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「上手くなる」を手放してみる

2026.01.30 09:00

「いつかうまくなるのかなぁ。」


書道を始めてまもない生徒さんの口から、よくこぼれる呟きです。そう思う気持ちはとても自然で、かつての私も同じように考えながら書いていました。けれど今は、少し違う心持ちでいます。 


本当に、目指すべきなのは“うまくなること”だけでしょうか。私たちは、何かを始めるときに無意識のうちに結果を求めてしまいます。評価されるか、続ける意味があるか、費やした時間に見合う成果が出るか。「どうせやるなら、ちゃんと上達しなくては」 そんな思考に縛られていると、始める前に疲れてしまうかもしれません。


どんなことでもそうですが、数回の練習で劇的に上達することはありません。日々の練習では何も起きていないようで、確実に何かが積み重なっていきます。筆を持つ手の力を抜く感覚が分かる。紙の違いで墨量の調整ができるようになる。腕を大きく動かせるようになり、筆を自然に回せるようになる。昨日よりほんの少し、お手本の線をよく見ている自分に気づく。それはほんの小さなことかもしれませんが、実はとても大切な変化です。


私の教室に来られる方の多くは、書道初心者です。「きれいな字を書きたい」という目的でいらっしゃる方がほとんどですが、しばらくするとこんな言葉が聞こえてきます。「ここで過ごす時間が好き」「心配事でソワソワしていても、スッと心が落ち着く」「書き上げた後の達成感が気持ちいい」


もちろん、続けていけば字は変わります。線も、形も、表情も。でもそれは「うまくなろう」と力を入れた結果ではなく、書く時間を重ねた先にふと現れる“副産物”のようなものです。うまくなることを目指すのではなく、まずは、書くこと自体を楽しむ。楽しいから、自然と続けられる。気がついたら、前より少し自分の字が好きになっている。それくらいの距離感で、ちょうどいいのだと思います。


書道は、競争するものではありません。誰かより上か下かを測るものでもない。自分のペースで、自分の線と付き合っていくものです。以前のコラムで「褒められること」の話を書きましたが、実は一番大切なのは、他人からの評価よりも、「今日も書いたな」と静かに自分を認められる感覚。


無理しないけど、サボらない。

大丈夫です。少しずつでも続けていくことで、あなたの字はちゃんと変わっていきます。