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クーポラだよりNo.130~サタネラのヴァリエーション~

2025.12.30 16:10


サタネラのヴァリエーション(ソロの踊りのこと)を次の発表会で踊るので、その物語の背景をいろいろと調べてみました。


サタネラとは美しい女性に姿を変えた悪魔のことで、名前はサタンに由来します。


原作は1772年、フランスの作家ジャック・カゾットが書き、大あたりをとった『悪魔の恋』という幻想小説です。


『悪魔の恋』の主人公は、ナポリ王国の軍人アルヴァーレです。


今でこそ、ナポリはイタリア共和国の一都市でしかありませんが、1282年から1816年までは、イタリア南部とシチリアを治める強力な国家で、アルヴァーレは、そのナポリ王の親衛隊付きの大尉でした。


ある日、アルヴァーレは兵営で仲間たちと干し栗をつまみに、キプロス産のワインを飲みながら議論を戦わせていました。


いろいろな話で盛り上がりましたが、最後は降霊術が話題となり、それが正真正銘の学問かどうか、また本当にできるかどうかで、仲間たちの意見が分かれました。


ひとりは本当にできると主張し、他のものは、荒唐無稽な詐欺まがいのものだと言い張りました。


仲間たちの中で一番年上の男ソベラーノとアルヴァーレだけは、どちらにも同調せず、黙って聞いていました。


降霊術の話題は甲論乙駁のまま夜も更けてきたので、皆それぞれ自分の宿舎にもどり、アルヴァーレとソベラーノだけが残りました。


二人だけになると、ソベラーノは目の前で簡単な降霊術を見せてくれました。


アルヴァーレは真っ直ぐな精神と豊かな好奇心をもった25歳の青年でした。


自分もソベラーノのように降霊術を使ってみたくなり、彼の教えを乞うことにしました。


ある日、ソベラーノはヴェスビオ山の噴火によって破壊された廃墟の街にアルヴァーレを連れ出し、外の光が入ってこない真っ暗な場所まで行きました。


蠟燭で灯りをともすと、そこは丸天井の下でした。


ソベラーノは丸天井の下の地面に円を描き、神秘的な文字を書き込みました。


神秘な文字が入った円は、パンタクルと呼ばれ、精霊を呼び出すための魔法の円でした。


ソベラーノはパンタクルを完成させると、精霊からどんなことをされても恐れないでいることと、短い呪文とベエルゼビュートを3回唱えることを教えると、出ていきました。


ベエルゼビュートとは悪魔の首領の名前のことです。


ひとりになるとアルヴァーレは急に恐ろしくなりましたが、弱虫な自分は嫌なので、腹を決めて、降霊術を実行しました。


すると巨大な駱駝の頭だけの姿の悪魔が出てきて「何用だ?」と言いました。


アルヴァーレは恐れずに、「もっと小さなものに変身しろ」と命令し、悪魔は子犬になったので、またまた命令を下し、小姓に姿を変えさせました。


悪魔は召使いの服を着た美しい娘に変身し、アルヴァーレの身の回りの世話を喜んで行い、また彼のことを愛していると言って誘惑してきました。


最初は本気にしなかったアルヴァーレですが、美しい娘の姿となった悪魔が、あまりにも優しく世話をしてくれるし、またときには泣いたりもするので、とうとう「ベエルゼビュートを愛している」と言ってしまいました。


しかし、アルヴァーレの愛の言葉を聞いたとたん、美しい娘は元の姿の駱駝の頭に戻り、高笑いしながら大きな口を開けて長い舌を出しました。



かなり要約しましたが、この幻想小説「悪魔の恋」のをもとにバレエが初演されたのは、初版から68年後の1840年9月23日です。


サタネラ役を踊ったのはポーリーヌ・ルルーというフランスのバレリーナで、その振り付けは、「海賊」、「パキータ」の振り付けで知られているマズリェです。

以降、いろいろなバレリーナがサタネラを踊ったようですが、バレエ史に残っているのは、イタリアのアマリア・フェラーリス(1828年~1904年)というバレリーナです。


フェラーリスは、たぐいまれなテクニックの持ち主で、小鹿のように飛び、落ち葉のように降りてくるようだと称されました。


フェラーリスは、ナポリのサン・カルロ劇場を中心に踊っていましたが、ヨーロッパ全土の劇場に招かれて絶賛を浴び、ついにロシアの劇場にも招かれました。


1859年、ペテルブルグの劇場でフェラーリスはサタネラを踊りましたが、その振り付けは、白鳥の湖の振り付けで有名な振り付け家プティパが手掛けています。


プティパはその時に、サタネラのヴァリエーションにパガニーニの美しいヴァイオリン曲「ヴェネツィアの謝肉祭」を起用し、現在踊られている振り付けが確立しました。


私が初めてサタネラのヴァリエーションを見たのは、25年前、2000年の夏です。


大人から始めたバレエに夢中になって、毎日のように通っていたお稽古場に、サキちゃんという礼儀正しくて賢い高校生がいました。


サキちゃんの踊りは基礎がとてもしっかりとしていて、ジャンプは小鹿のように軽やかで、彼女が踊ると溢れるように愛らしいオーラが発散されて、妖精が踊っているようでした。

その妖精のようなサキちゃんが発表会でサタネラを踊りましたが、それを見ていた私は、キューピットの恋の矢に射抜かれようにドキンとしました。


「私もサタネラを踊ってみたい!」向こう見ずにも私は思いました。


発表会が終わったあと、大胆にも私はサキちゃんに懇願して、サタネラの振り付けを教えてもらいました。


サキちゃんは、親切に丁寧に教えてくれましたが、バレエ歴5年、しかも37歳の私には、技術的に踊れる身体能力もなく、まったく歯が立ちませんでした。


私の心には、サタネラへの憧れだけが残り、25年が過ぎようとしています。


バレエのお稽古は何があっても休まず続けてきましたが、それでもサキちゃんのようなサタネラが踊れないのは、わかっています。


しかしもう62歳、そろそろ挑戦しないとタイムオーバーになってしまいます。


発表会の本番まであと40日、悔いのないようお稽古に励み、今持てる技術の範囲で私のサタネラを踊ろうと思います。


2025年12月29日

大江利子