「東京ロマンス 重盛君上京す」
NHKの人気放送劇「東京ロマンス」の映画化で、売り出し中の森繁久彌さん主演コメディでもある、「腰抜け二刀流」(1950)と同じ新東宝作品。
戦後のNHKラジオ放送らしく、牧歌的で夢見がちな地方出身者が都会に出て現実を知ると言う展開なのだが、都内の片隅にも善行を行っている人物がいると言う、かなり理想主義的な内容になっている。
音楽劇やオペレッタというほど歌や音楽が多いというわけではないが、ところどころで歌が出てくるドラマになってる。
ラストで森繁が歌う「誰かと誰かが麦畑」の曲は、もちろんドリフターズが歌う10年以上前のことで貴重。
ヒロイン役は、「青春ジャズ娘」(1953)や「忍術児雷也」(1955)でお馴染みの新倉美子さんで、辰巳柳太郎さんの長女ということで、歌もうまければ大変綺麗な方である。
冒頭の田舎の風景は、山があるので地方ロケだとは思うのだが、案外、新東宝の近所の砧あたりで撮っているのではないかと想像したくもなる。
東宝や新東宝がある撮影所近辺は、今でこそ世田谷の一等地だが、当時はまだ田畑が多かったようで、同年公開の東宝「七人の侍」も、オープンセットはこの近辺で撮られていたくらいだから。
主人公の母を演じている武智豊子さんは、初期のテレビでもよくお見かけした方だが、アメリカのホラー映画「双頭の殺人鬼」(1959)では、マッドサイエンティストに作られた改造女を演じていたりしていた。
高嶋兄弟の父である高島忠夫さんも若々しいが、劇中で彼の役が言っている、森繁演ずる主人公の歌は「決してうまくもないし、声をもよくないんだけど、そんじょそこいらの歌い手は真似のできない哀愁ってものがありますね」という感想は、そのまま森繁久彌の歌を言い表しているようにも聞こえる。
三木のり平さんも登場し、後の東宝「社長シリーズ」や「駅前シリーズ」を連想させる部分もあるが、この当時の森繁さんはやけに若々しく見えるが、のり平さんは年上の役を演じているせいか、老成した印象に見えるのがおかしい。
岩手弁に大阪弁と方言だらけなのに加え、森繁さんの早口などもあるので、なかなか聞きづらい部分があるのが残念。
その後の展開は、地方出の青年がよく知らない東京に憧れて状況するが…という、一見「地方人蔑視」みたいにも見えなくはないが、当時はまだテレビが普及していないので、地方の人が東京の情報を地名以外にはほぼ何も知らなかったと言うことは普通だったのだと思う。
本作で一番興味深い部分は、当時の浅草六区の賑わいが映っていることだろう。
有名な芸人を何人も輩出したストリップ小屋「フランス座」がちゃんと映っているのも貴重。
【以下、ストーリー】
1954年、新東宝、西沢実+寺島信夫原作、岸松雄脚色、渡辺邦男監督作品
線画イラストを背景に、「故郷の空」をアレンジしたような曲がかかり、タイトル、スタッフ、キャストロール
田舎道を走る自転車の清ノ木の旦那(柳家金語楼)が、危ない、危ないと言いながらよろよろし、「東山消防団」の法被を着た村の男(坊屋三郎)と正面衝突して転び、自転車は斜面時落ちる。
村の男が倒れた旦那を助け起こそうとすると、道が悪いからなどと言い訳していた旦那は、畑に続く斜面に滑りそちそうになったんで、ほら、言わねえこっちゃねえ…、危ねえって…とまた消防団の男が他の通行人と一緒に助ける。
だからさ、道が悪いって、この道路をな、あの村長に頼んで直してもらわんといかんぞ、こりゃ…と旦那は主張する。
怪我してしまうよ、あんた…と言いながら、消防団の男が旦那を道まで抱え上げると、停車場さ、早う行かねば、重夫が送れんじゃねえか、わしはな、あの重夫の喉を持っといて、こんな草深い田舎に置いとくのは惜しいもんだよと旦那が言うと、んだ、そんでがんすともと村の男が言うので、わし言うてやったぞ、あのお袋のことは心配すめえと旦那は言う。
前から歌勉強し、もし立派な歌歌い手にでもならねば、死んでもこの土を踏んではならねえと!と旦那は力説する。
そのぐらいの覚悟はいるようでがんす…と村の男は答え、斜面から自転車を道に押し上げてやった村人たちが、早うせな、停車場といって旦那に自転車を渡すと、わかっとる、わかっとると旦那は答え、あいつもまたえらい決心をしたもんだねと村の男が感心する。
全くあいつはシベリアで散々苦労、涙したというのに、また歌歌いになるつうんだからねと村の男が言うと、んだ、んだ、何しろ東京は生き馬の目を抜くとところだで…と旦那は答える。
まあ、わしの戦友がの、戦友言うても、この前の前の戦争の時のな、今、浅草と駒形で中華料理やっとるだと旦那は自転車を押して歩きながら説明する。
第四楼いうて、立派なもんだ、そこへわしは紹介状書いてやったと旦那は言うと、偉いもんだな~、ご親切にできねえ、清ノ木の旦那、やっぱ狙いもんだな、できねえと村の男はがベタ褒めするんで、清ノ木の旦那はニンマリ満足顔になり、それほどでもねえけどな、あの親父とわしとは竹馬の友だと旦那は自慢する。
ほんでの、親父が臨終の時は行っててやったらの細い手を出してわしを拝みやがって重夫を頼むちゅうから、心配すな、わしは男だ、引き受けた!と旦那は自慢話を続けるので、後ろに田村の若いのが、旦那、電車が!と心配する。
ああ、わかっとる、わかった、ここ押さえとれ、押せ!と若いのに命じた旦那は、自転車にまたがって駅に向かう。
駅前では、出発する重盛重夫(森繁久彌)を送り出す、ウタスキ村の仲間たちが幟旗を立てて「ごんべさんの赤ちゃん」の替え歌を歌を歌った後、バンザイして見送っていた。
重夫の母(武智豊子)が、それからよ、生水飲まねえこと!などと横からおせっかいを言うので、分かったす、母ちゃんと重夫は答えるが、それからあの…とまた母が言おうとするのえ、分かったって!と重雄はうるさそうに答えると、分かったって、まだ何も言ってねえと母は呆れる。
早く言ってくれと茂夫が頼むと、うん、それから生水飲まねえことと母は同じことを繰り返すので、聞いたもう!と茂夫が苛立つと、それから、まあ、ガツガツ食わねえこと、好みだと思って腹一杯にしねえで…と母が言うので、ガツガツしねえと茂夫が被せると、そうだ!それから東京さ行ったらな、悪い女がいるから誘惑にかかるでねえだぞ、ええ、聞いてるのけえ!と母は返事をしない息子の態度に苛立つ。
聞いてるよ、何だっけかな?と重夫がいうので、うん、それからよ…と母が続けようとした時、ほら、来た!獲れたか?と重夫は、やってきた女性がバケツで持ってきた栗を見て、ありい、栗だな!と喜ぶと、できたこともねえけどと女性はいう。
その様子を横から見た母は、やっぱりお安か?と女性のことをいうので、村たらことねえってと否定した重夫は、夏に安に初めてドジョウ獲らせたんだと重雄は母に女性のことを教える。
薬だべな、あれ、えびっこまで入ってらと茂夫が女性が持っていたバケツの中から川エビを取り出したので、うん、土産で食べなと女性は勧める。
しかし重夫は、栗いらねえやと拒否する。
村人の楽団の音色に送られて重夫はホームに向かう。
その時、顔見知りの娘たちの姿を見たので、おめえ、どこさ行くさ?と娘に聞くと、東京さ、お屋敷奉公に行くだというので、まんず、まんず、あ、お年もけ?と一緒にいた娘にも聞く。
すると娘を連れた男が、さあ、行くんだと娘3人をホームに連れて行くので、その後を追おうとすると、また女子を追っかけて、何しとる!と母が重夫を引き止める。
そこまでついてきた村の連中の中のウタスキ村村長(横山運平)が、重盛重夫君の上京を祝すと共に、成功を祈るために万歳を唱えましょうと音頭を取る。
すると村の週も、めでたいことすな~と喜び、村長が東山村、自慢一等賞!重盛重夫君、万歳というと、村の衆も唱和する。
重夫は帽子を脱いで礼を言うが、あれ?清ノ木の旦那の旦那はどうしたべな?と、気が付く。
そこへ、待ってくれ!待ってくれ!遅くなってすいませんでした!と言いながら、消防団の男が若い衆と2人で到着する。
そうも、清ノ木の旦那が自転車ごと田んぼに落っこちてしまってどうにもならねえわ、よろしく申しておりました、本当にすみませんと消防団の男が説明し、頑張ってくれや!と重夫を励ます。
真面目にやるんだぞ、勝たずば生きて帰らずっと気持ち忘れるな!と消防団の男が言うと、重夫も見送りの衆も全員が、勝ってくるぞと勇ましく~と軍歌を歌い出す。
しかし場違いと気づいて重夫は、やめれ、やめれとみんなを止め、長さん、あんたまたほうけんてきだなと消防団の男に注意する。
長さんは、そうでっか?と応じるが、そこに機関車が到着したので、なら行ってこいや!と村の衆は重夫をお送りだし、列車に乗り込んだ重雄は窓からみんなに手を振って最後の別れを惜しむ。
その時、重夫を引き留めた長老が、東京に着いたら、上野の三四郎に行くのを忘れる出ねえぞと念を押したので、分かってるす!と重雄は長老の耳元で答えたので、長老は、良し!と納得する。
母親もまた重夫に縋り付いてきて、あのな、ほら…と言おうとするので、分かってるよ、生水飲むな、女子気つけるんだと重夫がいう。
汽車の乗車口に来た重夫は、母ちゃん、達者でな!と母親に別れを告げ、見送りにきた村の衆も全員バンザイを叫ぶ。
汽車に乗り込んだ重夫は、ありがとう、ありがとう!と見送りの村の衆たちに窓から身を乗り出して礼を言う。
列車に乗り込み、弁当の握り飯を包んだ新聞紙を広げた重夫は、男子、志を立てて~、共感を得る~♩と歌い出し、食べ終えた新聞紙を窓から投げ捨てる。
周囲の客たちが不思議そうに見守る中、重夫はまだ歌を歌い続け、母ちゃん!行ってくるからな!と窓から過ぎ去っていった故郷の方角に呼びかける。
夜、座席でいねむりをしていた重夫の隣に、ここ空いてますでしょうか?と声をかけてきた女性香取光子(新倉美子)がいたので、空いてますと重夫は答え、席を詰める。
光子は自分のトランクを荷物置きに行こうとするが手が滑ってトランクは重夫の頭の上に落ちてしまったので、すみません!と謝罪するが、重夫は、痛くねえ、痛くねえと痩せ我慢をし、私、上げてあげるといってトランクを荷物置きに乗せてやる。
ありがとうございましたと礼を言い、重夫の横に座った光子は、大丈夫ですか?痛くないですか?とトランクがぶつかった重夫の額を気にする。
大丈夫ですと答えた重夫は、ただ私、大事なギターね、壊れていけないと思って…と横に置いていたギターのことを話したので、あ、ギターですか、なさるんですか?と光子は聞いてくる。
なさるんです、私、歌歌いになろうと思ってと重夫が照れながら答えると、まあ、歌歌いですか!と光子は嬉しそうに聞いてくる。
はい、歌手になってですね、なるでしょう、第三部歌謡曲、はい、次の方どうぞ!一番火の車!と重夫はコンクールのことを言い、どうせ、この世は火の車~♩とギターを奏でながら歌い出す。
すると、寝ていた客が、やまかしい!と文句を言ってきたんで、小さい声でね、お上手だわと光子は小声で褒める。
そうですか?あんたもそう思ってくれるですか?ありがとう、私ね、村ののど自慢で一頭賞取ったす、そしたらね、村の連中がね、そんな良い喉っこ」持ってんのならね、東京さ行って歌歌いになれってね、諏訪市、勧めるもんだから!と重夫はつい自慢をするが、やかましいと文句を言った客は目の前に立って睨んでいたので、今寝るところですとガックリしながら説明し、光子ともどもおやすみなさいと無理やり言う。
重夫は、文句を言う客がまだ横で睨んでいるので、まだいる…と小声で光子に教える。
その後、通路に立った男の顔をさりげなく見ると、まだ睨んでいたので、おばんですと
女子と話すと碌なことねえつってたな…と母の言葉お思い出した重夫に、何かおっしゃいました?と光子が聞いてきたので、家…、そろそろ休みましょうかって言ったんです…と重夫は笑ってごまかすが、その時、重夫が持っていたバケツが床に落ちて、
中に入っていた生物が散らばったので、周囲の客たちは驚いて、何してる!と大騒ぎになる。
慌ててそれを拾い上げようと通路に出た重夫は、ギターの中に生物が入ったことに気づき、慌ててギターを持ち上げて追い出そうとする。
翌朝、機関車は東京の上野駅に到着する。
光子と一緒に汽車を降りホームを歩いていた重夫は、突然、お疲れ様でしたと花束を持った女性やカメラを持った男たちが取り巻き、お疲れ様でしたなどと話しかけてきたので、何だね?と驚くが、何だじゃありませんよ、あなたにぜひABCレコード会社の専属になっていただこうとお宅に連絡したところ、あいにくこちらにお発ちになったあとでね…と話しかけてきた男は言う。
どうして私がその〜、専属ですか?と重夫が聞くと、そりゃ蛇の道は蛇ですよ、岩手県ウタスキ村に素晴らしい天才がいるってことはもう調査済みですからねと相手は言い、どうぞよろしくと言いながら2人の女性が花束を渡してきたので、重夫は感激し、光子も横で大喜びする。
重夫は、ありがとう、私、こうでもしなければなかなか掘り出し物は掴めねえですよねと自画自賛し、光子も、良かったわね〜、そんなにすぐチャンスが来るなんてと言ってくれる。
カメラマンに驚いた重夫が、何ですか、あんたたちは!と怒ると、ニュースですと言うので、あ、世界ニュースですか、あ、いや、お願いしましょう、あ、光子さん、あなたもご一緒に、そいじゃあ、近くに寄ってねと言いながら、カメラに向かってポーズを取る。
それを横から見ていた光子が、動いて良いのよ、ニュースだからと教えると、いいですねえ?動いて良いの?と重夫はうつしているカメラが動画ということに気づいてなかったことを知る。
それじゃあ、こちらからやりましょうと、重夫は少し後ろに戻ると「会津磐梯山」を歌いながら動いて見せる。
しかし、それは重夫が列車内で見ていた夢で、大声で寝ぼけて歌う重夫で目覚めた光子は、荷物置き場に置いていたはずのトランクがなくなっていることに気づき、大変です、荷物取られたんです!と慌てて揺り起こしたので、誰の?と目覚めた重夫が聞くと、私の!と光子が言うので、起きた重夫は寝ぼけ眼で立ち上がり、どこ?と言いながら通路に向かおうとしたので、こっちですと光子が逆方向へ向かわせる。
隣の車両に走り込んだ重夫は、そこに隠れていた先ほど文句を言った客が通路に置いていたトランクに躓いたので、すみませんと侘びながらも、あった!こんなところにと光子のトランクを持ち上げたので、泥棒が足を蹴ってきて、何やってるんでえ!と凄んでくる。
重夫は低姿勢になり、まんず、まんず、お晩でやんす…と笑顔でごまかし、急いで元の車両に帰ろうとするが、ドアにトランクが引っかかると、泥棒がトランクの位置を治して通らせてくれたので、ありがとうと礼を言う。
光子の元に戻ってきた重夫は、ありました、あんちくしょう、あそこのデッキのところでとっ捕まえちゃた、私ね、腕にかけてはね、絶対自信があるんですよと自慢すると、ありがとうございました、本当に…と光子は礼を言う。
本当に心配したでしょうねと重夫が慰めると、光子はトランク以外のバッグを見て、これは私じゃないですという。
これ、あんたのじゃないですか?あら、なんだかおしめが入ってるな、あら、いらんものを持ってきちまった、こいつは今度は私が盗人の番だで…、いやになったなあ~と重夫は慌てる。
翌朝、席で眠り込んでいた重夫は、通りかかった車掌から、上野ですよと揺り起こされ、あ、そうですかと言いながら目覚めるが、ここにいたお嬢さんはどっか行きましたか?と聞くと、ああ、赤羽でお降りになりました、あなたがあの~ぐっすりお休みになってるもんですから、私に起こしてくれって頼んでいかれましたと車掌は教える。
あ、そうですか…と答えた重夫だったが、落胆した表情のままだった。
上野駅でホームに降り立った重夫は、列車から降りて歩いている客を呼び止め、ちょっとお尋ねしてますがね、浅草はどっちですかね?と聞くと、浅草は向こうだよと反対方向を教えられたので、あ、こっちですか、さっき、あっちだと…と狼狽えていた。
別の通行人を止めた重夫は、ちょっと、あのね、駒ヶ谷行きたいんですけども、どっちですか?と聞くと、駒形?あっちだよと言うので、あ、こっち?さっきあっちって言ったのは何だ?と重夫は怒り出す。
ちょっと伺いますが、中華第四楼って知ってる?と別の男に聞くと、中華第四楼?あ、駅の前にあるよと教えてくれる。
どうも…、駅の前ですか?と確認すると、ああそうだよと言うので、駅の前っておかしいな?あの駒形に…と戸惑い、今聞いた男に確認しようとした重夫だったが、すでに男はいなくなっていたので、あれ、どこ行った?駒形ですがね~…とホームで人の波に飲まれながら叫ぶが、誰も相手にしなかった。
上野駅の外に出た重夫は、右も左も分からず、交通量の多い道の渡り方さえわからないのであたふたする。
道路上で座り込んだ重夫は、お母!俺…と、どうやっても、道路を渡ることさえままならなかった。
近くのビルの上に集合した観光客は、「市の砂塵」などと映画の垂れ幕がかかったビルなどを眺めて感心していたが、そのガイドをしていた光子は、さあ皆様、これで上野の見物は終わりでございます、ではこれから浅草を経て、駒形、両国と皆様をご案内いたします、車は山下に待っておりますから、お早くご乗車願います、ではどうぞと挨拶する。
上野公園の西郷隆盛像の前を通過した観光客一行は、「国際観光バス」に向かうが、そのバスの所に偶然駆けつけたのが重夫だった。
やってきた観光客に、どこさ行くんですか?と聞くと、駒形へ行くって話だというので、駒形行くんですか!と言いながら重夫もその観光バスに飛び乗る。
光子はバスガイドとして、走るバスの中で客たちを前に歌を披露していたが、そのバスに乗っていた重夫は疲れ切って寝ていたので、気が付かなかった。
三社祭が行われていた付近を走るバスの中で、この辺りを浅草六区と申しますと光子は紹介する。
その凄まじい雑踏の中を人並みに揉まれながら歩いてみるのも、ご一興かと存じます、ではこれから1時間を自由時間といたしますとアナウンスした光子は、客たちが全員降りた後も眠っていた重夫を揺り起こすが、あ、駒形ですか?と寝ぼけて聞く重雄に、あなたは、あの汽車の!と気づく。
ああ、あん時の方ですね!と重夫も思い出し、ここにお座りくださいと隣の席を進めるが、私、このバスの車掌をしてますのと光子が教えると、ああ、車掌ですか…と驚き、ああ、そりゃどうも失礼しましたと、重夫は帽子を取って会釈する。
バスを降り、重夫から事情を聞いた光子は、それで遊覧バスと知らずに乗っちゃったんですねと驚く。
んだと重夫が言うので、それで探している方というのは、あなたの何なんですか?と光子が聞くと、村の有力者の親友でね、素晴らしい大きな中華料理屋をやってるそうですと重夫が教えると、まあ!それじゃあ第四楼ですね?と光子は驚く。
はあ、なんか自家用の車まで持ってるっつうんですからね…と重夫は説明すると、まあ、自家用車まで!と言いながら、光子は重夫の体をずんずん押しながら、そんならあなたの1人や2人面倒見てくださいますわと言う。
その後、またバスに乗り込んだ光子は、お待たせいたしました、間もなく駒形でございます、君は今、駒形辺りホトトギス、その昔、遊女高尾の一句に有名な駒形、右手に見えます泥鰌屋は江戸時代から連綿と続いていたと伝えられておりますとマイクで案内する。
バスを降りた重夫は、どうもいろいろありがとうございました、バス代払わないといけないが、いくらですかと言いながら財布を出すと、宜しいんdネス、私、立て替えときますからと光子が言うので、そうですか、そりゃどうもすみませんですと重夫は素直に礼を言う。
じゃあ、ごきげんよう、さようなら…と光子が丁寧に送り出す。
交番の側に来た重夫は、立っていた巡査(岬洋二)からじろりと睨まれるが、すぐに笑顔で敬礼してきたので、ちょっと伺いますが、この辺に中華第四楼ちゅう中華料理点があるのをご存知ないですか?と聞くと、中華料理店で第四楼?と巡査は繰り返し考え、ないようですなと答え、番地はわからないですか?と逆に聞いてきたので、それは聞いてないっす、何でも駒形橋の近くで第四楼といえば、お大きいからすぐわかるとこう言うんですが?と重夫は説明するが、巡査はわからないようだった。
経営者は清水六兵衛ですというと、しばし考えた巡査は、知らないねえと言う。
その後も、近所の中華料理屋に聞いて回る重夫だったが、そんな店はないと言われてしまう。
この辺で中華料理と言ったら、俺ん所が一番有名なんだぜなどと、中華料理屋のコックに言われてしまった重夫は、いや、こんなちっぽけなんじゃなくて、こう大きなビルディングでですね…、そして経営者は…と説明していた重夫だったが、すでにコックはいなくなっていたことに気づき、何だ、聞いてねえのかと落胆するが、その時、重盛、どうした?と声をかけられたので、慌てて通行人の中から声の主を探すが、重夫が持っていたギターに書かれていた名札を読んだだけだと気づき、嫌になっちまったとぼやく。
その後も蕎麦屋の出前持ちに声をかけ、この辺にあの~、中華料理屋で中華第四楼ってのは、知んねえか?と聞くと、知んねえなと答えたので、お前、何県だ?と聞くと、江戸っ子だいと威張ったので、ああ江戸っ子かと重夫は気落ちし、いや、蕎麦屋さんだろう?と聞くと、おめえ、うちは日本蕎麦だよと怒られる。
出前が出かけると、それもそうだなと重夫は納得するが、いらっしゃい、何にします?と客と間違えられて女性店員から聞かれたので、何にもいらね、おら、腹きついんだから、水いっぱいごっつぉうになるからと言うと、店の外に置かれていた缶の蓋を開けてみるが、そこに「お手洗い」と書いてあることに気づき、何だ、これ手洗いかと言って重夫は店を後にする。
夜になっても、目指す店が見つからないんで、重夫は川縁で途方に暮れる。
そんな重夫の耳に、チャラメルの音が聞こえたので、ああ、腹っこ減ったな~と呟いていると、ああ君かと巡査から声をかけられたので、先ほど尋ねた交番の前だったことに気づいた重夫は、さっきの所か…と気づ木、まんず、まんずと挨拶すると、まだわからないですか?と巡査は聞いてくる。
あ、わし、飯も食わねえでね、心片残らず探し回ったですけどね…と重夫は答えると、おかしいですな、もしかしたら、でたらめの住所を知らせたんじゃないですか?と巡査は疑う。
いえ、そんなことする人でねえんです、立派な人格者だってねと重夫は否定すると、立派な人格者ね〜、この頃の人格者と言われる中にはずいぶんいかがわしいのがありますからなと巡査は皮肉を言うと、こんばんはもう遅いですし、よして明日にしたらどうです?と勧める。
すると重夫も、ああ、私もそうしようと思ってるんですと言いながら、そいで、まあ、その人紹介した、あの〜、国の旦那にいっぺん問い合わせてみるつもりですと言うと、ああ、それが良いでしょうと巡査も賛成する。
じゃあ、ごめんなさいと立ち去ろうとした重雄に、あ、もしもし、手洗いなら中にありますよと巡査が言うので、あ、それじゃあ、ちょっと拝借します、あの〜、ちょっとすませんけど、荷物お願いしますと頼んだ重夫は、交番内のトイレに駆け込む。
その後、荷物を持って交番から歩き始めた重夫は、先ほど来聞こえていたチャルメラの音源である夜泣きそばの屋台とすれ違うが、その暖簾に「中華第四楼」と書かれてあることに気づく。
その暖簾をくぐり、おばんですと声をかけると、主人はおいでやすと答えてくる。
ただのそば作ってくれと頼むと、なんぼなんでも、ただのそばはないで…と主人の清水六兵衛(横山エンタツ)が笑顔で返事する。
いや、ねえことはねえですよと、屋台の脇から重夫が話しかけると、どっから入っとるんだ?と六兵衛は驚く。
そら、あるでしょう?あの、このそばことツユっこと、次に支那の筍が少しと肉の切れっぱしが入っている…と重夫が六兵衛の横に来て説明すると、ああ、ラーメンかと六兵衛が気づいたので、あ、ラーメンと重夫も理解する。
ラーメンならラーメンと最初から言うたらええねんと六兵衛は呆れる。
食べるか?一丁あがり!と六兵衛は、屋台の裏側の路上に座り込んだ重雄にラーメンを差し出すと、ありがとう、うめえ!おいさん、いつもここに店出してんの?と重夫は食べながら聞く。
すると六兵衛も隣に座って、ああ、毎晩年中無休やと自慢げに答える。
ふ~ん、客があんまり来ないから儲からないねと重夫が指摘するが、その時、暖簾に書かれた「中華第四楼」の文字に気付き、おじさん「中華第四楼」知ってんの?と聞く。
すると六兵衛は、知ってる、わしとこやん、ここが「中華第四楼」や、わしの家やと言うではないか。
ここが「中華第四楼」?と驚いた重夫は、屋台の表側に周り、暖簾を正面から確認し、「中華第四楼」…、これじゃあ、分からねえはずだ、こんな小汚ねえんじゃな〜と納得する。
それを聞いた六兵衛が表に出てきて、な、なんやて?と息巻いてきたので、あなたがこの経営者の六兵衛さんですか?と重夫が聞くと、わしが清水六兵衛やというので、ああ、そうですかと重夫が疑わしそうにいうので、また疑い深いな〜、わしが清水六兵衛や、ほんまもんや、他にあったら偽もんやと六兵衛は呆れる。
じゃああんた、岩手県のですね、あの〜、ウタスキ村の、あの〜、清ノ木の旦那、知ってますか?と重夫が聞くと、ああ清ノ木か、懐かしいな~と六兵衛は笑顔になる。
いつはわしの軍隊時代の戦友や、面白い奴やったな、やたらに人を紹介するのがあいつの玉に瑕…と六兵衛は話していたが、重夫が屋台の中を覗き込んでいたので、これこれ、若いの、何しとるんじゃ?と聞くと、ああ、そうですか…と重夫は明らかに落胆する。
お前一体どこから来たんや?と六兵衛が聞くと、いや、どっからも何もですね、あなた清水六兵衛さんに違いないらしいですねと重夫が念を押すので、わしが清水六兵衛やちゅうのに…というと、悲観したなと重夫がいうので、悲観した?何に悲観したんや?と六兵衛は不思議がる。
その後、屋台を畳んで、重夫を連れ、自宅に戻ってきた六兵衛は、そうか、清ノ木の奴、わしのことを宣伝しとったかと改めて聞くので、重夫は、はあ≠と気落ちしたように返事すると、私ね、本当、始めどうしようかしらと思いましたよと告白する。
「中華第四楼」っつうからね、もっと大きな店だと思ったんですよと重夫がいうので、これ立派なもんやないか、わしのための立派な料理店やないかと六兵衛は反論する。
それを聞いた重夫は、まあ、それもそうですねと答えるので、そうやろ?と六兵衛も納得するが、それにね、自分で車持ってるなんていうからねと重夫が言うと、これわしの車や、自家用やないかと六兵衛は屋台を指して主張する。
はあ、車も2つ付いてりゃ、自家用車に違いねえっすと重雄も苦笑するが、花をクンクンさせ、少し臭えな、この辺、あまり東京らしくないですねと聞くと、そら、お前、ここは有名なドブ板長屋や、そのどぶ板の長兵衛わしや、まあ、万事任しとけ!と六兵衛が胸を張って言うので、あ、本当にお世話になって良いですか?と重夫は感激する。
そんなこと、心配しいな!と六兵衛は快諾する。
故郷の友に頼まれた以上、わしが世話せなならんがな、まあ、おまはんの目鼻がつくまで、まあ、うちでゴロゴロし取ったらええやないけと六兵衛は言うので、本当ですか、すまないですねと重夫は恐縮するが、これそんな持ってないらしいねと六兵衛が持っていた土産を指すと、あんなもん、山にいくらでも生えてんだからと重夫は言う。
これ何や?と六兵衛が刺したのを見た重夫は、これですか、これギターですと教えると、ギターって、お前歌歌うのか?と六兵衛は驚く。
そうですというと、それをなんで始めに言わんのじゃと六兵衛が驚いたので、おじさん好きだったんですか?と抱きついた重夫だったが、いや、もう歌歌いは1人で十分じゃと六兵衛は癇癪を起こす。
その時、六兵衛の家の中から聞こえたのは、彼の妻キミ子(笠置シヅ子)が歌い出した声だった。
六兵衛はうるさそうに耳を塞ぐが、重夫は感激したようで、それではおばさまも歌を歌われるんですか?と、家に上がり込んで聞くと、そうや、わてのは本格的や、のど自慢なんて生やさしいもんやないで、世界をフウキしようしてんのやとキミ子は答える。
フウキじゃなくて風靡ではないですか?と重夫が指摘すると、どっちでもええとキミ子は言い返すが、恥かくなや、みっともないと六兵衛が注意する。
僕の…、おばさん、目的はですね、大きな希望でですね、その~、金を三つ鳴らせば、人生の目的に届くのですというと、ビール一杯どうです?と、気に入った様子のキミ子は勧め、私にも注いでおくんなはれと言うんで、六兵衛も、俺も一杯行こうか?と湯呑みを差し出すが、あんた貧乏やしもったいないとキミ子は取り合わなかった。
六兵衛は、もったいないとはえらいのが飛び込んできよったな、歌となると、こいつはもうしようがないなと呆れる。
それを聞いたキミ子は、あんた、何言うてんの、うるさいなと相手にしなかった。
そんなキミ子にビールを注いだ重夫は、おばさんも何か、歌を歌ってけろと頼む。
するとキミ子は、心配ご無用、一切合切ご無用♩と歌い始める。
歌い終わったキミ子に重夫は、素敵だ!素敵ですね~!感激してしまいましたと感激して、思わず抱きついてしまったので、六兵衛に頭を叩かれるが、本当に、笠置シヅ子さんに似ていますねと指摘する。
笠置?わての方がよっぽどうまいがなとキミ子は言い返したので、そうかもしれませんねと重夫は調子を合わせる。
重夫がやります、私、本当に素敵だな~と感激する様を、六兵衛は唖然として見守るだけだった。
今度は重夫が自慢の歌を披露しだすと、唖然としたような顔で見守っていたキミ子は、良い味やと笑顔で褒める。
重夫も喜ぶ、おばさんには技術が分かりますね、そしてこの喉も良いんじゃないですか?と自分の喉を刺して聞くと、いや、あんたは味や、良え味やとキミ子は指摘する。
そうや、わしのラーメンの味と一緒やと六兵衛が口を挟むと、芸術の話してる時に、少し黙っててくれろと重夫が言い返したので、やかましいわ!と六兵衛も文句を言う。
すると、ラーメンに芸術も何もあるかい、はっ倒すぞ!と六兵衛は怒りだす。
それを聞いた重夫は、はっ倒す?せっかくの美しい観劇が壊れてしまう、居候なんかせずに出ていこうと拗ねると、だいたい、あんたちょっと黙ってなさいとキミ子が亭主を叱る一方、まあ、せいぜい勉強いなはれ、大丈だ、一頭は確実だと重夫を宥めると、さ、もう一杯飲みなはれとビールを勧めようと数が、もうビールが体と気づくと、ちょっと目離すとこれやと背後の六兵衛を睨み、あ、わての飲みかけやけど…と自分が飲んでいたビールを重夫に飲ませたので、イチャイチャするな!もうほんまに頭の芯が痛い、ほんまに!と六兵衛は嘆く。
翌日から、屋台「中華第四楼」は、重夫とキミ子の軽やかの歌と客捌きで、長蛇の列ができるほどの繁盛店になる。
キミ子は札束を手に大喜びだった。
六兵衛は働きずくめで、まあ、良う売れたな〜、アホな奴が良う揃うたもんやな〜と感激する。
金勘定をしながらそれを聞いていたキミ子は、アホとは何や!と難癖をつけたので、別にお前に言うとんややいわと六兵衛は言い訳するが、客に言うたかて失礼やないかとキミ子は言い返す。
言うたらあかんおかと六兵衛は丼を持って言い返してきたので、キミ子と喧嘩になりそうなので、重夫が喧嘩はやめな…と中に入って止めかけ、やんなさい、私関係ないからと引き下がったので、お前らのこと言う事ないやないかと六兵衛は言い始め、あんた、家にいるのと外と偉い違うのとキミ子も言い返す。
そう言う意味やない、帰ったらええか?と口喧嘩は続いていたが、その時、また客が2人来て、おっちゃん、ラーメンくれよと注文するが、売り切れましたねんと六兵衛は答え、また明日、おおきにとキミ子も金を数えながら言う。
え〜っと、これだけかいなと数え終わったキミ子が不審げに言うので、贅沢言うな、おい、歌入りラーメンのおかげで10日間で半値も上がってるやないかと六兵衛は言い聞かす。
それもそうやなとキミ子が納得すると、何てこと言うんやと六兵衛は注意する。
重夫さん行こと誘ったキミ子は、客の食いの腰のドンブイからつまみ食いしていた重夫に、何を食べて…、またいやらしいと嫌がる。
もうそば食い飽きたから、何かたまには寿司でもご馳走してもらって…と重夫が言うと、ああ、何でも食べさせようとキミ子は安請け合いするので、それを聞いた六兵衛はどこ行くねん、どこ行くねん、こら、男連れてどこ行くねん!と唖然とする。
どう?この頃のロクさんのところの景気の良いことと言ったら…、本当よね、人間、何が幸せになるかわかんあいもんねなどと、長屋のおかみさんたちが噂するようになっていた。
貧乏神の居候が飛び込んできたって散々こぼしていたくせに、歌えるラーメン屋の評判取った途端にとびきり上等のラジオは買う、洋服ダンスは買う、重盛さん様様じゃないの、本当ね~とおかみさんたちは井戸端会議を開いていたが、来たわよ!とお喋りを止める。
着物姿に着飾ったキミ子が帰ってきたのが見えたからだ。
あ、茶箪笥買ってきた!と女将たちが言うように、茶箪笥を抱えてきたのは重夫で、重夫さん大丈夫か、気を付けとくれや、それ高いんやで!とキミ子は入り口のところで案ずる。
重夫は、はいと返事しながらも、高いったって特価品買ってきたんだとぼやく。
え?とキミ子が聞き咎めると、いや、これ入るか心配してるんですと重夫はごまかす。
心配せんでも大丈夫や、わざわざ放送局まで行って申し込んできたんやもん、ハガキで申し込むよりよっぽど印象に残ってええと思うなとキミ子は言う。
ハガキより顔の方がやはり良いですか?と重夫が聞くと、ああ、顔の方が宜し、顔の方がよろしい、向こうはね、きっと、ああ、変わった人来たなと思って印象に残ると思うななどとキミ子が言うので、私、故郷に錦飾りますから、それにちょっとこれ重いですから、先入ってもらってですねと重夫は、玄関先を塞いでいるキミ子に文句を言う。
ほら普通飼わなきゃこんなもの入らねえって言って、それこれ言ったのに、何でも買わなくちゃなんて言って、下駄箱にしろ、下駄箱にしろって私が最初に言ったでしょう?などと文句を言いながら、重夫は茶箪笥を無理やり玄関口から中に入れる。
ラジオでのど自慢の放送を聞きながら、ちゃぶ台の上にまな板を乗せてネギを刻んでいた重夫に、うちの人まだ帰らんか?出たら、鉄砲玉や…とキミ子が話しかけてくると、重夫はしっ!と黙らせ、横に座らせる。
最初の歌い手が鐘一つなった後、20番ロックオンモンドと言い歌い始めた声を聞いた重夫は、光子さん!、光子さんに違いねえと気づく。
光子さんって恋人か?とキミ子が聞いてきたので、家、とんでもねえ、なんか声が良く出てるとごまかしてラジオに耳を澄ます。
NHK「素人のど自慢大会」の会場で歌っていたのは、メガネの別人で、金がたくさんなって合格したので、おめでとうございますと司会者が言うと、ありがとうございますと礼を言う。
お名前をどうぞと司会者(内海突破)が聞くと、鐘野鳴子ですとその当選者は答えたので、それで金をたくさんお鳴らしになった…と、こう言うわけですねと司会者は面白が理、合格者の席へどうぞと案内する。
それを聞いた重夫は、鐘野鳴子か、赤の他人だ、信心するくらい馬鹿馬鹿しい、何だつまらん…と言い、ラジオのスイッチを切る。
ほんまにどないしたんやろな?本人連れてわざわざ放送局まで頼みに行ったのに未だ通知けえへん…とキミ子も不思議がる。
そうなんですよ、だから私も今日放送局のね、その訳聞きに行ってみようと思うんですと重夫がいうと、ああ、そうや、そうや、そうしましょとキミ子も賛成する。
そこに六兵衛が荷物を抱えてただいまと帰ってきたので、どこうろついとったんやとキミ子が文句を言うと、そうボロクソ言うなよ、問屋で玉仕入れてきたんや、これ見てみ、この陽気のええのに、ぎょうさん仕込んで、売れ残って腐っても知りまへんで!とキミ子が指摘すると、心配しな、もし残ったら喜んでぎょうさんもろうてくれはる人が待ってはると六兵衛は答える。
重、支度できたか?と六兵衛が聞くと、重夫ができたというので、さあ出かけようと六兵衛は声をかける。
出かけようって、今頃どこに出かけるの?と重夫が聞くと、落ち着いとるな、きつ…、これから商売に行くんやないかと六兵衛が答えると、私ちょっと行く所あるんだと重夫は言う。
どこ行くねん?と六兵衛が聞くと、放送局ねと重夫が言うと、放送局やとキミ子も同意するので、放送局?と六兵衛は驚き、何抜かしとるんや、お前うちの店員やでと言うので、偉そうに言うなとキミ子が言い返すと、当たり前やないか!と六兵衛は言う。
重夫は、だるいな〜というが、結局、重い屋台を引いて昼間から出かけるので、六さん、昼の日なかからどこに店出すんだ?と聞くと、どこでも良いから、任して、任してと六兵衛はいう。
私は時間が勤務だからと重夫がいうと、何言うてんや、お前、うちの店員やないかと六兵衛は言い返し、こらどこに行くのや、あっちやないかと叱るので、だって任しとくって言うから…と重夫は言う。
毎日行くとわからんのか!と叱った六兵衛は、自分も屋台の背後から押して屋台の向きを強引に変えさせる。
気がつくと荷車が動かなくなったので、六兵衛は必死に押すが、背後に回ってきた重夫は、そこに椅子がありますから…と注意する。
いつの間にか引き手がいなくなっていることに気づいた六兵衛は、後ろに立った重夫にアホ!と言う。
その後、屋台を引いてきたのは「太陽の家」という表札の前だったので、「太陽の家」って、こんなとこで店出してどうすんだ?と重夫が聞くと、これがわしの道楽やわ、これは太陽先生と言うてな、大学出の若い人が妹さんと始めた個人経営や、ちょっと待ってろよ、ええな?と言って建物に向かったので、残された重夫はそば食いそうにもねえぞと悪態をつく。
六兵衛は、出てきた太陽先生(高島忠夫)とその妹幸子(小沢路子)に、こんにちは、えらい牛頭沙汰しましてと挨拶すると、いや、あんまり見えないのでどうしたのかと思って…と太陽先生は笑顔で答える。
おじさん、病気じゃなかったんですね?と幸子が聞くので、いや、ちょっと用事がおましてな、今日なんぼこしらえましょう?と六兵衛は聞く。
幸子は、12人いてよと教えると、じゃあ、先生入れて15と合点した六兵衛は、道で待っていた重夫に、おいラーメン15丁!と呼びかける。
重夫は流行歌を口ずさんでいたので、おい重、そんな歌流行らすな!お前、早いことやれ!早いこと!と急かすので、何怒ってるんだい?と事情を知らない重夫は不思議がる。
そば、そば!と六兵衛が言うので、幾つ?と重夫が聞くと、15じゃ!と六兵衛は言い、分かってる、1ダースと3つだろうと重夫は答えて作り始める。
あの人誰?と幸子が聞くので、今度来た店員ですわ、歌気狂いでなと六兵衛が答えている時、こん日は、先生、またお願いしますと母親が女の子を1人連れてきたので、おい、1丁追加や!と六兵衛は重夫に声をかける。
重夫は16だなと呟き、麺を追加し、鼻歌を歌おうとするが、自分で口を押さえて黙る。
六兵衛は、今来た母親に、おけいさん、日中でも店出るのかな?と聞くと、ええ、大したことないんですけど、でも出ることになってますのと母親は答える。
日中でも子供を預けて働く、割り切れんな~…と六兵衛は嘆息する。
子供たちを机に座らせた幸子は、本当に面白いおじさんねと兄の太陽先生に話しかける。
一方、ラーメンを準備していた重夫は、六さん、そんなに筍入れたら毒だって…と、手伝い始めた六兵衛に注意するが、やかましい、言うな!と六兵衛は反論する。
やかましいって、子供は消化不良だと重夫も言い返すと、こっちは商売商売じゃと六兵衛が言うので、どんどん豚肉もっと入れてやれば良いと重夫がいうと、そんな、たららない、足らないと六兵衛は言うので、良い得意持ったなと重夫は嫌味をいうなか、六兵衛は出来上がったラーメンを「太陽の家」に運んでいく。
できました?と女性が聞く声がしたので、ええ、でき…と答えかけた重夫だったが、光子さんだ!と驚いて固まってしまう。
光子も驚き、あら、いつぞやは…と笑顔で言いながら会釈してくる。
まんず、まんず、いやあ、本当にその節はおせわになりましたと礼を言いながら、重夫は屋台から出てくる。
いいえ、私こそ、それでどうでした?駒形のお店っていうの見つかりました?と光子が聞くので、はい、それがですね、この薄汚さと重夫が屋台を叩いて言うので、まあ、大変な中華料理店ね、でもここのおじさんのとこなら良いじゃありませんか、このおじさんは街の隠れた慈善家ですもの…と光子は言う。
何ですか?と重夫は意味がわからず聞くと、慈善家ですものと光子が繰り返すので、慈善家って何ですか?と重夫が聞くと、お蕎麦だって、ここの貧しい子供達のためにタダで出してくださるのよと光子は教える。
ただですか!あ、そうですか、そりゃ、できるようでできないことですね…と重夫は関心し光子が重夫の手からラーメンを受け取って「太陽の家」に運んで行ったので、あ、どうもこりゃと重夫は恐縮する。
そこに、また六兵衛が残りのラーメンを運ぶため戻ってきて、おい、重、おい、重!と呼びかけるが、重夫はみつこに見惚れてぼーっとしていたので、お前、あの娘さん知っとるのか?と聞く。
え?と重夫がとぼけるので、娘さんやと六兵衛が繰り返すと、いや、あの~、娘さんですねと言うので、おお、娘さんと六兵衛が言うと、あの娘さん、あの娘さんは…とと言いながら六兵衛の体にもたれかかろうとするので、汁がこぼれると六兵衛は、手に持ったラーメンを気にして注意する。
あの~、ここの先生のですね、恋人かなんかなんですか?と重夫が逆に聞くと、アホなこと言うな、ワテと一緒や、ここの先生の信念に惚れて、手伝うてはるんやないかと六兵衛は教える。
信念と言うと?と重夫が聞くと、雨が降ったかて、お前、雲の奥には必ず太陽があるってこと言うやろがと六兵衛が言い聞かせると、ああ、それ当たり前じゃないですかと重夫は言い返すので、当たり前のこと言うたんやと六兵衛が答えると、それがどうかしました?と重夫が不思議がるので、いや、わしはどうもせえへんけども…と六兵衛は口ごもる。
あ、まあ、教えで…と重夫が推測すると、そうそうそう…と六兵衛は納得する。
誰でも仮にでも、心の中にはいつでも太陽があると言う…と重夫が述べると、そうと六兵衛が言うので、はあ、なるほど…と重夫は理解する。
六兵衛は、んだ、んだ…と重夫の口調を真似ながら、ラーメンを「太陽の家」に運んでいくので、んだ、んだと言うんだよ俺は、いつも…と重夫は苛立つ。
教室内にラーメンを持ってきた六兵衛は、先生、どうぞと太陽先生たちの分をテーブルに置いたので、どうもすみませんと太陽先生は礼を言い、光子さん、お蕎麦、どうぞ…と光子に声をかける。
光子は、先生こそお先に…と勧めるが、いや、あなたこそどうぞと太陽先生は笑顔で言い、私、後で良いのよ…と互いに譲り合うが、出入り口にラーメンを持ってきた重夫は、2人の仲睦まじさを見て羨ましがる。
立ち止まったまま困惑していた重夫は、こんちわ!と大きな声をかけ、目を伏せながら三子の元にラーメンを持って行き、仲良くやってくださいと嫌味を言う。
先生、ほら、この方が遊覧バスに…と光子が紹介すると、ああ、そうですか…、世の中って広いようで狭いですねと太陽先生は重夫を見て微笑む。
全くだと重夫が答えると、それでその後歌の方はどうでスカ?と光子が尋ねる。
はあ、私は勉強はしてますけどね、どうものど自慢のNHKの方はなかなかチャンスがなくって…、みんな凄えですよと重夫は答える。
その後、園児たちは、幸子のオルガンの演奏で、やっとこやっとこ繰り出した♩と歌を歌い始める。
それを見学する重夫だったが、今度はこの先生に歌っていただきましょうねと光子から紹介されると、先生ですか?こりゃ恐縮です、それじゃあ、先生が何か…、ああ、おじさんの国の歌でも一つ歌いましょうというと、子供達が拍手したので、ありがとうと礼を言い、春になれば~♩と歌い出す。
その後、重夫は光子と一緒に近所の公園を散歩する。
少しあげますねと重夫が感想を言うと、でも私、この公演大好きなのと教える。
私も大好きですと重夫は舞い上がり気味に答えると、光子がキャラメルを渡す。。
本当に私ね、昼間からローマンスして、東京に来た甲斐があるってものですと重夫がベンチに腰掛けながらいうと、まあ重夫さんったら、面白いことばかり言って…と光子は言うが、腕時計を見ると、あ、大変だわ、あんまり遊んじゃって、私、帰らなくちゃと言い出す。
まだ良いじゃないですかと重夫は止めるが、もう帰りますわと光子が言うので、じゃあ私お送りしましょうと重夫が申し出ると、良いの、結構ですわ、」じゃあこれ、さようならと言ってキャラメルを箱ごと重雄に渡すと、光子は帰ってしまう。
1人になった重夫は、ああ、少なからず悩ますな、望みなきにしもあらずか…とにやけると、ベンチに腰掛け、目に青葉…、ちくしょうと言いながら横たわる。
口笛を吹きながら上機嫌で自宅へ戻ってきた重夫を出迎えた六兵衛は、何しとったんや!店ほったらかして、お前うちの店員やろ?早うやれ!と叱ってきたので、人に言えない、個人的事情だと重夫は照れながら言い訳する。
早よしろ!と言われた重夫は、キャラメルを一つ六兵衛に渡すと、家の中に入る。
家の中に入ると、キミ子が明るく歌っていたので、重夫も六兵衛もあっけに取られる。
キミ子は割烹着のポケットから葉書を取り出し重夫に渡す。
それを見た重夫は、あ!NHKのど自慢テスト!来週の月曜日、万歳だ!と大喜びする。
風邪引かずとキミ子が言うと、栄養取れよと六兵衛も応援し、声つぶさんようにとまたキミ子がアドバイスする。
感激した重夫は、おっ母、喜んでけれ…と国の母親を想って呟く。
ウタスキ村では、毎週、NHKラジオののど自慢を、清ノ木の旦那はじめ村中のみんなが揃って聞いていた。
太陽の家でも、太陽先生やこどm子たち、光子ものど自慢を聞いていた。
六兵衛とキミ子ものど自慢をラジオで聞いていたが、六兵衛がラジオを持ってソワソワしてたので、もうちょっと落ち着いたらどうやねんとキミ子が宥めていた。
もうほんまに重夫のやつ、人の気持ちも知らんと、早う出たらどないやねんと六兵衛はイラついて、ラジオを叩いてみたりする。
鐘が一つなった女性んに、残念でございました、またどうぞと司会者が挨拶し、ではウギの方どうぞと呼びかける。
そこに登場したのが重夫で、司会者が、何を応対になります?と聞くと、マニンガスと答えたので、マチニンガス?と不思議がると、いや、「街の演歌師」と言い直す。
「街の演歌師」、いや失礼いたしました、あの~、お見受けしたところ、東北のお方のようですが?と司会者がいじり始めたので、わしは岩手県ですと重夫は答える。
ああ岩手県ですか?岩手県はどちらです?と司会者が聞くので、ウタスキ村ですお言うと、ああ、ウタスキ村なんてあるんですかと司会者は驚き、結構な村ですね、で、ご職業の方は?と聞くと、中華屋台店の店員ですと重夫は答える。
ラーメン屋帯の店員さんですか?ではラーメン一丁の元気で歌っていただきましょう、どうぞ!と司会者は進行する。
アコーデオンの伴奏が始まるが、次出しがわからず、何度も入り方を迷う重雄に、司会者が合図を送る。
なんとか歌い始めた重夫だったが、舞台の雰囲気に上がっている上にお国訛り全開の歌を横で聞いていた司会者は苦笑し、鐘係に合図し、鐘は一つ鳴っただけだった。
え?1つ?と驚いた重夫は、残念でございましたと司会者に言われ、私、もう一度やらしてもらいたいんですよと申し出るが、いや、もう一回とおっしゃいますがね、ご覧の通り大勢さんがお待ちでございますから、どうぞ…と退場を薦めるが、私ね、困っ天だ…、いや私国でね、母親なんかがみんな聞いてて…、母ちゃん!と重夫はマイクの前から動こうとしなかった。
そんな重夫に、もしもし、呼び出しをかけては困りますねと司会者が止め、あの~、そう言うふうにお嘆きになると困るんでございますがね~と注意する。
それでも重夫は、私本当に困ってしまって…、何がおかしいんだ!と客席に向かって怒り出す重雄に、そうお怒りにならないで、どうぞと司会者は宥める。
あのね、内科先生と重夫がいうと、内科…、いや、私あの内海でございますと司会者は名乗る。
内海さんですか、なんでもいいから、私本当にこれ泣かずにいられないですよと重夫が嘆くと、いや、それは私もね、同情は致しますがね、だけど、まあ、のど自慢は今回限りというわけではなく、また次の機会もございます、どうぞ、今日のところはお諦めくださいましてお引き取りの程を…と司会者は説得する。
しかし重夫がその場でしゃがみ込もうとするので、ああもしもし、こんなところにしゃがまれちゃ困りますね、お顔の色もよくないし、どこかお元気はないようですね、ご病気ではありませんか?
すると重夫は、私ね、昨夜、うちの六さんがね、支那そば12杯も食べさせたんですよと告白する。
12杯も召し上がったんですか!と司会者が驚くと、聞いていた六兵衛は慌ててラジオのスイッチを消すが、そんな六兵衛を捕まえたキミ子は、あんた12杯も食べさせたんか!と睨むと、ああ、重が食べよったん、僕も食え食え言うたんやと六兵衛が答えると、会場の重夫も、私、中毒したらしいんですよと嘆く。
中国そばではなくって、中毒そばと言うわけですね都市会社が茶化したので、ああ、そうだね、あ、シャレどころじゃなかったと重夫は怒る。
いやいやいや、じゃあまあ、この次はですね、5~6杯程度で止めて、胃腸のコンディションのよろしいところでまたお越しくださいませ、お待ちしておりますからと司会者はまとめたので、上手いこと言ってるよと言い残し重夫は立ち去ろうとするが、あ、もしもし、お帰りはあちらですと司会者は反対方向を指す。
重夫は、審査委員の馬鹿野郎!とマイクの前で悪口を言ったので、馬鹿野郎とはなんですかお司会者が困惑すると、全国の皆さん、笑ってください、私、死んでますからと捨て台詞を残し、アコーディアオン奏者の前の楽譜を跳ね飛ばして帰ってゆく。
それを聞いていたウタスキ村の村長は、早く消せ!と消防団の男に命じる中、清ノ木の旦那は、大丈夫だ、重夫はなかなか死なねえと無念そうに言うので、本当に死んだらどうする!と消防団の男が清ノ木の旦那に迫ったので、村長はうるさいな~と叱る。
六兵衛は、電気くらいつけたらどうや?と話しかけるが、キミ子は茫然自失の状態で座り込んでおり、まだ昼や、つけたかったら勝手につけなはれと言い放つ。
重夫の奴若いよってな、短気なことしとらへんやろかなと六兵衛は案ずる。
そやけど私がさっき、あない言うたやろう?探しに行き~な!とキミ子が指示するので、お前も一緒に行こうか?と九郎兵衛は気の弱いところを見せる。
わて嫌や、早う、行きなはれ!とキミ子は責めるので、おっと言って立ち上がった六兵衛に、早う、早うとキミ子は急かす。
死んどらへんやろか?と六兵衛がキミ子にまた言うので、そんな縁起でもないこと言いなや!とキミ子が叱ったので、六兵衛はすごすご出かける。
その頃「太陽の家」では、太陽先生と幸子が預かった子供を、迎えに来た子供達に渡していた。
そこに駆けつけてきた六兵衛が、先生、重、来まへなんだかな?と聞くが、いいえ、重さんといえば、今日は残念でしたねと太陽先生は答えるが、そこに顔を出した光子が、重の奴、まだ帰ってきまへんのや、気にしよったんやろな~、もしものことがあったらえらい凝ったから、居ても立ってもたまりまへんのやと六兵衛は打ち明ける。
そうですかと理解した太陽先生は、じゃあ、光子さん、みんなで手分けして探しましょうと提案する。
それを聞いた六兵衛は、お願いします、お願いしますと頭を下げると、気の小さい奴やからな~、もしものことがあって大川でドポ~ンってなことなったらむちゃくちゃやな、これもあいつが歌歌うな、もう…と嘆くと、太陽先生の方に向かって頼みま諏訪と声をかける。
上着を着た太陽先生と六兵衛は、一緒に重夫を探しに近所を回りだす。
交番の前を通りかかった六兵衛は、出てきた警官に、あ、ちょっとお願いします、迷子がこの辺に…というと、警官は迷子?と戸惑うい、いくつくらいですか?と聞くと、25~6ぐらいの男ですわと六兵衛が答えたので、大きな迷子ですな~と驚くと、ええ私の家の店員ですが、あの~、自殺の恐れがあるもんですから…とというと、自殺!あんた虐待したんじゃないかと警官は六兵衛を責める。
いえ、あんた、昨日もラーメン12杯も食べよったんですと六兵衛が言うので、にしてはおかしいですなと警官が不思議がると、ほんまにおかしいんですと答える。
その頃、重夫は河原で、ギターケースの周りに石を集めており、1つ積んでは母のため~♩2つ~、歌のため~♩などと口ずさんでいた。
立ち上がった重夫は上着のポケットに石を詰め、いよいよやるか…と決意する。
最後の石を腹の部分のベルトに詰めようとした重夫だったが、重いな~、こんなもの…、こいつは本当に浮かんでこねえか…と不安にな理、やめたとその石を放り投げた重夫は、母ちゃん、先立つ不幸を許してけれというと、川に飛び込もうとするが、直前で川も水を手で触り、タバコを一服…などと迷い始め、何度も川と陸地を行き来し始める。
本当に沈むぞ!と川に向かおうとした時、重夫さん、やめて!と止めに来たのは光子だった。
あ、光子さん!と気づいた重夫だったが、俺死ぬんだ!死ぬんだ!と興奮し出したので、やめて!のど自慢のテストに1回ぐらい落ちてどうして!と光子は必死に止める。
おっこったから沈むんだって!放せ!俺沈む!と重夫は振り払おうとする。
コンディションが悪かったからじゃないのと光子が弁護すると、重夫は感極まって泣き出し、光子のスカートで鼻を噛む。
ね、希望を捨てずにガンバてね、ね、そうすればきっとチャンスが生まれますからね、私も及ばずながらお力になりますから…と光子は言い聞かす。
泣きながら重夫は、上着のポケットに入れた石を取り出して行く。
ありがとうございます、光子さん、光子さん…と言いながら、重夫は光子にしなだれかかる。
後日「太陽の家に」来た光子は太陽先生に、ねえどうかしら重夫さん?と聞くので、どうって?と太陽先生が聞き返すと、さっきお話しした市の場にいらっしゃるABCレコード会社のプロデューサーで、市村さんっておっしゃるんですけど、その方に重夫さんを紹介してあげようと思うのと言う。
そうね…、しかしその市村ってプロデューサーの会いたい相手ってのは実はあなたなんでしょう?と太陽先生は指摘する。
ええ、でも私、歌い手なんかになりたくありませんし、それに重夫さん、のど自慢は受からなくっても、レコードなら大丈夫かもしれないから…と光子は言う。
うん、そういや、そうかもしれませんね、まあ、僕もこないだののど自慢を聞いたんだけなんだけ、重さんっていう人、決してうまくもないし、声をもよくないんだけど、そんじょそこいらの歌い手は真似のできない哀愁ってものがありますねと太陽先生は指摘する。
そう?先生がそう言ってくださるなら、私、断然重夫さんを推薦することに決めますわと光子は決心する。
ある日、銭湯から帰宅したキミ子は、自宅を大勢の近所の主婦たちがのゾッ混んでいるので、ちょっとちょっとごめんなさい、なんや大勢でうちの内覗いて…と不思議がる。
自宅には光子が来ており、重夫に市村のことを話していた。
しかし光子さん、あの~、私は本当にその市村って人と会った方が良いと思いますか?と重夫は聞くと、ええ、もちろんですわと光子は即答する。
チャンスだと思うわ、私…、ともかく今夜ここらに来るようですから、新橋のバー「ピース」っていうんですと光子は教える。
「ピース」?それじゃあ、あえばタバコの煙になるっていうことじゃない…、あ、ピースと言えば、あの~、光子さんのお父さんが勤めておられる?と重夫が気づくと、」ええ、動転してますのよと光子は言う。
ああ、それじゃあ、ただだな…と重夫は呟く。
光子は、じゃあ、これが市村っていう人の名刺ですと言い、重夫に手渡す。
そうですかと受け取った重夫に、9時新橋のバー「ピース」、わかりましたね?と光子は念を押す。
わかりましたと重夫が答えると、じゃあと言って光子が帰ろうとするので、まあ少しゆっくりしてください、市村清ってんですねと名刺を見ながら重夫は確認する。
ふと入り口の方を見た重夫は、いつから見ていたのか、六兵衛とキミ子が駆け寄ってきて、そうしなはれ、そうしなはれ、それがよろしい!と勧めてきたので、思わず身を引いて、びっくりこいた!と吐露する。
その夜、ギターケースを持って新橋に向かった重夫は、狭い通りで、ちょっとビール飲んでって!とホステスに手を掴まれるが、おら、忙しいからダメなんだ、ダメ!と逃げようとした時、あれ?おめえ、もしかしたら、あの花子でねえか?と気づく。
客引きしていたホステスの方も、あれ?重さんと気づくが、どうしたんだ?と聞くと、花子は顔を背け、おら、恥ずかしいと言うので、とんだお屋敷奉公だったな~と重夫はは同情する。
花子は、うん…、だけんど、仕方がねえ、おらん家貧乏だもんさ…と言い、国へ帰っても、黙っててくんろと頼んで来たので、良いとも、良いとも、言わねえよ、こんな世の中だもんな…、俺、今日ちょっと急ぐからな、また会うわ、あ、花子、どっかこの辺でな、「ピース」ってバーないか?と聞くと、あれ、あの突き当たりだと花子は指差す。
ああ、あそこかと気づいた重夫は、じゃ達者でな、身体着つけてなというと、ありがとう、重さんもな…と花子は言い返してくる。
光子の父(三木のり平)がバーテンしている「ピース」では、光子さん、遅いですね~、もう9時になりますよと市村(田中春男)が腕時計を見ながらつぶやいていた
バーテンの父親は、いや、もう来ますよと答える。
ああそう…、しかしね、自慢じゃないが、僕はレコード仲間では新人発見としては名人と言われているんだよ、まあお宅の光子さん、安心して僕に預けてください、なんとかものにして見せますから…と市村はいう。
ものになりますかな?と父親が聞くと、うん、大丈夫、今夜は光子さんと一つ、いや無論、あなたにも一緒に聞いていただきますがね、つまり、どういう傾向の歌が好きだとか、うちの専属になるんなら、どれくらいのギャラが欲しいとか…、まあ、そういうところざっくばらんに話しましょうと市川は答える。
そこに花売りの少女が近づいてきて、先生、お花買ってとねだってきたので、え?先生と言われちゃしようがないな、良し!と市川が花束に手を伸ばした時、店に入ってきたのが重夫で、いらっしゃいと声をかけた父親に、ちょっと伺いますが、こちらの光子さんのお父さんにちょっとお目にかかりたいと思って…と話しかけたので、ああ、私ですけど?とカウンターの中にいた父親は答える。
重夫は、いや、光子さんのお父さんですと繰り返すので、いや、だから私ですよと父親は答えるが、ええ!あんたですか?あんたですか?と重夫は信じられないように繰り返す。
そうですか、これはどうも失礼しました!と帽子を取って謝罪した重夫は、そうですか、あの~、いつだったかですか、ABCレコードのプロデューサーがこちらに見えてます?と聞くと、ああ、市村は僕だが?とすぐ横に座っていた市村が答える。
あ、あなた市村さんですか、そうですか、あの~、私ね、こういった者ですがとポケットから名刺を出すと、市村?なんだ君も市村か?と相手は聞いてくる。
市村清ってんですと重夫が名刺を差していうと、なんだ、俺の名刺じゃないかと市村は気づく。
ああ、そうなんですと重夫が言うので、名刺の裏を見た市村に、こう書いてますね?と重夫は指さし、ああ、これなんですと言う。
その様子を見ていた父親が、市村さん、歌の売り込みでしょうと指摘すると、あ、書いてありますと重夫は名刺の裏を指すが、ダメだよ、今日忙しいからと市川は断る。
いや、光子さんがですねと言いながら重夫は名刺を指差すが、忙しいから、ダメだよ、今日は…と市川は聞こうとしなかった。
いや…、チャンスをですね…と言いながら、重夫は持参のギターを取り出し、3つばかり今日用意してきたんですがねと言いながら、ギターを弾こうとすると、市川が金を渡してきたので、いえ?私、あの~、歌をね、ちょっと聞いていただこうと思って…と、受け取った金は上着のポケットに仕舞い込み、その場で勝手に歌を歌い出す。
それを聞いた客たちは一斉に耳を傾け、一曲歌い終わったとき、なかなかいけますね、市村さん、どうです?と父親が言うと、うん、ちょいといけるねと市村も賛同する。
すると父親は、ちょいとどころじゃございませんよ、大変なもん、兄さん、一杯行こう!と父親はウィスキーを勧める。
すると重夫は、いやこれはどうも…と受け取りかけるが、いや、私、喉のためにですね、今、酒はちょっと絶ってますからと断る。
いやいや、これは奢りだよと父親が言うと、そうですか…、ただ、これはただですけど、先生行きますか?と重夫がグラスを市川に渡すと、なかなか感情出すじゃないか、満州にいたことあるだろう?と市川は褒める。
ああ、私…と重夫が話し出そうとした時、ねえ、もう一曲やって?とホステス(三原葉子)が迫ってくる。
それを聞いた重夫は、そうですか、私、やります、何やろましょうか?と重夫は喜ぶ。
今ので良いのと言いながら、オステスが金を渡してきたので、ああ、今ので良いですか、アンコールですね?と言うと、市川に、ちょっと失礼しますと断って、また歌い始める。
その頃、太陽先生と夜デートしていた光子は、帰りますわと言い出したので、そうですか、じゃあ、僕はお店までお送りしましょうと太陽先生は答えたので、すみません…と光子は礼を言う。
その頃「ピース」では重夫がギターを弾きながら歌を歌っていた。
その歌声に惹かれ、近くにいた流し仲間たちも店の前に集まっていた。
気に入った市川は、じゃあ、明日にでも光子の店で活躍頼むと帰り際に重夫に伝える。
重夫も、じゃあ、よろしくお願いしますと返事する。
兄さん、近いうちにまたどうぞとホステスが挨拶してきたので、また寄せtもらいますと重夫は返事するが、お前じゃないよと市川が注意する。
市川と一緒に帰ろうとした重夫だったが、さっき店の前にいた長篠1人が腕を掴んだので、ちょっと忙しいんだと重夫は振り払おうとするが、良いからちょっと来いよ、なんでも良いから来い!と力づくで引き寄せられる。
それに気づいた市川が、お前ら俺の顔知らんのか?と重夫を連れて行こうとした男に聞くと、その顔がどうしたんだ?と相手は言う。
それを聞いた市川は、え?と驚き、僕ちょっと失敬すると言うや、その場から逃げ出そうとするが、男に手を掴まれ、お前も一緒だと引っ張られる。
「ピース」に帰ってきた光子に、父親は、市村さん、今し方お帰りになったばかりだと教えると、そう?先生に送っていただいたのと太陽先生を紹介すると、こりゃ、どうも…と礼を言う。
あ、それからな、重さんとか言う人が来たよと父親が教えるので、そう…、それでどうでした、市村先生にあって?と光子が聞くと、うん、なかなか受けてたようだったよと父親は教える。
そう、良かった…と光子が安堵した時、大変です、大変ですと、今し方市川たちを見送ったホステスが飛び込んでくる。
第三ビル建築現場に連れてこられた重夫が、なんですか、おじさん?と聞くと、なんですかがあるか、お前さん、縄張り荒らしやがって…と相手が言うので、ナワバリって、縄もなんも貼ってなかったじゃないですかと重夫は困惑する。
すると相手は、生言うな!と言うなり、重夫の頬を叩いてくる。
あいた!と殴られた重夫は吹っ飛ぶ。
おいこら!誰に断って商売してるんやと、さらに男は重夫の襟首捕まえて聞いてくる。
だってそれは誤解じゃないんですか?と重夫は反論する。
誤解も六階もあるかい!誰に断ってやってるんだよと男は言うので、重夫は思わず、相手の頬を叩くと、相手はさらに強く、重夫を殴ってくる。
壁際に吹っ飛んだ重夫は、痛いよ、痛いよ!と叫ぶ中、市川まで殴られそうになり、あの~、全然関係ないんですよと慌てる。
すると、親分風の男が市川を捕まえ、関係ない?先ほど大きな啖呵を切りやがって、何が関係ないんだよと凄んでくる。
すいませんと市村が詫びると、すいませんじゃないよ、これで」やったんだろうがと言いながら、市川のバッグを奪い取ると、このやろうとバッグで殴ってくる。
市川が転げて、ごめんなさい、ごめんなさいと謝離ながら逃げようとする。
そこにホステスに案内され駆けつけてきた太陽先生が、僕の知り合いです、やめてくださいと親分風の男に頼む。
向こう行けよと男が言いながら殴りかかってくるが、僕の知り合いですと言いながら太陽先生が身を避けたので、勢い余って男は自分で転がってしまう。
さらに他の子分も殴って退散させたのでえ、ドラム缶をドラムのように叩きながら、重夫はザマアミロ!このおたんこなすのボケカボチャめ!とあざける。
ああ、音こぼれするな~と重夫は太陽先生に憧れる。
翌日の「ABCレコード株式会社」にやってきた重夫は、ピアノやオーケストラを目の前にして狼狽していたが、光子から、おじけないでね、今日はお蕎麦を食べすぎて声が出ないなんて言わないでねと言い聞かされる。
重夫は、大丈夫、幸い今日飯抜いてるから…とオドオド答える重夫おに、大丈夫?と光子が確認すると、大丈夫!と重夫は空元気で答える。
市川のところに来た社員が、今からあなたが紹介した新人のテストを始めますと報告したので、ああ、そうかといって現場に行こうとした市村だったが、額の絆創膏を指され、どうされました?と聞かれたので、どうだって良いじゃないかと言い返すが、しかしあの男の方はダメですねと社員が言うので、偽物だと思ってやってくれ、女が欲しいんだ、女、おい帰らすんだ、帰らすんだよ!と市村は、部屋で待っている他のテスト参加者に聞こえるように社員に命じる。
それが聞こえた他の参加者たちは、部屋を出て行った市村に、ちょっと待ってください!と追い縋ろうとするが、今市村さんの言ったこと、みんな聞こえたでしょう?今日はね、忙しいから帰ってくださいと社員は指示する。
参加者たちは、そんなこと言わずにいつでも良いから来てくださいと社員に詰め寄る。
他の参加者も、お願いします、聞いてください!と頼んでくるが、いかん!今日は帰ってくださいと社員は言い放つ。
録音室に来た重夫に、大丈夫よ、飲んでかかれば良いんだからと付き添いの光子が励ます。
指揮者が前4常と指示してきたので、はいと重夫は緊張しながら答える。
4小節ねと光子が教えると、あ、わかりますと重夫は答え、大丈夫?と再び光子が確認すると、ちょっとはばかりに行ってこようかななどと重夫が言い出したので、もう始まるからと光子は制止する。
そう、いっか、まあ、蕎麦昨日食わなかった…と独り言を言っていた重夫だったが、市川の姿を見ると、ああ、来た、来た!絆創膏貼ってるね!と喜び、今日ですねと言いながら市村に近づこうとしてガラス戸にぶつかったので、痛がりながらも、、あの~、済んだら、トンカツでも食べましょうか?と重夫は審査室の市村に話しかける。
市村は、馬鹿野郎、てめえなんかに食わすトンカツないよとそっぽを向いたまま答えるが、よくっこえない重夫は、ありがとうございました、本当にと礼を言う。
市村の方は頭をかきながら、困ったもんだな~とぼやくので、横にいた社員が何が?と聞くと、何がじゃないよと怒鳴りつける。
いよいよテストが始まり、光子にお茶をいっぱい飲ませてもらった重夫はマイクに向かって歌い始める。
しかし隣の部屋にいた市村は、聞くに絶えないような表情で耳を塞いでいた。
歌い終わって、隣の社員が変わってますねと話しかけると、あんなのは心臓に毛が生えてんだと言い残しそそくさと部屋を出てゆく。
そんな市村に、ガラス窓越しに、市村さん、どうでした?と嬉しそうに呼びかける重夫に、社員は馬鹿じゃないのかな~と呟きながら首を傾げる。
それが聞こえなかったのか、重夫は、ありがとうござい巻いたとガラス窓に向かって頭を下げ、また額を打ちつけて痛がる。
その後、市村にどうでしょうかと聞かれていた市村のところに駆けつけた重夫は、今日は割に調子良く歌えたと思うんですが?と聞くが、市村の表情が暗いので、ダメなんでねスカ?え?どうしてダメなんですか?と問いただす。
すると市村は、君のその言葉がダメなんだと一喝する。
ダミ?と重夫が絶句すると、だめ!と言いながら市村は重夫の足を踏んづけて自分の「プロデューサー室」に光子だけ連れて戻る。
痛がった重夫もその後からプロデューサー室に入ろうとするが、社員が近づいてきて、君、今日は帰りたまえと言うので、良いんですか?ちょっと待ってと言いながら重夫はプロデューサー室に入ろうとするが、もう今日は帰りたまえと追い返そうとする社員と揉み合いになる。
途中で諦めた重夫は、わかりました、わかりました、離してください、だいぶ帰りますからと言いながら、振り向くと、ずっと社員がついてきていたので、帰れますよ、帰れますよと重夫はおもしろ顔して社員をからかうと帰ってゆく。
一方、プロデューサー室の中では市村が光子に、良いと思いますよ、それだけ展望持って…と話していたが、光子は、ダメなんです、私なんか…と拒否し続けていた。
ダメなことはないですよ、きっと僕が売り出してみせますよと市村は説得してくる。
第一、歌い手って、そんな嫌な商売じゃないですよ、見入りはあるし、第一、みんながなりたがって大変じゃないですかと市村は言う。
それでも光子は、ダメですよ私なんか…と、私って平凡なんですものね、歌い手なんてとっても柄に合いませんわと断る。
そこに、社員を巻いて部屋に入り込んだ重夫が市村の前に現れ、お願いします、お願いします、もう一度テストしてください、お願いします、どうぞ!とその場で正座して頼みだしたので、ダメだよ、こっちは商売でやってるんだからと市村が叱りつけると、え、そんなこと言わずに、光子さん、あなたも頼んでくださいと重夫は頼む。
そんな重夫を不憫に思った光子も、どうぞ、もう一度やらせてあげていただけないでしょうか?と頼み込む。
重夫はそんな光子に、あんた、立っているからダメなんです、座ってお願いしてくださいと言いながら、床にタオルを敷いたので、光子も跪き、お願いしますと頼み、重夫は何度も、はい、はい、はいと繰り返す。
すると市村は一旦背を向けていたが、おかしな人だな~、あなたは人のことだと本気になって…、あなたがそんなにおっしゃるなら、僕の希望も入れてくださいよと振り向きながら言うので、希望って?と光子が不安がると、はい、あの~、なんでも入れてあげてくださいね、お願いします、入れてあげて、はい、大丈夫ですと重夫が勝手に承知する。
市村は光子に、一度テスト版に吹き込んでもらいたいと頼むので、テストですか?はい!と重夫は元気に答えるが、君じゃないんだ!と市村は叱るので、行きましょうと光子は重夫に帰るよう勧める。
なんで?とガックリしながら立ち上がった重夫だったが、おい!と呼び止めた市村は、なんだ、こら?吹き込んでやる!と言いだしたので、ええ!と重夫は驚くが、吹き込んでやる!と市村は繰り返すんで、吹き込んで良いんですか!と重夫は喜び、ありがとうございました、本当ですか?一生懸命やりますと、市村の前に跪いた重夫は涙ぐみ、市村の靴を自分のタオルで拭いたりする。
録音室に再び入った重夫は1人で発声練習をやり始めようとするが、すぐに市村が光子を連れてきて、出ていけと重夫に合図する。
結局、重夫は別室で会津磐梯山を歌い出し、本当の録音室では光子が歌い始める。
社員は必死に歌い終わった重夫を見て、馬鹿だな~、何も入ってないのにと呟く。
大したもんだ、これはきっと売れますよと、光子の前に来た市村は太鼓判を押す。
そこにやってきた重夫が、どうですか?市村さんと聞くが、市村はちょっと一瞥して、君も大したもんだとお世辞を言う。
ありがとうございました、私、すぐです、あのブリーフとかコントロールはどうでしたかしらね?本当に私、気持ちが良いですよ、今日はありがとうございましたと重夫は1人興奮して喋り続ける。
しかし、光子は市村に、私、重さんと裏表じゃなくちゃ嫌ですと申し出ると、市村が光子の耳元に何か囁き、え?入れてないんですか?と光子は驚く。
それを聞いた重夫は、え?この人の入れてないんですか?と光子の歌を録音しなかったと思い込み驚くが、市村は、君の方が入ってないんだよと告げる。
私のが入ってないんですか?と重夫が聞き返すと、うんと市村が言うので、何してるんだボケナス!髭ばっかり整えて!もういっぺんやり直さなくちゃダメでしょうと言いながら元の部屋に駆け戻った重夫は、すでに撤収を始めたバンドマンたちに、ああ、どうもね、ああ、すみません、もう一度お願いしたいんです、はい、はい、どうぞ、はい、あの~、いや、入ってないんですよ、ちょっとお願いします、これ切れて入ってないんですものね~!と重夫は必死に訴えるが、誰も相手にしなかった。
後日、新聞には「早くも10万枚を突破!!ABCレコードのヒット」「20万枚の記録樹立!売れ行きますます上昇”ロマンス何処”ヒット決定的」と記事と、香取光子の写真が掲載される。
「「ロマンス何処」「会津磐梯山」空前の大ヒット 共に新人の吹き込みで」と、重盛重夫の写真も載る。
「香取光子の「ロマンスいずこ」今やABCレコードのドル箱に」の記事も踊る。
結局、レコードは、A面が香取光子の「ロマンスいづこ」B面が重盛重夫の「会津磐梯山」として売り出されたのだ。
バー「ピース」でも、プレイヤーから流れてくる光子の歌を聞いた父親が、なかなか我が子ながらうまいもんだなと、訪れていた市村に感想を述べる。
どうです?僕の先見の明は…、大ヒットですよと市村が自慢する。
今年の末までにはレコード界のナンバー1にしてみせますから都市村が言うので、いや、本当に市村さんにはどうも色々…と父親が頭を下げると、いや何…と市村は謙遜する。
あ、時に例の話、光子さんにしてくれました?と市村が聞くと、するにはしましたがね、本人、結婚なんかにはまだ早いって言うんですよと父親は答える。
早いことないじゃないですか、それとも、光子さんに誰か好きな人でもいるんでしょうか?と市村は不安そうに聞く。
さあね~、なんなら市村さん、あなた直に娘に会って聞いてみてくれませんか?と父親が言うので、そうですな~、それで光子さんは今?と市村が居所を聞くと、夕方、向島の託児所に行くと言ってましたと父親は教える。
太陽先生は、着物姿でやって来た光子に、いらっしゃい、お話って何ですか?と聞くと、どう擦ったの?今日は馬鹿にご機嫌悪いのねと光子は逆に聞いてくる。
いや、悪くはないですよ、別に…、何です、用事って…と太陽先生は言うが、ほら、それがご機嫌が悪い証拠ですわと光子は指摘し、分かりましたわ、私があまりご無沙汰したからでしょう?でも、仕方がなかったんです…、つい何やかや忙しくて…と言う。
今売り出しの歌い手だもの、そりゃ忙しいでしょうと太陽先生が嫌味を言うので、まあひどいわ、私、そんな女だとお思いになりますの?私、何も歌い手になりたくてテスト版に吹き込んだんじゃありません、そのことよくご存知のはずじゃありませんか!と光子は反論する。
レコードを売り出したのは、みんな私の知らないうちに会社が勝手にやったことなんですと光子は嘆き、私、今のお仕事辞めようと思ってますの…と告白する。
辞めるって、遊覧バスの…?と太陽先生が驚いて聞くと、ええと光子は言う。
辞めてどうするんです?と太陽先生が聞くと、私、先生のお仕事を手伝わせていただきたいんですと光子は申し出る。
手伝うったって、しかし僕のところじゃあんたに月給あげられませんよと太陽先生は戸惑う。
いえ、月給なんか問題じゃないんです、私、先生のお側にいて、貧しい、日曜も祭日も働かなくて生きていけない、そういう人たちの子供さんの良いおばちゃんとして一生を送りたいんですと光子は言う。
それを聞いた太陽先生は、光子さん!と呼びかけ、光子はその胸に飛び込む。
そんな「太陽の家」に様子を見に来ていた市村は、2人が抱擁している様をガラス戸から見てしまったので、気づいた太陽先生は、誰?と不審がる。
その頃、六兵衛の家では、キミ子が近所の仲間を集め、飲み食いしながら嬉しそうに歌を披露していた。
そこにやってきた重夫が、ああ、どこいったパーティですかと話しかけてくる。
売れた重夫の顔を見てその場にいた近所の連中が急に騒ぎ始めたんで、こら!ただの酒くらいやがってからに、ラーメンも食いやがって、静かにせい!と制した六兵衛は、キミ子と共に座席の中央に座らせ、重さん、おめでとう!よかったなと言葉をかける。
いや~、まんず、まんず、わしがこうして、まあ、スマートなこの洋服着て、一人前の歌歌いになれたのは、2人の本当におかげですと重夫は六兵衛とキミ子に感謝する。
感謝感激だ、しかしまあ、いつまでもこうしてこの安くねえご厄介になってるわけにもいかねえから、まあ、この際、一つ独立して、まあ、デパートの一つも借りてと…と重夫がいうので、ええ?デパート借りる?とキミは聞き返す。、
ああ、デパートでなく何だっけ?と重夫は自分の勘違いに気づき戸惑ったので、あの、アパートやと六兵衛が教えると、あ、アパートと重夫も繰り返い、そのアパートの一室を借りてですね、まあ、国からおふくろを呼んでやろうと思ってるんですというので、まあ、結構じゃないのとキミ子も賛成する。
それなら早速嫁さん探さなくちゃね?誰かないの?良い人…と近所の奥さんが言うので、ま、それがねえこともねえんですがね…、まあ、何つったって、私は田舎者だから…と重夫は照れながら答える。
何、言うてなはんねや、以前の重さんならともかく、今の重さんやったら、誰でも嫁に来てがおまんがなとキミ子は言い、近所の奥さん連中も、そうやね~と賛同する。
キミ子などは、もうちょっと若かったら、第一番に名乗りあげるんやけど…などと言い出したので、コラ!何を抜かしとるんや、アホ!と六兵衛が叱る。
心配せんでもええ、死んでもあんたの側離れへん!とキミ子は六兵衛に縋り付く。
これには六兵衛も満面の笑顔で、これはきついこと言いよんな~と喜ぶし、近所の連中はキミ子の体を元の場所に引っ張り戻す。
ほなどうや…、あの、光子…と六兵衛が言うと、重夫の顔が曇る。
光子はんて?とキミ子が聞くと、こら、こないだいっぺんうちに来たやろ、涙の物語の口やと六兵衛が教えると、ああ、あの日と…、あの人やったら似合いやわ、あんたも知ってなはるやろ?いつかうちに、こんなヒール履いて来た人…と、キミ子は指で厚さを表しながら、近所の奥さんに聞く。
そうそう思い出したわ、あの人なら綺麗で良いんよ、第一上品よと奥さんも推薦したので、嫌やわ、しょうもないこと言うて…とキミ子は返すが、あの人なら良いじゃない、もらいなさいよと他の奥さんも重夫に勧めてくる。
ねえ、重さん、あの人に決めなはれ、お嫁さんはとキミ子は重夫に迫る。
はあ、しかし~と重夫が口ごもったので、しかしも糸瓜もないやないか、単刀直入に申し込んだらええやないかと六兵衛が言うと、そうや、もう決めてしまいなはれとキミ子も急かす。
まあ、おらも…、いや、私もそうすべきと思ってですね、明日、あの~、墨田公園で…
まあ、落ち合いたいと思って、ちょっとあの~、手紙を書いてみたんですよねと言うと、重夫はその手紙を取り出したので、部屋中の仲間たちが全員大笑いしだす。
翌日の墨田公園で光子と会った重夫は、私は生まれて初めてこんな気持ちんじなりました、田舎者だからあんまり言えないけど引っ越してですね…と帽子を相手に練習していたが、そこにわっと言って声をかけたのが光子だったので、重夫は仰天する。
ああ、びっくりしたと言う重夫に、お手紙頂いたので急いで来ましたのよという光子に、そうですか…と重夫が喜ぶと、ちょうど私も話したいことがあったんですと光子は言う。
どっか歩きましょうか?と重夫が誘うと、でも、ここで良いですわと光子は言い、前に座ったベンチに腰を下ろす。
そうですかと言って重夫も隣に座ると、生まれて初めてこんな気持ちになったんですが…と練習通り話し始める。
すると光子も、良かったですね、本当に…と笑顔で答え、あの実は…と2人同時に言ってしまう。
どうぞ…と光子が譲ると、言ってくださいと重夫が勧めたので、私、ご報告したいことがあるんですのと光子は言いだす。
はいと重夫が答えると、遊覧バス辞めましたのよと光子は言うので、良かったですね~、そうですか、良かったですね~と重夫も喜ぶと、それで結婚するんですと光子が続けたので、あの~、いつ頃にします?と重夫が照れながら聞くと、でもそれはまだ決めてないんですけど…と光子は答える。
するとそこに、子供を連れた太陽先生が来て、光子さん、迎えに来ましたよと笑顔で話しかける。
光子は、あら、いらしたの?と笑顔で駆け寄り、重夫も立ち上がって、こんちはと挨拶すると、子供達がお迎えに行くって聞かないんですよと太陽先生は打ち明ける。
そうですか、じゃあ、帰りますわと光子が重夫に挨拶したので、はい?帰るって?と重夫は戸惑う。
光子は、一生懸命勉強してくださいね、じゃあ、いずれ又ね…と重夫に言い残し、太陽先生も、さようならと言って子供達と共に帰ってゆく。
複雑な表情になった重夫の側に戻ってきたみつこが、ごめんなさい、あなたの話って何でしたの?と改めて聞いてきたので、はい、いや…、ちょっとお礼を言いたかっただけですと重夫がごまかすと、あらそんなこと…どうでもよろしかったのに…、じゃあ、さようならと言って光子は去って行く。
それを見送った重夫は、あわてもんの馬鹿たれ!と言って自分の頭を自分のゲンコツで殴ると、ベンチに腰掛けようとするが、ベンチごとひっくり返ったので、弱り目に祟り目だとつぶやく。
光子の曲がかかっていたレコード店に来た重夫は、「会津磐梯山」一枚欲しいんですと店員に申し出ると、「会津磐梯山」?ああ、珍しい型ですなと店員が言うので、何が珍しいのか?と聞くと、いや、この裏の方がなけりゃもっと売れるだろうって、みなさんおっしゃるんですと店員は説明する。
あの香取光子の「ロマンスいずこ」の方ですか?これ?と流れている曲だと思って聞くと、いや、あの~、この裏の下手くそな「会津磐梯山」の方ですよ、少々お待ちください、すぐお包みしますからと店員が言って奥へ下がったので、重夫はアベック客ばかりの店内を羨ましそうに見ながら、涙のダブルプレイかと呟き、トボトボと帰ってゆく。
バー「ピース」に来た重夫に市村は、レコードの件については僕を恨まないでくれたまえ、わかったね?と言うので、分かりますと重夫は答える。
何もかもよく分かりましたという重夫に、じゃあ、元気を出して飲もうと市村が励ますと、光子さんのことは、お互いに、光子さんの幸せを願ったことは嘘じゃなかったんだから…と言うので、市村さん、あんたも泣いてたんですか?と重夫は聞く。
私は光子さんのためなら、金も名誉も何もいらねえ…という重夫に、いくら親でも、この話ばかりは本当に当人次第ですからね~と口を挟んで来た父親が、2人で「太陽の家」へ来てくれませんか?実はあの放送局から社会探訪の録音を録りにくるんですよ、誠に辛いでしょうが…と申し出る。
招かれざる客同士ですか…と重夫は苦笑すると、ツーアウトか…と市村も落胆する。
ああ、この審判は本当に親父にも務まりませんよ、さあ、光子さんのために乾杯!と、3人に注いだビールで乾杯する。
その時、ホステスが光子の「ロマンスいずこ」のレコードをかけ始めたので、やめてくれ!と重夫はプレーヤーに駆け寄って止める。
客たちが驚いて見つめたので、すみませんでした、なんでも良いです、光子さんの歌は…、いつでも私は光子さんの成功を心から祈りますと客たちに伝えると、母ちゃん…、母ちゃんの言ったこと、大したことねえと思ったけど、やっぱり大したことあるな~とつぶやく。
その頃、国で洗濯物を干していた母親は、重の声だ!と喜ぶが、シゲじゃねえ、わしの声だと言いながら近づいてきたのは、自転車を押した清ノ木の旦那だった。
あら、清ノ木の旦那けえと母親が気づくと、なあ、重からちっとも頼りが来ねえんで心配だ、もしも…などと愚痴る。
そんなことねえ、重は七転八倒で勉強してるだよと清ノ木の旦那は慰め、それよりヒヨッコを買ったか?と聞くのでうん、それと母親は指差す。
そこにはヒナが数羽戯れていたので、シゲが見たら喜ぶだろうの~と清ノ木の旦那も目を細める。
んだと言う母親に、重がおらんと村は火が消えたようだ、なんとかして一回くらい帰ってくりゃ良いがな~と清ノ木の旦那が寂しが理、母親もそうだな~と微笑む。
その頃、国に帰る決心をし、荷物をまとめ出した重夫に、光子さん1人が嫁さんやあらへん、日本国中わしが訪ねて歩き回ってもええがなと六兵衛が慰めていた。
その気持ち、おらにも分かるす、だども、おらにはこんな気持ちで東京にいても、何にもできねっす、とにかくまあ、みっともねえけど、一度国さ帰りますと重夫は言う。
双か…、まあ、そんないうんやったらな、わしも止めへん、まあ、気が変わったらまた訪ねて来てやと六兵衛は言い聞かす。
せや、せや、きっと待ってまっせとキミ子も言うので、ありがとうっすと重夫は礼を言う。
家の前に出ると、近所の仲間が待っていたので、あ、どうも皆さん、えらくお世話になりました、じゃ、もうここでえ失礼しますからと重夫が挨拶すると、じゃあ気をつけてなと風呂敷包みを持ってやった六兵衛が荷物を渡し、帽子を持っていたキミ子も、ここに弁当入ってまっせと風呂敷包みを叩いて言うと、身体に気つけなはれやと伝え、帽子を重夫に被せる。
頭を下げながら、もう何も言えねえからとだけ言って、歩きだすが、途中で待っていた奥さんが、重さん、本当に帰るの?と声をかけて来たので、はい、あ、どうぞ、あんた方もお達者で…と重夫は答える。
また、遊びにいらっしゃいねと別の奥さんから言われた重夫は、泣き出しそうな顔になって、はい、ありがとうと礼をいう。
気をつけてねと言う奥さんの声に送られ、やはり乃木坂でねえと重夫は呟く。
重さん、気つけて火炎あはれやとキミ子が呼びかけると、おい、重に何とか歌うたれよ、かわいそうに…と六兵衛が勧めたので、アホやな、重さんの身にもなってみいな、可哀想で歌なんか歌えんわ、わて当分歌えへんわとキミ子は泣きそうになる。
それを聞いた六兵衛は、そうか…、人情ってそんなもんかなと納得すると、そやからあんたは間抜けやねん!とキミ子は怒鳴りつける。
その後、花束を持って「太陽の家」にやってきた重夫だったが、子供たちの面倒を太陽先生と一緒に見ている光子の姿を見ると、私の好く人、誰も好く…と呟き、諦め顔になる。
そして、花を一輪だけちぎって自分でもつと、残りの花束は竹の囲いの中にそっと置く。
机の周囲に子供達を全員座らせた太陽先生は、今日はね、みんなラジオに出るんだから、楽しくするんだよ、良いかい?と話しかける。
その席には市村も参加していた。
その時、女の子が、先生、このお花が来ていたと重夫が置いていった花束を持って来たので光子が受け取る。
綺麗なお花ね〜と言った光子だったが、重さんかしら?と気づいて、外に出ようとしたので、慌ててそれを止めに来た市村は、いけないって、重さんかわいそうだって、行っちゃいけないんだってと言い聞かせたので、事情を知らない光子は、えっ!と驚く。
重さんは、あんたを想ってったんだよと市村から教えられた光子は、花束と遠くを悲しげに見つめる。
座る席もない満員列車に乗った重夫は、立ったまま故郷を目指す。
国が近づき、空いた席に座った重夫は、来ていた身長のスーツを、こんなもの、豚の餌だ!と叫んで、窓から投げ捨てるが、豚も食わねえか…とつぶやく。
草地に落ちたスーツは、山羊の側に落ちていた。
靴など、他の東京で買ったものを全部窓から投げ捨てた重夫は、ちょっと損したかな?と後悔した顔になる。
藤岡駅に着いた重夫が、踏切を渡っていた時、背後から近づいて来た消防団の男が、重じゃねえかよと声をかけたので振り返る。
どうしたんだ?と聞かれた重夫は、俺、面目ないっす、帰って来た…としょんぼり答えたので、帰って来たのか!本当だな?と確認し、お〜い!重が帰って来たぞ〜!重が来たぞ〜!と村の衆に呼びかけたので、やめてけろと重夫は止める。
村の道を歩いていると、村の衆が集まって来て、清ノ木の旦那と母親もやって来たので、母親をだき、清ノ木の旦那、おら面目ねえと反省する。
帰ってきた、おら、おめえがいねえと、寂しくて…と母親が胸にすがりついてくるので、母ちゃん、すまなかったなと詫びた重夫は、旦那、俺やっぱりダメで帰って来たと報告する。
うん、東京はおらの住む所でねえ、すまなかったっす、やっぱりな、悪い夢を見てたんだと重夫は続ける。
清ノ木の旦那は、何言ってるだ、お前、祭りでも喧嘩でも寄り合いでも、おめえがいないと村は火が消えたようだ、ああ、おめえは村のホースだと言うので、村のポンプ?いや違った…、ホープだぺ、んで、消防と間違うなと消防団の男が指摘する。
そんなことどうでもええ!さあ、行くぜ、行くぜと清ノ木の旦那が急かしたので、お〜い、重さんが帰ったぞ〜とまた消防団の男が呼びかける。
近くに田畑にいた村の衆がみんな手を振ったり近づいてくる。
重が帰ったぞ〜と清ノ木の旦那も呼びかけ、重夫は村の衆に、頭を下げ続けるのだった。
そして、村の大歓迎を見て涙を流しながら重夫は、誰かと誰かが麦畑〜♩相引きしてるが良いじゃないか〜♩私にゃ良い人ないけれど〜♩誰にも聞こえる麦畑〜♩と歌い始める。
遠ざかる重夫の一行に、畑から手を振る村の衆を背景に「終」の文字