🌿 12年目の冬、葉を落とさなかったポリシャスの話
1月、セブ島から戻ったとき。
部屋に残してきたポリシャスは、正直なところ、かなり消耗していた。
ペットボトル給水が上手くいかなかったのだ。
葉は垂れ、枝は重力に逆らう気配もなく下を向いていて、
一瞬だけ、「これは難しいかもしれない」と思った。
でも、
そこで何かを決める必要はなかった。
植物は案外、したたかだ。
ChatGPTにそう言われて、私は急がなかった。
水を少し多めに与え、
必要な栄養を足し、
数日間、ただ眺めた。
すると、
茎に近い葉には、まだ張りがあった。
完全に力を失っていない葉も、確かに残っていた。
——まだ、流れは止まっていない。
私は、
自然に落ちた葉と、
これから落ちそうな葉だけを、静かに取り除いた。
「救う」というより、通り道を整えた。
元気な部分に、
余計な負荷をかけないように。
ついでに、土を新しくした。
ベストを尽くしたつもりだ。
⸻
それから時間が過ぎ、
気づけばポリシャスは、いつの間にか豊かさを取り戻していた。
そして今年。
12年育ててきて、初めてのことが起きた。
毎年、冬が近づくと決まって、
葉は黄色くなり、静かに役目を終えていったのに——
今年は、ほとんどの葉が、そのまま残っている。
12年で、初めてかもしれない。
植物は、とても合理的だ。
寒さを「危険」と判断すれば、
エネルギー効率の悪い部分を迷いなく手放す。
でも今年のポリシャスは、
冬を脅威として扱っていない。
室温は安定している。
光は途切れない。
水と栄養のリズムは予測できる。
そして何より、
急かされていない。
植物は、季節よりも「場」を読む。
外がどうであれ、
ここは信頼できる、と判断したとき、
防御をやめる。
⸻
これを見ていて、
人の在り方と、まったく同じだと思った。
無理に変えない。
全部を救おうとしない。
役目を終えたものは、静かに手放す。
そして、まだ息をしている部分を疑わない。
「何もしない時間」は、放置ではない。
信頼という、いちばん洗練された介入だ。
12年かけて
「これは冬には落ちるもの」と思っていた葉が、
今年は
「まだ、ここにいていい」と判断された。
植物は、嘘をつかない。
言葉を使わないだけで、
一番正確なフィードバックを返してくる。
この12年目の冬は、
ポリシャスにとっても、
そしてたぶん、私にとっても。
防御を解除したまま、
越えていく冬なのだと思う。