歯くらい」で済ませない
――むし歯放置が命に関わる理由
「歯医者は痛くなってから行けばいい」
そんなふうに思っている高齢者は、実は少なくない。だが、その考えが命取りになるかもしれない――そんな研究結果が公表された。
大阪公立大学と大阪大学の研究チームが、大阪府内の75歳以上・約19万人を対象に行った調査で、むし歯などを治療せずに放置している人ほど、死亡リスクが高いことが明らかになった。
歯の本数と死亡リスクの関係
永久歯は、親知らずを除くと28本ある。
今回の研究では、歯科検診を受けた高齢者について、
* 健康な歯
* 治療済みの歯
* 未治療の歯
それぞれの本数を数え、「健康な歯+治療した歯」の合計本数で6つのグループに分け、約2年間追跡した。
その結果、
健康な歯と治療した歯が0本のグループは、21本以上あるグループに比べて、死亡リスクが約1.7倍
(男性1.74倍、女性1.69倍)に跳ね上がっていた。
年齢や持病などを考慮しても、この差は消えなかったという。
口の中は、体の入り口
なぜ歯が少ないと命に関わるのか。
研究チームの大槻奈緒子講師は、こう指摘する。
> 「口の中でむし歯菌などが増えると、誤嚥性肺炎を起こす危険性が高まります」
誤嚥性肺炎は、高齢者の死亡原因としても多い病気だ。
食べ物や唾液と一緒に、細菌が肺に入り込むことで起こる。
歯や口腔内の環境が悪いほど、そのリスクは高くなる。
「噛めない」ことが招く、静かな衰え
さらに、歯を失う影響はそれだけではない。
東京都健康長寿医療センターの秋下雅弘理事長は、次のように話す。
> 「歯を失うと、肉や魚といったたんぱく源が食べにくくなり、会話もしづらくなる。
> それが筋力や認知機能の低下につながります」
噛めない → 食べられない → 体力が落ちる
話しづらい → 人と話さなくなる → 認知機能が下がる
歯の問題は、静かに全身の衰えを引き起こしていくのだ。
終わりに:歯は「生活の質」ではなく「生存の鍵」
歯の治療というと、「QOL(生活の質)」の話だと思われがちだ。
だが、今回の研究が示したのは、それ以上の事実だ。
歯を守ることは、命を守ること。
痛みがなくても、噛めているつもりでも、
定期的な歯科検診と治療は、高齢期を生き抜くための“医療”そのものなのだろう。
「もう年だから」と諦める前に、
次の予定表に、歯医者の予約を一つ入れてみてほしい。