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映画製作における多元的アクターの連帯による共生的価値共創:アクターネットワーク理論に基づく独立系映画製作の資源統合過程のエスノグラフィ

2026.01.28 06:55

Date: January 28, 2026 (Phd dissertation)

Author: 古新 瞬

本論文は,独立系映画製作を対象に,多様な人的・非人的アクターが関与する創造的実践を,サービス・エコシステムおよび価値共創の視点から分析し,映画が可能にする価値がいかに生成・維持されるのかを明らかにした研究である.従来の映画研究が,完成作品の評価や興行成績といった成果物中心の分析に偏ってきたのに対し,本研究は,企画・脚本開発から撮影,公開後の上映活動や対話の場に至る一連の製作過程そのものを,価値が動的に創発するサービス実践として捉え直している.とりわけパーキンソン病を題材とした独立系劇映画の製作を事例とし,筆者自身が監督として関与する立場から,エスノグラフィおよびオートエスノグラフィを用いて詳細なプロセス分析を行っている点に,本論文の方法論的特徴がある.

本論文の新規性は3点ある.第1に,サービス・エコシステム研究および価値共創研究にアクターネットワーク理論(ANT)を導入し,映画製作に関わる脚本,資金,病理,制度,メディアといった非人的要素を,制約条件や背景要因としてではなく,価値共創を媒介し関係性を再編する能動的アクターとして位置づけた点にある.これにより,映画製作における資源統合や連帯形成のプロセスを,アクター間の翻訳と調整の連鎖として精緻に描写することが可能となった.第2は,映画製作を通じて生成される価値を,情緒的価値,社会的価値,共感的価値,教育的価値という複数の次元に整理し,そうした価値が作品作成プロセスのなかで生まれていくことを「共生的価値」という概念として示した点である.これは,市場成果や消費体験に価値を限定してきた従来研究に対し,創造過程そのものが価値を内包することを示す重要な理論的拡張だといえる.第3に,研究者自身が実践主体として関与するオートエスノグラフィを通じ,創造的プロジェクトにおける当事者の葛藤や意味づけの変容を分析対象として正面から扱い,価値共創の内的ダイナミクスを可視化した点である.

本研究はサービス研究の分析対象を,商業サービスや産業活動に限定せず,創造的プロジェクトとしての映画製作へと拡張し,サービス・エコシステム形成のミクロな実態を実証的に示した点で貢献を有する.また,非人的アクターを含む多層的な資源統合が,参加者間の連帯を生み,持続的な知識創造と価値共創を可能にするメカニズムを明らかにしたことは,価値共創研究,サービス・エコシステム研究,そして知識科学研究の理論的深化に資する.