつある。」

 「近年、地方の市町村では技術職などを中心に公務員のなり手が不足。事務処理に支障が生じかねない状態になっている。総務省幹部は「地方分権は転換点に来た。放置すれば、10年後には自治体業務が回らなくなる。いま手を打たなければならない」と危機感を話す。」

 自治体職員研修で、「2040年問題を知っていますか?」と問いかけると、ほとんどの職員さんはご存知ない。

 若手職員さんなので、危機感が希薄なのは致し方ないが、役所の中核を担う頃に大変な状況になっているわけで、注意喚起を行なっている。


 また、2040年が近づくにつれて、市町村同士の横の連携・協力が不可欠になり、将来的には合併に向かわざるを得なくなるだろうし、市町村では対応し切れず、都道府県の役割が大きくなるだろうと述べている。

 その上で、市町村同士の各種協力制度を述べたり、市町村から都道府県への事務委託等を説明している。


 記事にもあるように、道路、上下水道、介護保険など、画一性・共通性が高い事務については、都道府県が処理する方向へ向かわざるを得ないのではなかろうか。


 現行法上でも、市町村から都道府県への権限移譲は、可能であり、実際に、個別の事務については行われている。


 ただ、画一性・共通性が高い事務について、都道府県内の全市区町村が都道府県に権限移譲するとなると、例えば、道路一つとってみても、「なぜ隣の市が先で、うちの町や村が後回しなんだ!」というような市町村間の利害対立が生まれるだろう。

 この調整は、極めて困難であるが、都道府県議会議員にとっては新たな利権になり得るし、地元市町村選出の都道府県議会議員がいるかどうか、その議員の議会内での力の強弱が市町村に差をもたらす可能性がある。人口減少に伴って、議員定数削減と選挙区の区割りを巡って、これまで以上に争いが激しくなる可能性もある。


 都道府県から市町村への事務処理特例条例は、住民に身近な市町村へ権限移譲することにより、住民のニーズにマッチした行政サービスの提供や取締ができるというメリットがある反面、市町村の事務が増えるとともに、知識経験がない事務負担が職員に重くのしかかる。しかも、事務処理特例条例を制定するには、市町村長と協議するよう義務付けられているけれども、市町村長の同意までは不要なので、事務処理特例条例によって一方的に権限移譲され、市町村を圧迫している側面がある。

 事務処理特例条例の制定・改正について、市町村長の同意を義務付けるべきかも知れない。


 記事によると、「大分県では、知事と市町村長が参加する「新しいおおいた共創会議」で、市町村の事務を検討する実務者のチームを立ち上げた」そうだ。

 市町村が、地域エゴを控えて、限られた資源を如何に有効活用するか、都道府県全体の観点から考え、行動できるかどうかにかかっているのではなかろうか。


 最後に、愚痴になるけれども、平成11年の地方分権一括法による地方自治法の大改正自体が間違っていると個人的に力説していた私としては、「ほら、みたことか!」と言いたい。

 そもそもエリートは、少数なのに(少数支配の鉄則・寡頭制の鉄則)、地方分権をすれば、エリートが足らず、機能しないし、また、地方分権が成功するならば、世界の潮流が地方分権になるはずだが、実際の世界の潮流は、中央集権であって、日本のみが地方分権に成功する保証はない。

 しかも狭い国土で、横並び主義・平等主義が蔓延っている日本では、地方分権よりも中央集権がマッチする。

 憲法が制度として保障しているのは、あくまでも地方自治であって、地方分権ではない。

 それ故、当初から、地方分権は、日本全体を混乱の坩堝に陥れ、機能不全に至らしめる毒薬だ、と言い続けてきた。

 地方分権を推進してきた学者たちは、皆左翼だったことが、私に危機感を抱かせたきっかけだった。危惧した通りになってしまった。。。

 しかし、軌道修正が図られるようになりつつあるのは朗報だ。


 なんにせよ、今後の国の動向には要注意だ。