一本が出ないときの心の置き方 —— 村島弘之/剣道歴20年
2026.01.16 06:18
試合でも、昇段審査でも、
「一本が出ない時間」は必ず訪れる。
思い切って出たはずの打ちが、決まらない。
機会は見えているのに、身体が動かない。
焦りが生まれ、心が先に前へ出てしまう。
一本が出ないとき、
多くの剣士は「足りないもの」を探し始める。
速さか、強さか、気迫か。
だが、その探し方こそが、
さらに一本を遠ざけることがある。
一本は、取りにいくものではなく、現れるものだ。
出ないときほど、
構えを大きくし、
呼吸を深くし、
間合いを丁寧に測る。
何かを足すのではなく、
余計なものを引いていく。
焦りは、打突を荒くする。
不安は、視野を狭める。
その状態で出た一本は、
たとえ当たっても、剣道として薄い。
一本が出ない時間は、
「打つ準備が整っているか」を
剣道から問われている時間でもある。
攻めが足りているか。
相手を見ているか。
自分の中心が、崩れていないか。
答えは、技ではなく、
姿勢に表れる。
審査では、一本の有無以上に、
その時間の立ち姿が見られている。
打てなくなったときに、
どんな剣道を選ぶのか。
そこで、投げやりにならず、
一歩を詰め、
相手と正面から向き合い続ける。
その姿勢は、必ず伝わる。
一本が出ないからといって、
剣道が崩れたわけではない。
むしろ、
剣道の真価が試されている。
打てない時間を、
「空白」にしない。
その時間を、
剣道にする。
一本は、
静かに立ち続けた先で、
ふと、
こちらを選んでくれる。