「宇田川源流」【現代陰謀説】 ロシア高官の銃撃暗殺未遂事件から見るロシア情報局内の陰謀
「宇田川源流」【現代陰謀説】 ロシア高官の銃撃暗殺未遂事件から見るロシア情報局内の陰謀
毎週金曜日は、「現代陰謀説」をお届けしています。今回はあまり出てこないロシアの事件を見てみましょう。
2026年2月6日に発生したロシア軍参謀本部情報総局(GRU)のウラジーミル・アレクセーエフ第1副長官を標的とした暗殺未遂事件は、ロシア国内の権力構造の不安定化を象徴する極めて衝撃的な出来事として受け止められています。
事件はアレクセーエフ氏の車両が移動中に激しい銃撃を受けるという形で発生しましたが、幸いにも同氏は一命を取り留めたと報じられています。彼は民間軍事会社ワグネルの創設者であるプリゴジン氏とも近い関係にあり、情報工作や特殊作戦の指揮において中心的な役割を担ってきた人物であるため、その影響力は計り知れません。
この事件の背景については、いくつかの有力な見方が示されています。まず第一に、ロシアの情報機関内部や国防省内での深刻な派閥争いが激化している可能性です。特に戦況が停滞する中で、責任の所在を巡る内部対立が「物理的な排除」という過激な手段にまで発展したのではないかと推測されています。
また、ウクライナ側による周到な工作活動の一環であるという見方も根強く存在します。軍の中枢を狙うことでロシア軍の指揮系統を混乱させ、戦意を喪失させる狙いがあったという考え方です。さらに、プーチン政権内での忠誠心の揺らぎや、権力基盤の弱体化を露呈させるための内部勢力による警告ではないかという分析もなされています。
今回の暗殺未遂は、単なる一将校の命が狙われたという事実以上に、クレムリンの壁の向こう側で進行している深刻な亀裂を世界に知らしめる結果となりました。真相の究明が進むにつれ、ロシアの軍事・情報コミュニティにおける勢力図が大きく塗り替えられる契機となるかもしれません。
<参考記事>
ロシア軍高官銃撃、2人を拘束 ウクライナからの指示と捜査当局
2/8(日) 20:43配信 共同通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/45916d97c34a50418e9e1aab7f66dec27dc08e88
<以上参考記事>
この種の事件を「陰謀的にどう解釈するか」という問いは、事実認定とは別に、「どの立場の人が、どの心理的・政治的動機で、どの物語を選びやすいか」を見る視点が重要になります。実際の真相がどうであるかとは切り離して、「なぜそのような説が生まれ、どのような構造で語られるのか」を整理すると理解しやすくなります。
まず、ロシア国内の権力構造をめぐる解釈です。ロシアでは軍・治安機関・大統領府の間に複雑な力関係が存在しており、過去にも軍高官や治安機関幹部の更迭や失脚がたびたび起きています。そのため、銃撃事件が発生すると、「これは対外的な敵ではなく、国内権力闘争の延長ではないか」という見方が自然発生しやすいのです。この文脈では、ウラジーミル・プーチンが自らの権力基盤を固めるために反対派や不満分子を排除し、その責任を外敵に転嫁するというストーリーが語られます。この種の物語は、ロシアの政治体制を「強権的で閉鎖的」とみなす人々にとって非常に整合的に見えるため、SNS上で拡散しやすくなります。
一方で、対外的陰謀としての解釈もあります。これはウクライナ、あるいはウクライナを支援する西側諸国、特にNATOの情報機関や特殊部隊が関与した可能性を想定するものです。戦時下では相手国の情報機関幹部を狙う行為は理論上は戦略的価値がありますし、士気や象徴性の面でも大きな意味を持ちます。ただし、もし実際に関与していた場合、通常は「作戦成功」として宣伝することも多いはずなのに否定している、という点が、逆に「本当にやっていないのではないか」という推測や、「やったが外交的配慮で否定しているのではないか」という二重の陰謀論を生みます。つまり否定発言そのものが、陰謀論の材料にも否定材料にも同時に使われるのです。
さらに第三の見方として、「事件の真相とは別に、誰がこの事件を利用できるか」という観点があります。たとえばロシア当局にとっては、対外的脅威を強調し国内結束を高める材料になりますし、ウクライナ側や西側世論にとっては「ロシア内部の不安定さ」を象徴する材料になります。このように、実行主体が誰であれ、情報戦の素材としては双方に利用価値があるため、情報が錯綜しやすくなります。陰謀論が広がる土壌は、事実の不透明さそのものよりも、「どの立場でも都合のよい物語を構築できる余地」が大きいことにあります。
また、現代のSNS環境では、「単純で劇的な説明」の方が拡散されやすい傾向があります。複雑な権力闘争や偶発的事件よりも、「大統領による粛清」「NATOの秘密工作」「二重スパイの裏切り」といった物語の方が理解しやすく感情を刺激しやすいため、真偽とは別に支持を集めやすいのです。特にロシアの軍事情報機関であるロシア軍参謀本部情報総局のように、もともと秘密主義で知られる組織が関係すると、「何か裏があるに違いない」という心理が働きやすくなります。
陰謀的に解釈するならば、この事件は「誰が撃ったか」よりも、「誰がこの事件によって最も得をするか」「どの物語がどの層にとって心理的に納得しやすいか」という構図で理解されます。そしてその答えは一つに定まらず、見る側の政治的立場や信頼している情報源によって変わります。陰謀論は事実の代替ではなく、政治的不信や情報不足を埋めるための“物語の枠組み”として機能している、という見方をすると全体像が把握しやすくなります。
このように考えると、上記にあるように「ロシア情報局の内部の派閥対立」ということの方がわかりやすいのではないでしょうか。ロシアは必ずしも一枚岩ではない。そのことが見えていれば、そしてロシアの軍の中にもすでにウクライナ戦争をやめるべきと考えている人が少なくないということを見れば、ロシア政府の発表とは違う陰謀が見えてきます。