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Angler's lullaby

Dream on dreamer

2019.03.07 22:00


「こんな夢を見た。」



それぞれこの言葉で始まる小説と映画がある。


小説は夏目漱石の「夢十夜」。映画の方は黒澤明の「夢」。ジャンルは違えど、どちらも短編集という点も共通している。時代的に考えるときっと黒澤明が漱石を参考にしたのだろう。


漱石の「夢十夜」は10話の内、第1話こそ耽美(たんび)でロマンチックな話しだが、その後はダークなトーンに彩られて、色濃く死の匂いが漂う異色の短編集。


対して黒澤明の「夢」は、随分昔に見た記憶だと、幻想的で美しい作品がいくつかあった。


改めてネットで調べてみると、8話のショートムービーからなるオムニバス形式の作品。


その中でも、もう名前も忘れてしまっていたが、映像だけが頭の中に強く焼き付いている作品があった。


調べてみると、それは、「水車のある村」というタイトル。


透き通るようにのどかで、ほどけるように暖かなその風景は、数十年経っても色褪せない。


ちなみに、このロケ地、長野県の安曇野市(http://azuminolocation.com/work/yume)らしい。機会があればぜひ一度訪れてみたい場所だ。



解禁釣行。1人ダム湖にたたずみながら、あの「夢」の景色を思い出していた。


冷たく静かな湖水、うららかな陽射し。風に舞う木の葉。


「ピーン」という電磁波が届かない深山の風はこれほどまでに耳に甘い。


私を取り囲むもの全てが、美しい。



不満はたった1つ。

それは、魚の気配が全く感じられないということ。


ライズもない。ベイトフィッシュも1匹たりともいない。リトリーブするスプーンにも何も信号は伝わってこない。


う~ん。。。


いつもなら解禁は、(過去に60サイズのヤマメがよく釣れていた)上椎葉ダムにランドロックを狙いに行くのだけど、実はこの秘密のダムで昨年、友人がとんでもないトラウトを釣っていた。


しかもあの椎葉ダムの魚影は年々薄くなるばかりで今季良くなりそうな要素は皆無。


それでここに来たのだが、コチラはアチラ以上に、皆無だった。


まぁ、解禁はお祭りだし、止水のトラウトは一発勝負。ダメな時はダメだ。イライラカリカリせずにゆったりと風景を楽しむことにする。


そして結局、やはり、夕方まで釣りをしても何も起きなかった。風呂に入り、心身をほぐし、夜に合流予定のMURAを車中で待つ。



夜、仕事を終えてやってきたMURAに今日のことを話す。翌日、私はのんびりとダム上流の渓流で遊んで帰るつもりでいた。


すると、ひとしきり私の話しを聞き終わった彼が、


「椎葉行きましょう!」と語気を強めていう。


その時既に、ネット上には毎年椎葉で会う福岡のYさんが椎葉ダムの様子をアップしていた。予想通りの貧果だった。それを知った上での判断。


「釣れないよ?」

「いいじゃないですか。解禁ですから。行きましょうよ。」


なかなか男らしい。


「へぇ、面白いね。よし、行こう。」



翌朝、朝5時に起きて車を走らせる。

ゆうに100㎞以上はあるドライブ。途中、山越えの農道では幻想的な濃霧が車を包む。


到着すると案の定、アングラーはほとんど見えない。実績ポイントに車を近づけると見たことのある車が停まっている。


福岡のYさんだった。


あいさつを兼ねてポイントを覗き込むとちょうど釣り終わって上がってくるところだった。


1年振りの再会にお互い談笑を交わす。状況は、やはり、だった。 


「厳しいですよ~。」とおっしゃるY氏に、 

「いいんですよ。初詣ですから。」と笑いながら返した。


静かな、まさしく鏡のような湖面に2人で並ぶ。


昨日のダムよりは若干の生命感があるが、それでもあの頃の椎葉ダムにはまるでほど遠い。


ポイントを転々とし、ベイトフィッシュを、ターゲットを探し歩くが、あくまで静かな湖面にファイトの波紋が広がることはなかった。


途中訪れたポイントで、沖に係留されたボートが目に留まる。


何年も湖上に浮かび続け、船底の塗装がはげてきている。


そこになぜだか、何ともいえない美しさを感じ、しばらく写真を撮り続ける。


もしあの船に意識があったなら、今どんな気持ちでいるのだろう。


じいっと見続けていると古びた小舟があの有名な絵画、ミレーの「オフェーリア」に見えてきた。


古びた浮舟に名画を見るなんて、おかしな話しだが、これも深山でほんの一瞬訪れた感興。


ほんのうたかたの夢。



肝心のヤマメは、途中毎年ポーズのがれで立ち寄るポイントでMURAが1匹。


私といえばゆうに尺を超えていたヤマメを目前でラインブレイク。


2年連続で解禁ポーズという、まあ、なんだかなぁ、な結果で終わってしまった。


それでも、今年もやっと始まったんだ、という実感が湧く2日間だった。




森羅万象に浸され、つかの間の美しさに魅入られる。


今年もまた、夢追い人たちの夢の時間が始まった。