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地域の閉鎖性を克服する地域移住クラフト起業家による内発的発展:                                  北海道東川町及び高知県佐川町の移住起業家の事例研究

2026.02.02 07:04

Date: February 2, 2026 (Phd dissertation)

Author: 中島 修

本論文は,地方社会が少子高齢化や人口流出といった構造的課題に直面する中で,都市部から地方へ移住した地域移住クラフト起業家が,いかにして地域社会の閉鎖性を乗り越え,新たな知識創造を通じて内発的発展に寄与しているのかを明らかにしている.北海道東川町および高知県佐川町を事例とし,地域資源を活用したクラフト生産に取り組む移住起業家へのライフストーリー・インタビューと参与観察,ならびに行政担当者への聞き取りを通じて,多面的な分析を行っている.本研究は,移住起業家を外部人材や担い手として留めるのではなく,地域に新たな知をもたらす主体として捉え直している点に特徴がある.

本論文の新規性は,第1に,移住起業家の活動を「地域の閉鎖性」という制度的・文化的制約との相互作用の中で捉え,その克服過程を知識創造のプロセスとして理論化した点にある.従来の移住研究や地域創生研究では,移住の動機や定着要因,経済的効果が主に論じられてきたが,本研究は,移住起業家が地域内外を媒介する「媒介性:ブローカリング」,自己の価値観や行動を内省的に更新する「再帰性:リフレクシビティ」,地域課題に創造的に関与する「創造性:クリエイティビティ」という3つの特性を抽出し,これらが相互に作用することで新たな知識が生み出されることを示した点で独創性がある.

第2に本研究は,移住起業家によって創出された知識や実践の成果が,個人レベルにとどまらず,地域社会にどのように波及し内発的発展へと結びついていくのかを,多層的な還元プロセスとして理論的に整理した点である.具体的には,移住起業家の知識創造が,①非公式な協働や緩やかなネットワークを通じた「集合的モード」,②行政制度や地域組織に取り込まれる「制度的モード」,③個々人の生業やライフスタイルに反映される「パーソナルモード」という三つの形で地域に還元されることを明らかにした.これにより,地域移住クラフト起業家は地域に適応する存在ではなく,地域内部の学習プロセスを刺激し,既存の価値観や制度を内側から変容させる「触媒(カタリスト)」として機能していることを示した.この視点は,移住者を受け入れる側と受け入れられる側という二項対立的理解を超え,移住起業家と地域社会が相互に学び合いながら新たな価値を生成する動態的関係として捉える点で,従来研究を拡張している.

このように本研究は,地域研究,起業家研究,知識創造研究を架橋し,移住起業家の実践を通じた変容的学習と知識循環のメカニズムを実証的に示し,さらに移住者と地域社会の関係を,相互学習と価値創出が進行する動態的プロセスとして捉え直したことで知識を核とした地域活性化論につなげている.