忘れられない言葉ってありますか?片思いの先に残った、あたたかな「卒業おめでとう」
心に残っている言葉があります。
それは、高校の卒業式の日にかけられた、たった一言の「卒業おめでとう」です。
その言葉をくれたのは、同級生でも先生でもなく、ずっと片思いをしていた男の子のお母さんでした。
彼とは小学校から大学まで同じ学校に通った幼なじみで、幼いころにはお互いの家を行き来することもありました。私にとっては特別な存在でしたが、関係はあくまで淡いまま、長い時間が過ぎていきました。
卒業式の日、式が終わって校舎の外に出ると、彼のお母さんが私を見つけて声をかけてくれました。
「覚えてる?」と笑いながら花束を差し出し、「卒業おめでとう」と言ってくれたのです。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。
当時の私は、周囲のレベルの高さについていくのに必死でした。勉強も運動も、いつも背伸びをして努力を重ねていましたが、それでもなかなか追いつけず、焦りばかりが募っていました。
頑張らなければ置いていかれてしまう、そんな思いに追い立てられ、自分のキャパシティを超えて無理をしていたと思います。毎日が少しずつしんどくなっていましたが、その苦しさを誰かに打ち明けることもできず、心の中にもやもやを抱えたまま過ごしていました。
それでも、なんとか卒業までたどり着きました。
「終わった」という安堵と、「やり切った」という気持ちが入り混じった、不思議な達成感がありました。今思えば、あれほど限界まで頑張れたのは、若い体力と気力があったからだと思います。もう二度と、同じような頑張り方はできないでしょう。
そんな節目の日に、わざわざ私のことを思い出し、会いに来てくれた人がいました。その事実が、何よりもうれしかったのです。
成績でも結果でもなく、「卒業したこと」そのものを祝ってくれる人がいる。その優しさが、張りつめていた心をそっとほどいてくれた気がしました。
結局、その男の子とは自然と疎遠になりました。しかし、不思議と傷ついた気持ちは残っていません。
それよりも、感謝の気持ちのほうが大きく残っています。決して特別な関係ではありませんでしたが、あの日にもらった言葉と花は、今も私の心の中で静かに咲き続けています。
忘れられない言葉とは、人生を変えるような大きな言葉でなくてもいいのだと思います。
ふとした瞬間にかけられた、思いやりのこもった一言が、長い時間を経てもなお、心を温め続けてくれることがあるのだと、今はそう感じています。