2026.01 雪
第一章|雪
年が変わって, すでに二週間ほどが過ぎようとしている。
けれど, その事実とは異なり,
何かが切り替わったという実感は, まだ身体のどこにも残っていない。
冬の朝は静かで,
部屋の中の音も少ない。
時間だけが, 淡々と流れていく。
年始に, 一度だけ雪が降った。
勢いよく降りはしたけれど,
地面に積もることもなく,
その場で, 跡形もなく消えていった。
それでも, その雪が通り過ぎたあと,
空気のどこかに,
何かを覆っていた気配だけが残っていた。
年末年始に交わした言葉や,
同じ場所で過ごした時間も,
今はもう遠くなり,
日常の静けさの中にゆっくりと沈んでいった。
街は, 何事もなかったかのように動き始め,
いつもの速度で進んでいる。
それがまだ, はっきりとした形を持たないまま。
第二章|静かな設計
東京に戻り、
いつもの生活が再び動き出している。
朝の支度、移動の時間、
仕事の合間に飲むコーヒー。
特別なことは何もなく、
一日は相変わらずの速度で過ぎていく。
けれど、同じ風景を前にしても、
視線の向かう先が、
去年と少しだけ変わった気がしている。
何を残し、何を紡いでいくのか。
そのことばかりを、静かに考えている。
音も、言葉も、生活も、
大きく動かすのではなく、
ひとつひとつの輪郭を確かめながら、
時間をかけて並べ直していく。
まだ完成図は見えていない。
けれど、描こうとしている線の方向だけは、
少しずつ定まり始めている。
第三章|移動
最近、移動する時間が少し増えてきた。
知らない道を通り、
短い言葉を交わし、
名前も知らない誰かの生活の気配に触れる。
それは出来事というほどのものではなく、
ただ、感覚として残っていく。
ふと年始にふった雪を思い返した。
勢いよく降った雪も、
地面に積もることもなく、
そのまま消えていった。
それに少し似ている気がする。
エピローグ
冬の朝は、まだ静かで冷たい。
特別な出来事が起こる気配もなく、
何かが始まったという合図もない。
雪が降り、消えたあとのあの空気だけが、
そのまま残っている。
いまはただ、その静けさの中に。