「自分を食べる」宇宙船?――SFが現実になる日
「宇宙船が自分自身を食べる」
こんなフレーズを聞いたら、まずはSF映画や漫画を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。ところが今、英国の宇宙スタートアップが、その発想を本気で形にしようとしています。
開発されているのは、燃料を使うだけでなく燃料タンクそのものを消費して推進力を生み出す宇宙船。いわば“自己消費型”のエンジンです。
燃料タンク=燃える構造体
この宇宙船の最大の特徴は、長く黒い推進システム部分。
メリディアン・スペース・コマンド創設者のサム・リチャーズ氏によれば、燃料タンクはポリマー(ナイロン)製で、中には過酸化水素が充填されています。
タンクの内側にはねじ山が切られており、底部のエンジンヘッドにはスクリューが搭載されています。モーターに電力を供給すると、このスクリューが回転しながらエンジン内部へと“前進”していく仕組みです。
圧力が高まることで過酸化水素は過熱され、同時にナイロン製のタンク自体が燃焼。
燃えながら推進する=構造を削りながら進むという、まさに「自分を食べる」エンジンなのです。
軽くなるほど、遠くへ行ける
この仕組みの利点は明快です。
燃焼が進むほど宇宙船の質量は減少し、その分、
* より多くのペイロードを運べる
* より効率よくエネルギーを使える
というメリットが生まれます。
これにより、これまでコスト面で難しかった
* 太陽系内部の高エネルギー領域
* 月周辺
* 静止地球軌道(GEO)の外側
といった「科学者が本当は行きたかった場所」へ、小型ペイロードを低予算で送り込める可能性が広がります。
相乗りロケットと、宇宙ごみ削減
打ち上げ方法として想定されているのは、大型ロケットに複数の衛星や探査機を載せる、いわゆる相乗り打ち上げ。
これだけでもコスト削減につながりますが、さらにこのエンジンは軌道上に不要な構造物を残しにくく、宇宙ごみを減らせるという点でも注目されています。
低コスト・高効率・持続可能。
宇宙開発に求められるキーワードが、ひとつのエンジンに詰め込まれているのです。
食べながら進む、その先へ
宇宙船が自分を食べながら進む――。
一見すると奇抜なアイデアですが、裏を返せば「無駄を徹底的に削ぎ落とす」発想とも言えます。
もしかすると将来、宇宙探査の現場では
> 「帰ってこない前提で、全部使い切る」
そんな哲学が当たり前になるのかもしれません。
自分を食べ尽くした先に、まだ誰も見たことのない宇宙がある。
そう考えると、この宇宙船、ちょっと応援したくなりませんか。