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「第二の家」ブログ|藤沢市の個別指導塾のお話

課題「理系と文系」

2016.03.02 02:41


「じゃんけんで決める?」


 君が少し挑発的に僕へ迫った。ショートケーキの上の苺の取り合い。「21ゲームは?」と僕が提案をする。「私それ絶対負けるし」と君は口を尖らせた。お互い交互に3つまで数字を言えて、21を言ったら負けというルールの下行われるこのゲームには、知っていれば必ず勝てる法則がある。「勝ち方、教えてあげようか?」と僕がニヤニヤすると、君は「100%勝てるゲームなんて面白くないでしょ。やっぱり勝負は50%ずつじゃなきゃ」と腕を突き出す。じゃんけんの勝利の確率は、あいこもあるから実際には33%ちょいなのだけれど。

 じゃんけんの末、無事に苺を勝ち取った君が、上機嫌で言う。

「確率って私すごく苦手だったのよね。大体のことは『そうなる』と『そうならない』の50%ずつでいいじゃない、って数学の先生に文句ばっかり言ってた気がする」

「ほとんどの人はもっと精度の高い確率、例えば80%とか90%とかを好むんだよ。少しでも安心するためにさ」

「そういうものなのかしら。50%の方がスッキリすると思うんだけど。だって…」


 理系の僕と文系の君の会話は、いつもどこかでずれていく。でも、きっとそれは悪いことじゃない。そのずれが楽しかったり、僕を癒してくれたりするから。ある哲学者はこう言ったらしい。「ずれとは、その人の幅となる」と。君に出会って、僕の幅は間違いなく広がった。感謝しなくちゃな。そういえば、僕と君が違ったからこそ、今もこうやって一緒に居られるんだなぁと、僕は二人の出会いを思い返す。満面の笑みで苺を口へ運ぶ君を見ながら、僕の脳内には、あの日の記憶が甦ってくる。



 一年前のホワイトデーの日の夜。僕がバイトをしているコンビニで、二人は出会った。飲み会帰りで、酔いを覚まそうと水を買いに来た君が、レジ前のホワイトデーキャンペーンの3.14を見て「あ、円周率だ」と多分無意識に呟いた。僕は咄嗟に「πですか?」と聞いてしまった。君は一瞬きょとんとした後、「あなた理系ね」と笑みを浮かべると、他のお客さんが居ないのを確認して、一枚のノートを取り出した。「これ、わかったりする?」。そこにはいくつかの数式と、就職試験対策の文字があった。



「あ、私そろそろ戻らなきゃ。ごちそうさまでした」

 君の一言が僕を現実に引き戻す。大手一般企業に無事就職した君は、毎日お忙しい。今日、未だにコンビニバイトの分際の僕に与えられた時間は、このお昼のブレイクタイムのみ。バレンタインデーのお返しに、僕は君の大好きなこのお店のランチとケーキをプレゼントした。

「あなたもこれから仕事でしょ。張り切って接客してきてね。今日はありがとう」

 君はいつも通り笑う。その笑顔を見て、僕は少し焦る。このままでいいのか、という自問自答はこの半年間ずっと続いている。

 先日、コンビニの店長から「社員にならないか」と声をかけられた。4月入社の人員が少ないという事で、僕の学歴と働きぶりであれば、いきなり最終面接で、本社勤務で採用してくれるらしい。でも、僕の本当にやりたい航空力学の研究は、コンビニや一般企業では出来ない。大学院を目指して勉強はしているけれど、合格できるかどうかの確証は、もちろんない。合格したとしても、その先仕事につけるかどうかも定かではない。『君と幸せに生きていく』確率が高いのは、やっぱり社員の道なのだろうか。

 

 悶々としながらもコンビニの業務をこなす。店の前の掃除をしていると、店長が寄ってきて「例の件だけど…」と話を切り出した。結論を待ってくれる時間はそんなになさそうだ。もう一度自分に問いかける。あなたにとって、一番大事なことは?僕は、君と一緒に居たい。なら、取るべき選択肢は、圧倒的な確率で決まっている。

 僕が「あ、そのお話ですが、是非…」と言いかけた所で、向こうから手を振る君が目に入る。「早く終わったから寄っちゃったよー」と、やっぱり君はいつものあの笑顔だ。「君たちはいつも本当に仲がいいねー。ド文系とド理系で正反対なのに」と店長さんも笑う。一瞬、図形のどこに補助線を引いたらいいか閃いた時のような衝撃が僕の脳を巡って、答えが明確になった。



 君は言ったんだ。確率なんて、いつだって50%でいいって。80%の方が安心するでしょうと言った僕に対して、50%のほうがスッキリするって。そして、その後に続けてこう言ったんだ。

「だって、確率が50%なら、自分の好きな方を選べばいいだけじゃない」





「じゃんけんで決める?」

 優子が少し挑発的に僕へ迫った。その姿はまったく君とすごく似ていて、少し可笑しかった。「あれ?三人だと確率はどうなるんだっけ?」とお母さんの君は僕へ尋ねるけど、その答えを別に必要とはしていないように思えたから、僕はただ笑っていた。5歳になる優子は、君似でおそらく文系だろう。「でも」と君はきっといつまでも変わらないあの笑顔を見せて言った。

「今日はお父さんの授賞式だから、この苺、たまにはお父さんにプレゼントしようか。何の研究でどんな賞を受賞したのか、私にもよくわからないんだけど」

 そこに少しだけ間を作って、君は僕の目を見て言った。

「良かったわね。本当、良かった。おめでとう」


 優子がしぶしぶ苺に刺さったフォークを僕へ渡す。「あら、偉い」と君はおどけながら、パーティー会場の他のテーブルを見渡し、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟く。

「あなた、じゃんけんものすごく弱いし」

 僕は苦笑いをしたフリをしながら、苺を口へ運ぶ。少し挑発すると君が最初に必ずグーを出すことと、いつもわざと負けている事は、秘密にしておく。







【教育・道徳的観点から】


男脳、女脳、

理系脳、文系脳と色々ありますが、

本当に不思議なことに、

人間それぞれの特性は大きく異なります。


だからこそ、

互いを認め合い、

それを楽しむ心持ちが必要なのではないでしょうか。


心理学でも、

似た人が惹かれ合うという類似性と、

お互いに無いものを支え合う相補性というものがあり、

一概にどちらがいいとは言えない状況です。



自分と相手は、違う。

その違いを、あるがままに受け止め、

プラスにしていけたらいいですね。

全員が全員それができれば、

世界はまだまだもっと良くなっていくはずです。



だから沢山の人に出会わなくちゃね。