ヒント/芸術・文化が大切だ
昨日(2026.2.22)シガ食堂の哲学対話に遅刻して参加した。大幅な遅刻だったので、最後の振返りで一言の発言機会だけとなった。
「なぜ芸術が大事なのか?」ということについて、改めて考える機会は少ない。
そこで、過去にネット検索情報や読んだ本の中から、その答えを見つけるヒントをまとめてみる。
2つのキーワードがある。
「カルチュラル・ウェルビーイング」と
「カルチュラル・デモクラシー」だ。
カタカナ言葉でしか今のところ存在しない概念だ。つまり日本ではまだ市民権を得ていない。海外でも普通に使われている言葉ではない。
「カルチュラル・ウェルビーイング」という言葉を国の政策レベルで使っている国は、ウェールズとニュージーランドの2か国だけだ。書籍として読むことができるのはウェールズの方だが、ニュージーランドの方がその意味をより良く理解しやすい。
ニュージーランドの歴史を数行で書けば、先住民の島にイギリス人が移住してきて、先住民は隅の方に追いやられてしまった。近年になって、先住民の権利保護と文化継承・発展に力を入れることを政策課題に盛り込んだ。となる。
政策を理解するキーワードは「マオリ・タンガ」=「マオリ族らしさ」だ。実は、マオリ族という民族は存在しなかった。イギリス人が来る前は、様々な先住民族が全国各地のそれぞれの集落で暮らしていた。文化継承の危機に直面して、先住民族全体を表す概念として「マオリ族」という新しい民族が作られた。
マオリ族の人々が代々継承してきた文化(お祭りや建築、服装など)を継承・発展させることが、人々の幸福につながる。早い話が文化を土台とした社会包摂の場(居場所)づくりだ。この考え方がカルチュラル・ウェルビーイングだ。そして、そうした国であることが、ニュージーランドの国家のアイデンティティの重要な要素になると政府は考えた。
ウェールズも似たような状況にあることが、『#futuregen』の中に出てくる。ウェールズは、UK(イギリス連合王国)を構成する4つの国の1つだ。近年になって、イングランドの言葉が主流になり、ウェールズ語が辞書から削られはじめた。
ページを増やさずにおくには、新しい言葉(IT業界用語など)を入れた分だけ、使われなくなった単語を削ることになる。中でも、自然景観を表現するような言葉が減っている。つまり、ウェールズの伝統などを伝える言葉が消えていくことに、ウェールズ政府が危機感を持ち始めたということだ。
2016年春にイギリスの南西部の田舎町にあるシューマッハカレッジの市民講座(3日間)に、私は参加した。イギリス国内、海外から20人程が集まって、ディスカッションなどをする講座だ。
印象に残っているのは、20代の男性が、最近の若者はネットやテレビなどの影響を強く受けてアイデンティティ・クライシス(自分らしさの危機)に直面しているという意見だ。
イギリスだけではなく、日本を含む世界中の国と地域が、瞬時に情報で結ばれる時代に私たちは暮らしている。イギリスの若者の話は、昨日・今日・明日の日本の話でもある。
だから、地域文化が大事であり、カルチュラル・ウェルビーイングという視点で文化を考えることを意識的に行うことが大切な時代なのだ。
「カルチュラル・デモクラシー」という言葉を知ったのは、『みんなの文化政策講義』藤野 一夫著だった。ドイツの文化行政を参考にした本だ。
スゴイ! と思ったのは、ドイツの地方都市の市民会館には、専属の大道具係が雇用されていることだった。
専属の大道具係がいて、年がら年中オペラなどの舞台芸術の公演があり、地元の高校生は授業でオペラ鑑賞をするのだそうだ。
なぜ、そんなことをするのだろうか?と思うかもしれないが、それを理解するキーワードが「カルチュラル・デモクラシー」すなわち、「文化(的)民主主義」だ。
藤野の理解は、カントの芸術理論に基盤を置いている。
私の理解では、カントのものの考え方を超単純化すると「世界」―「私」=「観念としての世界」があり、「観念としての世界」で価値あるものこそ「本当の価値」あるものだという考え方だ。つまり、「私」と関係なく、何物にも影響を受けないような「絶対的な価値」が存在すると考える。
芸術も同じで、「絶対的な美」が存在すると考える。そして、それを理解する方法は、良質な芸術の鑑賞体験をすることだと言う。高校生や一般市民がそれを体験することで、「絶対的な美」について話し合う素地が出来上がる。
そして、「絶対的な美」について話し合う体験が、社会正義や道徳とは何かということについて話し合う、政治における民主的な態度を育むと同時にそうした議論の場を社会に築くことに寄与する。だから、地方の劇場のスタッフを公務員として雇用することが大事だ。
というのが、藤野が解釈するドイツ社会における「カルチュラル・デモクラシー」だ。
まとめると「カルチュラル・ウェルビーイング」は、個人の幸福感を充足するのに必須の価値であり、「カルチュラル・デモクラシー」は健全な社会発展にとって重要な価値だと言える。
だから、鑑賞型の体験(コンサートなど)や参加型の体験(盆踊りや第九のコーラスなど)など、芸術という文化活動が現代社会おいて、より一層大事な活動だと言える。
※本に関する情報
『#futuregen』Jane Davidson / 2020
『みんなの文化政策講義』藤野 一夫 / 2022