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大場六夫's Art Random 僕の美術教育論

表現的態度を育む美術教育

2025.12.30 04:17

表現的態度を育む美術教育

教育理念文

私たちは、美術教育を「上手に作るための学習」ではなく、人が人として在るための表現の場として位置づける。

人は、安心が満たされ、自らの内に湧き上がる感覚や思いを受け止められたとき、初めて自由に表現することができる。マズローが示した「表現的態度」は、評価や正解を求める対処的態度を超え、自己と世界を結び直す人間本来の在り方である。

本教育では、見本や完成形を先に示すことをせず、子ども一人ひとりの記憶・感覚・想像を表現の出発点とする。そこでは、結果の優劣よりも、考える過程、試行錯誤、迷い、ひらめきそのものに価値が置かれる。

美術表現とは、技術の証明ではなく、存在の肯定である。

描くこと、つくることを通して、子どもは「自分は感じ、考え、表してよい存在である」ことを身体的に学んでいく。

私たちは、美術教育を通して、

子どもが社会に「適応する力」だけでなく、

自分として生き続ける力を育むことを理念とする。

発達支援向け実践指針

―― 表現的態度を支えるための現場の考え方 ――

1. 完成をゴールにしない

•作品の完成度を目的にしない

•途中経過・立ち止まり・変更を肯定する

•まだ途中だね」ではなく「ここまで考えたね」と捉える

▶︎発達に課題のある子どもにとって、過程が評価されることは安心の土台となる。

2. 見本を示さない・正解を用意しない

•完成イメージを限定しない

•「こう作ってみよう」は提案に留め

•子どもの表現を修正しない

▶︎表現的態度は、「間違えても大丈夫」という環境でしか生まれない。

3. 言語化を急がない

•説明できなくても良い

•これは何?」と意味づけを迫らない

•制作中の沈黙を尊重する

▶︎表現は、言葉より先に身体や感覚から立ち上がる。

4. 技法は必要に応じて後から支える

•先に技術を教えない

•困った瞬間に、最小限で補助する

•子どもの意図を壊さない技術支援を行う

▶︎技法は対処的態度を支える道具であり、主役ではない。

5. 評価は比較ではなく「存在承認」

•他者との比較をしない

•上手・下手の言語を使わない

•「あなたらしいね」「よく考えたね」と過程を承認する

▶︎表現的態度は、評価されない安心の中で育つ。

6. 感覚の違いを個性として扱う

•触れたくない素材があってもよい

•同じ材料を使わなくてもよい

•描き方・持ち方を矯正しない

▶︎感覚の多様性を尊重することは、自己肯定感の基盤となる。

7. 指導者•支援者は「教える人」ではなく「伴走者」

•指示より観察を重視する

•先回りせず、待つ

•子どもの表現に驚き、共に喜ぶ

▶︎大人の在り方そのものが、子どもの表現的態度を決定づける。

結語(実践の核心)

発達支援における美術活動は、

「できるようにするため」ではなく、

『すでに在る力に気づくため』の時間である。

表現的態度が育ったとき、

子どもは自ら考え、選び、試し、やり直す力を獲得する。

それは、美術の枠を超え、人生を支える力となる。