YouTubeではわからない。
大手ハウスメーカーで新居を建ててから、まだ一年も経たないという方が、私の自宅(シンボルハウス)を訪ねてこられました。
きっかけは、私がインターネットに書いている家づくりの考え方を目にしたことだったそうです。「今の家に大きな不満はないけれど、どうしても一度確かめたくなった」というその方は、実際に木の家を体感して、静かにこう言われました。
「この空気感を先に知っていたら、また違う道を選んでいたかもしれません」
一生に一度と言われる大きな買い物だからこそ、情報の波に流されず、自分の感覚を信じることの大切さについて、私の想いをお伝えします。
1│溢れる情報のなかで、自分に合うものを見つける
今の時代、家づくりを考え始めると、まずスマートフォンで情報を集めるのが当たり前になりました。動画やSNSでは、ハウスメーカーや工務店など、いろいろな立場の人が「これが正解だ」と語っています。
どの情報が正しい、あるいは間違っているということではありません。立場の違いで、届く情報が変わるのは当然のことです。大切なのは、それらが「自分たち家族にとっての正解」かどうかを見極めることです。情報の多さに疲れてしまう前に、まずは自分たちの物差しを持つことが必要です。
2│「不満はない」という言葉に隠れた、本当の気持ち
今回、私の家を訪れた方は、決して欠陥のある家に住んでいるわけではありませんでした。最新の設備があり、機能もしっかりしていて、毎日の暮らしに困ることは何もない。それでもなお、私の家を訪ねてこられたのはなぜでしょうか。
それは、画面で見る「数字上の安心」と、実際にその場所で感じる「心地よさ」には、大きな違いがあるからです。「不満はない」という言葉は、もしかすると「心から満足しているわけではない」という、小さな心の迷いだったのかもしれません。
3│写真や動画では決して伝わらない「静かな心地よさ」
家づくりにおいて、見た目のデザインはとても大切です。しかし、私たちが毎日を過ごすなかで感じる本当の安らぎは、目には見えない「空気の質」で決まっています。
・胸がすっと軽くなる感覚: 扉を開けた瞬間、外のあわただしさや日々の疲れが静かに退いていくような、清らかな空気。
・心までほどけていく温もり: 自然の床が呼吸していることで生まれる、こわばった心まで和らげていくような、柔らかな足ざわり。
・光と影が描くゆとり: 障子(しょうじ)を通した淡い光や、木々の影。図面の数字では表せない「住まいの呼吸」のようなぬくもり。
これらは、どんなにきれいな写真や動画を見ても、体験の代わりにはなりません。自分の五感で触れてみて、初めて心から「この場所が好きだ」という確信が生まれるのです。
4│「良いか悪いか」ではなく「好きかどうか」を確かめる
私は、すべての人が木の家を建てるべきだとは思いません。木の色が変わっていくのを「味わい」と喜ぶ人もいれば、「手入れが大変だ」と感じる人もいます。
それは、どちらかが正しいわけではなく、一人ひとりの価値観の違いです。だからこそ、私の自宅は何かを売り込むための場所ではなく、自分自身の感覚を確認するための「物差し」であってほしいと考えています。世の中の評判ではなく、自分に合うかどうか。それを知るために、実際に足を運んで確かめる価値があるのです。
5│後悔をしないために、まずは一歩踏み出す
家づくりには、とても大きなエネルギーが必要です。たくさんの情報に触れていると、つい「有名だから」「みんなが選んでいるから」という理由で決めたくなることもあるかもしれません。
しかし、もし今の計画に少しでも不安や迷いがあるのなら、一度立ち止まって、気になる場所に足を運んでみてください。私の自宅であるシンボルハウスも、そのために扉を開けています。ここで何かを決める必要はありません。ただ、本物の木の空気のなかで、静かに座ってみる。その一歩が、何十年と続くこれからの暮らしを、納得のいくものに変えてくれるはずです。
おわりに
私の家を見学し終えたそのお客様は、「もっと早くここに来ていれば」と少し寂しそうに笑ってお帰りになりました。その姿を見て、私は決意を新たにしました。
家づくりに、たった一つの「正しい答え」はありません。最後に自分たちが納得して選んだのであれば、どんな家であっても、それが一番の正解なのだと思います。
ただ、「知らないまま選ぶ」のと「知った上で選ぶ」のとでは、その後の毎日で感じる幸せの大きさが違ってきます。情報の多さに迷ったときこそ、外へ出かけてみてください。あなたの手と足が教えてくれる実感を、何よりも大切にしてほしいと願っています。