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地方女性リーダーのホンネ vol.3【岡山】藤原加奈さん

2026.02.04 02:45

麹づくり機械で国内シェア約80%。
年間数人の採用枠に約800人の応募——。

岡山に本社を構える株式会社フジワラテクノアートは、国内外に事業を展開しながら、いま製造業の枠を超えた存在感を放っています。

今回は、先日「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」にも輝いた、代表取締役副社長・藤原加奈さんにインタビューをしました。

「微生物培養から事業化まで一気通貫でできる強み」から、「承継の覚悟」「組織改革」「応募800人を生んだ積み重ね」、そして「地域の女性リーダーとして」の話。

上品な佇まいでありながら、言葉の端々に、現場で積み上げてきた熱が滲んでいました。 

株式会社フジワラテクノアート代表取締役副社長
藤原加奈氏 

<プロフィール>
2001年慶應義塾大学経済学部卒業。味の素に就職後、05年フジワラテクノアートに入社。07年MBA取得、15年に副社長に就任。21年代表取締役副社長に就任。25年「選ばれる地方企業」へ進化させたことを評価され、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2026」受賞。フィガロジャポン「Business with Attitude(BWA)Award」も受賞。「楽しみながら舵を取る女性たち」をテーマに選出された。



「微生物培養から事業化まで」唯一無二の強み

——まず、フジワラテクノアートの事業について教えてください。

私たちの会社は、1933年に曽祖父が創業しました。
日本酒や醤油、味噌といった醸造分野の機械メーカーで、今では国内だけでなく、世界27カ国に向けて機械やプラントを提供しています。

中でも“麹づくり”の工程に使う機械は、国内で約80%のシェアがあります。麹づくりって簡単そうに聞こえるかもしれないですけど、実は、固体の原料に菌を生やしていく、ものすごく繊細な工程なんです。麹菌などの微生物を“安定して、大量に培養する”には、かなりのノウハウが必要です。


——その培養技術が競争優位性に?

そうですね。“微生物培養の技術”が強みの一つです。さらに機械メーカーとして産業化・事業化までできる。社内には、機械づくりの工業系の社員もいれば、バイオ系の社員もいるので、お客さんと一緒に微生物を使ったものづくりを一緒に開発していくこともできます。微生物培養から事業化までを一気通貫でできるというのが唯一無二だと思っています。

この醸造分野で培った“微生物を高度に利用するものづくり”を、今後は主力の醸造の他にも、食糧、飼料、エネルギー、バイオ素材などさまざまな業界に広げていきます。そういう意味で2050年に向けて「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー』を共創する企業」というビジョンを掲げています。


自分が継ぐなんて、全く思っていなかった

——藤原さんご自身のキャリアについても聞かせてください。

正直に言うと、最初から“自分が継ぐ”なんて、全く思っていなかったんです。大学4年生の時に当時社長をしていた父が突然亡くなって、それまで専業主婦だった母が社長になりました。私は大手食品メーカーで営業をしていて、手伝うことはあっても、前に出ることはないと思っていました。ただ母があまりにも大変だったので、助けていかなきゃという想いはあって…。


——その後、状況が変わったそうですね。

紆余曲折あり、最終的に“もういよいよ私がやるしかない”という状況になって、初めて覚悟しました。その時が、一番きつかったですね。


——子育てとの両立も大きな壁だったのでは。

当時、子どもは2歳と5歳。正直、“経営と子育ての両立なんて絶対無理”って思っていました。仕事に集中したら、子育てができない。子育てを優先したら、仕事で迷惑をかける。どちらも中途半端な感じがして、承継後はとても悩みました。


——そんな中で、支えになった言葉があったと。

ベテラン社員の方が言ってくれたんです。

“会社は社員で支えることが出来るけど、二人の子どものお母さんは、加奈さんしかできない。だから、堂々と子育てしたらいい”って。

その言葉で、負い目を感じなくていいんだって思えました。それなら、仕事も子育ても、両方頑張ろうって。

あとは、昔から知っている社員の方が沢山いたので、その方たちに背中を押されたことも大きいです。副社長になった時に社員全員の前で『必ずいい会社にする』と約束し、覚悟を決めました。『“いい会社”とは何か』を問い続けてきたことが原動力になっています。


30代後半の5年間が、一番きつかった

——副社長に就任してからは?

2015年からの5年くらい、30代後半が本当にきつかったですね。組織体制も、人事制度も、理念も、ビジョンも。強みや大事にしてきた価値観は守りつつ、時代に合っていないものは、大幅に改革していきました。


——相当なエネルギーが必要だったのでは。

表面的な改革は、絶対にやりたくなかったんです。

社員の本音までちゃんと聞き出して、“本質的な課題”から解決したかった。覚悟を決めるまでは迷いましたけど、いざ決めたら“中途半端は嫌だ”って気持ちになって。

グレーなものをグレーのままにしない。課題は先送りせず、とことん向き合って解決する。膿を出し切ると、その先に希望が見えてきます。


ビジョンができてから、仕事が楽しくなった

——会社としての転機はどこだったと思いますか。

2018年に策定した2050年ビジョン(「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー』を共創する企業」)ですね。

会社の未来が大きく描けた瞬間から、DXも、制度づくりも、方向性が見えてきて、全部“ビジョンの中の取り組み”になった。そこからは、未来に対してワクワクするようになり、楽しくなってきました。そこに至るまでが色んな声もあり、本当に大変でしたけど。


応募者800人は、一気に増えたわけじゃない

——採用応募が急増した背景についても教えてください。

急に変化したわけではなく、徐々に、様々な取り組みの積み重ねの結果だと思います。

1つは、女性トップによる経営で、誰もが働きやすい職場づくりというのは早い時期から取り組んでおり、“女性も活躍できる会社”というイメージが地域の中で早くに醸成されました。

その上で、DX表彰、『日本で一番大切にしたい会社大賞』の受賞など。各方面から賞も毎年受賞するようになり、講演依頼も増え、地域のみならず全国にもメディアに掲載されるようになったことで、知名度が上がっていきました。


——社内の反応は?

社員がよく話してくれます。

“家族や親戚が記事を送ってくる”とか、“ここで働いてるって言うと、反応が違う”って。それはすごく嬉しいですね。

結果として、2024年は5名のキャリア採用枠に、全国から約800人の応募がありました。大手で実績を積んだ高度人材も、IターンやUターンで入社してくれています。


女性が多い、ではなく“伸びようとする女性が多い”会社

——女性社員や女性管理職の比率についても、かなり特徴的ですよね。

うちは人数比だけで見ると女性は約2割なんです。ただ、その女性社員のうち約7割が、管理職を目指すコースを選んでいる。ここが、たぶん一番特徴的なところだと思います。


——7割はかなり高いですね。

堂々と自分を持っている女性が多いです。男性社員も協力的で、忖度なく意見が言える空気感がある。


——役員比率は?

役員は半分が女性です。係長級以上で見ると、今は17%くらいですね。


“なりたい”が生まれるのは、制度があるから

——女性が管理職を目指す背景には、制度設計も大きいのでは?

そこは、かなり意識して作っています。当社は人事制度をしっかり作っていて、一般職はアシスタントコースとプロフェッショナルコースを明確に分けています。

将来管理職を目指すのがP(プロフェッショナル)コース。今、女性社員の7割がこのPコース、もしくはすでに管理職なんです。


——外部のプログラムを導入しているのですか?

いえ、完全に自社設計です。策定のときに人事系コンサル会社にご協力いただきましたが、運用は全部、社内で行っています。

当社はフルオーダーの機械づくりなので、定型業務がほとんどなくて、非定型業務が中心です。だから、“言われたことをこなす”より、自分で自律的に考えて動ける人が評価される仕組みにしています。


——評価軸も特徴的ですね。

はい。評価は“働く時間”じゃありません。責任感、リーダーシップ、創造性など、10項目くらいの人間性を評価する指標があって、それぞれレベル分けしています。

働く時間の長さではなく、自律的に仕事をしているかとどうかで一定の基準をクリアしないと、昇格できない。評価に対する納得度は過去と比較すると、だいぶ高まりました。

それから、技術の会社ですけど、昇格ルートは一つではありません。技術者やDX人材として評価される人もいれば、制度づくりや組織づくりに貢献して上がっていく人もいます。


——フェーズに応じた研修なども?

研修は、毎年定期的にやっています。管理職研修もありますし、テーマを決めたコミュニケーション研修も行っています。やはり求める人材を言語化し、仕事を質で評価する制度が無いと、女性が自ら進んで『役職に就きたいです!』というのは生まれないと思います。


会社が“場”になっている感覚

——キャリア採用された方も、すごく早く馴染んでいる印象があります。

そうなんです。キャリアで入った人も、特別なフォローをしなくても、自然と周りが声をかけてくれる。他部署の人がイベントに誘ったり、“野球チーム作ろう”っていう話がボトムアップで出てきたり。


——部署の垣根を越えて、かなり活発ですね。

釣りに行ったり、マラソンしたり、サバゲーチームがあったり。お祭りごとも多くて、春はBBQ、秋は社員旅行、最近はご家族を招いたわくわくフェスに約350人来てくださいました。OB会もありますし、“会社が場になっている”感覚は強いと思います。


——最近は、若い世代が会社イベントを敬遠するとも聞きますが。

当社は若い世代はかなり参加してくれています10代〜30代が58%を占める組織なので、“仲間がいる”感覚が強いのかもしれませんね。上の世代向けに研修や意識改革もずっとやってきたので、 “背中を見て覚えろ”みたいな人は少なくて、ちゃんと言葉にして伝えようとしてくれる。若い人たちがのびのびと仕事をする環境を一緒につくってくれています。


——中小企業らしさと、先進的な経営の両立が素晴らしいですね。

そうですね。距離が近くてウェットな関係性は中小企業の良さ。そこに、ビジョン経営や制度設計を重ねている。“大企業っぽさと中小企業の良さの“いいとこ取り”が、今のフジワラテクノアートらしさだと思っています。


「女性だけで完結させない」──WEPROと、地域を動かす力

——藤原さんは、岡山の女性コミュニティ「WEPRO」でも中心的な存在ですよね。

私が立ち上げたわけではないんですけど、もうしょっちゅう集まって、いろいろ動いています。きっかけは、中国銀行系のコンサル会社の社長・西原さん。海外も含めていろんな世界を見てきて、“岡山の経済界に変化をもたらすためには、女性の力が必要だ”と声をかけてくださったんです。男性きっかけで始まった女性コミュニティ、というのがWEPROの特徴かもしれません。


——藤原さんは、どんな役割を?

私は産業界にいるので、男性経営者とのネットワークもありますし、イベントには出来るだけ男性経営者の方にも入っていただきたいと思っています。“女性活躍”って、女性だけ集まっても進まない。男性と一緒に考えていかないと、地域は変わらないと思っています。

正直、地方では真の意味での女性活躍はまだ進んでいません。でも、岡山はその中でも“頑張っている地域”だと思っています。WEPROのメンバーは産官学金言のメンバーが集まっており、連携がどんどん広がり、イベントや対談などの取り組みにつながっています。昨年は、このToget-HER代表理事の及川さんにも講師として来て頂きました!


——最近は、男性側の反応にも変化が?

ありますね。女性活躍を深く理解し、応援してくださる方が増えてきたように感じます。先日のイベントでは、中国銀行の頭取や岡山大学の学長も参加してくださり、産官学金で対話する場もできています。WEPROができたこと自体が、地域の空気を少し変えたと感じています。


女性活躍の鍵は、制度より“企業風土”

——最後に、女性リーダーとしての展望を教えてください。

女性がリーダーになるのって、やっぱり大変です。男性以上に努力されている方が多いのも現状。でも、だからこそ、もっと自然体で、肩肘張らずにその人らしいリーダーシップが認められる社会になってほしい

大事なのは、制度より企業風土だと思っています。制度を作って“やりました”ではなく、働きやすさや働き甲斐まで、本気で変えようとしているか。そこまで踏み込む覚悟のある企業や地域は、まだ多くないと感じています。

でも、変わらないと若い人は来ない。製造業も、地方も同じです。私たちは、大切にしている価値観以外は、時代に合わせて変えていく覚悟でやっています。地域にも、企業にも、いろんなリーダーがいる。その選択肢が増えたとき、若者は“ここで働きたい”と思ってくれるはずです。



90周年記念パーティー


(インタビュー・文 宮嶋那帆)