熱応力援用固体媒体塑性加工(TASP)による残留応力制御 ー強圧縮残留応力を付与する新工法ー
金属部品の残留応力を大きく制御する新技術,TASP(Thermal Stress–Assisted Solid-Media Plastic Working)を開発いたしました(特許登録済).
詳細を,日本塑性加工学会会報誌「ぷらすとす」2026年4月号にて解説予定です.
<NotebookLMによる音声解説>
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<以下,ChatGPTによる要約版 ※正確には「ぷらすとす」をご覧ください.>
1.研究背景:なぜ残留応力制御が重要なのか?
金属部品に残留応力が存在すると,疲労強度の低下,応力腐食割れの発生,後工程における寸法変化など,製品信頼性に直結する問題が生じる.そのため,残留応力を「いかに小さくするか」,あるいは「いかに有利な分布に制御するか」は,塑性加工分野における重要な研究課題である.
これまで,残留応力を変化させる方法として,塑性加工による方法と,加熱・冷却による熱応力を利用する方法がそれぞれ多数提案されてきた.しかし,両者を同時に,かつ積極的に組み合わせた研究はほとんど存在していなかった.
本研究では「熱応力が存在する状態で塑性加工を行えば,従来よりも効率よく,かつ強力に残留応力を制御できるのではないか」という発想に基づき,新しい加工概念の構築に取り組んでいる.
2.TASP技術の基本概念
本研究で提案しているTASP(Thermal Stress–Assisted Solid-Media Plastic Working)とは,被加工材内部に温度差を意図的に与え,その結果として生じる熱応力下で,ダイスやローラなどの「固体媒体」による塑性加工を加える技術である.
TASP の本質は,熱応力と塑性加工によるひずみを別々に使うのではなく,「同時に重ね合わせて使う」点にある.これにより,従来法では困難であった強い圧縮残留応力の付与や,広い制御レンジでの応力調整が可能になる.
3.引抜き加工による原理検証
研究室ではまず,引抜き加工を対象としてTASPの原理検証を行った.加工プロセスは以下の4段階から構成される.
① 材料全体の均一加熱
② 加工直前に表層部のみを急冷
③ 固体媒体(引抜きダイス)による塑性加工
④ 加工後の放冷
③の表面だけが冷えた状態で塑性加工を行うことで,表層部に引張塑性ひずみが効率よく導入される(効果Ⅰ),さらに,④の放冷時には中心部の熱収縮により,表層部がさらに圧縮される(効果Ⅱ).
という二重の効果が働く.
特にスキンパス引抜きのように表層のみが塑性変形する加工とTASPを組み合わせることで,非常に大きな圧縮残留応力が得られることが実験・FEM解析の両面から確認されている.
4.TASPにおける工程設計指針(重要)
ここからが研究室として最も伝えたいポイントです✨
TASPは「条件をそろえれば効く」技術ではなく,工程設計の考え方そのものが重要になります.
以下に,研究成果に基づく実践的な工程設計指針をまとめます.
4.1 加熱範囲と加熱温度の設計
●加熱範囲は,圧縮残留応力を付与したい部位を含む,十分に広い領域とする.
●加熱された領域は,後の放冷過程で熱収縮し,表層部を圧縮する役割を担う.
●加熱温度は,材料の軟化温度より低い温度域が望ましい.(深部まで塑性変形しやすくなると,TASP特有の効果が弱まる.)
👉 「加熱は強すぎない.でも広く」が基本方針である.
4.2 冷却範囲と冷却時間の設計
TASP 成否の鍵を握るのがこの工程である.
●冷却はできるだけ表層近傍に限定する.
●高い熱伝達係数が得られる直接水冷などの方法が有効.
冷却時間は短すぎる → 十分な引張熱応力が生じない
長すぎる → 温度差が消失する
そのため,表層の引張熱応力が最大となる「瞬間」を FEM解析などで求め,そのタイミングで次工程の塑性加工を行うことが極めて重要となる .
✨ここは「勘」ではなく,「解析に基づく設計」が効くポイントです.
4.3 固体媒体による塑性加工法の設計
塑性変形は,表層部のみに導入することが望ましい.内部まで塑性変形が及ぶと,熱応力アシスト効果が失われる.したがって,TASPに適した加工法は「スキンパス引抜き」「フィレットロール」「ローラーバニシング」「各種表面型加工」など,「表面型」の塑性加工である.
また,塑性加工は,できるだけ短時間で完了させる.加工中に温度が均一化すると効果が低下する という時間設計の視点も重要である.
5.今後の展開
TASPは引抜き加工に限らず,フィレットロール加工,管内面加工,ウエットブラストなど,多様な加工法への展開が可能である.本研究室では,「熱 × 塑性加工 × 工程設計」をキーワードに,実加工プロセスに適用可能な残留応力制御技術の体系化を進めている.
以上