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工学系研究者の時間の使い方1【University Insight】

2025.12.31 03:23

 University Insightでは大学内の一研究者の視点から,大学をもっと良くするためにはどうすれば良いかを考えていきます.


 本記事では,あまりリアルな粒度で語られることのない「大学研究者の時間の使い方」を整理していきます.この理解が進むと,大学としてのアウトプット(教育・研究・社会貢献)をどのようにしたら最大化できるか?が見えてきます.

 私の場合には時間の使い方はこのような配分になっています.その内容を見ていきましょう.

【時間の使い方の内容】

 以下の6要素に分けて整理を進めていきます.それぞれの内容は以下です.

研究:専門分野についての問いを立て,それを説明可能にしたり,社会の課題を解決する新しい方策を考えて実証することを目的とした活動です.学部4年生から大学院の学生は教員が主催する研究活動に参加してその中で学んで行きます.生産技術の研究の場合には研究室内やパソコンの中だけで研究をするわけではなく,工場の現場や学外機関の研究設備も活用します.国や財団,企業からの研究資金調達のための研究計画書の作成や申請も研究の中に含まれると私は考えています.大学が社会に提供する中核的なアウトプットはこの研究活動から生まれます.

学外活動:学会や学外の研究会に所属し,そこでの役割を担うことで社会の動向を察知したり,興味の方向が近い研究者と意見を交わして考えを深める活動です.工学分野の場合には,企業が最前線の現場となる場合が多いため,企業向けの技術開発アドバイザーやリカレント教育を担当しながら現場の課題を理解することも主な目的となります.また,公的な調査等において専門知識を活用したアドバイザリーを担当することも重要な役割です.

研究室事務:研究室にはプレ配属の学部3年生から大学院生まで30名程度が所属します.即ち30件の研究テーマが同時に研究室で動きます.研究に必要な材料や備品の購入や,外部機関での実験,工場の現場での工程調査は研究室の予算を使いますので購入依頼・出張申請などの多くの書類作成と報告書が必要となります.また,研究室の予算(残高)の管理,ワークステーションやソフトウエア,実験装置の整備,実験室の不具合(換気扇が壊れたなど)の補修,ゼミ室の確保,卒業論文の取りまとめや提出など多岐にわたります.この業務そのものが研究であると思い込みたくなるボリュームです.

授業:学部1年生~学部3年生向けに授業を行います.多いときでは週に4コマ×150名(延べ600名)に指導を行います.授業前には1時間程度話す内容を整理してから臨みます.技術者としての考え方や基礎学力,実務能力を養う大学のアウトプットとして欠くことのできない要素です.研究や学外活動で得た最新の動向を嚙み砕いて解説したりもします.

授業事務:あえて授業から事務的な部分を抜き出しました.授業用Teamsの作成や,毎回の授業終了後の出席や課題のチェックを人数分行います.また,定期的にレポートや試験を実施しますので,その採点やExcelへの入力,成績評価などを行います.ある程度の基準を決めて自動化することで,精度を落とさずに省力化を図る工夫をする場合が多いでしょう.感染症で休んだ学生に対する追試等も実施します.工学系の場合は大学教員の講義だけでなく,実際に企業で研究開発を行っている技術者をゲストスピーカーとして呼び,講演してもらい教員と対談をすることもしばしばあります.そのための大学への申請や謝金の支払いなども授業事務業務に含まれます.また,卒業研究発表会等のプログラム編成や司会者の手配,参加者へのアナウンス,守秘誓約書の配布と回収など多岐にわたり,担当教員が連携して行います.学生の発表会は単位の認定にもつながる重要な行事です.

大学事務:広報や入試などに関係する委員会に所属し,関連事業のディレクションを担うとともに,学科と大学との意思疎通を仲介することを目的として会議に参加します.実際には,事業全体の進行を見据えたディレクションに加え,学科内書類の取りまとめ,入試・広報関連業務の学科内の工程管理や督促管理,インタビュー学生の募集,パンフレットの文言作成などを担当します.また,教務担当となれば,学科全体の授業編成に関わり,各教員への授業実施の依頼,授業の時期や内容の調整などを行います.


【各要素の関係性】

 上記の要素は独立したものではなく,上流から下流に向けた関係性があります.最上流にあるのが「学外活動」です.大学の内部には実は塑性加工や生産技術の課題はありません.生産技術研究者が生産現場や学会,展示会へ足を運ぶのは,海洋生物学者が海洋調査に行くのとまったく同じです.このような現場との接点から「熟練技術者の減少が続いている」「海外人材の活用に意識が向いてきた」「AIの活用が浸透してきた」「若手技術者の定着率が低くなってきている」「高強度化一辺倒ではなく作りやすさを重視してきた」「電炉材の活用に目が向いている」などの社会の変化を実感として察知することができます.

 現場の具体的な開発課題を,現場の関係者と共に解決していくこと自体も大変やりがいのあることです.さらに,このような現場課題の中から,商品開発に直接には結び付きにくく企業では実施しにくい基盤的・共通的な研究概念を定義していくことができます.ここからが「研究」のフェーズです.それが,科研費などの公的な外部資金を調達するうえでの基礎となります.即ち学外活動が5年~10年先の研究課題の創出に繋がり,新鮮なテーマで研究を続けることが可能になり,学部4年生から大学院の学生の「研究を通した教育」の基盤になります.さらに研究内容は学生に教える授業の内容に反映されます.ここが学部1年~3年生へ向けた「授業による教育」です.社会の現状を学生に伝えることは,社会に出ようとする学生にとっては将来を考える判断材料にもなります.

 このように,学外活動(社会貢献)→研究→授業の順に情報を咀嚼しながら動かしていきます.もちろん知財や守秘については慎重に進めることも必要です.学生は卒業し社会で活躍することによって社会に技術が還元されます.また,研究で得られた成果は論文として蓄積されるだけでなく,学外活動によって直接的に社会に還元されます.


 本記事では,工学系研究者の仕事の6つの要素とそれらの関連性を紹介しました.次回は,事務業務がもし増えた場合,もしくは減った場合にどのような影響が生じ得るか考察していきます.

(続く⇒工学系研究者の時間の使い方2【University Insight】まとめ記事