台本/終末ドライブ(不問2)
〇作品概要説明
主要人物2人。ト書き含めて約6000字(20分)
世界終末の日、親友とドライブにいこう。真実なんてどうでもいいさ
〇登場人物
ハル:性別不問。運転する方。
アキ:性別不問。泣き演技あり。
夏希:アキが兼ね役。
利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。
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作者:七枝
0:本文ここから。Mはモノローグ。口調変更自由。
0:SE無線の音。
アキ:やっちまった。
ハル:(M)チャンスだ、と思った。
アキ:なぁ、ハルどうしよう。どうしたらいい。このままじゃ、
ハル:(M)千載一遇のチャンスが、ようやく回ってきたんだと。
アキ:……ひとりはいやだ
ハル:(M)もしかしたら、を願ってトランシーバーを握りしめた。
アキ:たのむよ、一緒にしんでくれ。
ハル:……わかった。迎えにいくよ、アキ。
ハル:(M)キーをつかみ、車内にすべりこむ。残り少ないガソリンを吸って、車がきゅるきゅると鳴いた。
0:アキの自宅前で、ハルの車が止まる。アキは血まみれである。
ハル:乗って。
アキ:……車で来たのか
ハル:おう。
アキ:ガソリン、まだ残ってたんだな。
ハル:ガレージに隠しておいたんだ。案外みんな探さない。
アキ:そりゃあのおんぼろガレージに貴重なガソリンがあると思わない。
ハル:そのとおり。
0:アキ、助手席に乗り込む。
ハル:あ、シートベルトしてよ。
アキ:本気で言ってるのか?
ハル:いつだって本気さ。警察につかまりたくないだろう?
アキ:いないものを気にしてどうする。
ハル:いいから。
アキ:(舌打ち)
0:アキ、ベルトに手をかけたところで、血まみれの自分の手に気づく。
アキ:あ……悪い、血まみれだったわ。
ハル:今きづいたの?いいよ、べつに。
アキ:シートが。
ハル:どうせ今日限りの命さ。
アキ:洒落にならん。
ハル:洒落じゃないからね。
アキ:…………
ハル:あーき?ベルトして。
アキ:わかった。
ハル:よし、発進しまーす。
0:車が静かに発進する。車内に少しの沈黙。
アキ:……どこに行くんだ。
ハル:んー?どうしよ。こういう時の定番といえば海?
アキ:はぁ。
ハル:そんでもって、崖の上でトレンチコート羽織って、お話する。
アキ:火サス?
ハル:そうそう、一回やってみたかったんだよね、火サスごっこ。
アキ:怖くね?
ハル:アキ、高所恐怖症だっけ?
アキ:や、違うけど……
ハル:海、やめようか。山にする?
アキ:山ねぇ……
ハル:山も嫌か。
アキ:知らないのか?
ハル:ん?
アキ:ちょっと前に噂で聞いたんだ。最近山で流行ってるって。
ハル:なにが。
アキ:……集団自殺。
ハル:ああ。
アキ:アレが降ってくる前に、地球に還るだとかなんとか。
ハル:天使がどうたらとかいう新興宗教だっけ。ネットがあった頃、Xで流行ってた。
アキ:だから今山道走れば、ごろごろ死体に接触するんじゃないか。
ハル:……山、やめようか。
アキ:ん。
ハル:……それじゃ、どこいこーかなー……
アキ:……どこでもいい。
ハル:希望とかないの。どこでもいけるよ。
アキ:……どこ行ったって、逃げられない
ハル:逃げたいんだ?
アキ:……
ハル:見納めたいものは?野球場とか、ホームセンターとか。
アキ:どういうチョイス?
ハル:君らの休日、だいたいそんな感じだったって聞いたけど。
アキ:……っ!
ハル:あ、ごめん。無神経だった?
アキ:……誰の血か、わかってた?
ハル:そりゃ、ねぇ……
0:気まずい沈黙。
ハル:昨日さ、ふたりで集まって飲み納めしただろ。
アキ:ああ。
ハル:その時、のろけてたよ。へらへら笑ってさ。
アキ:おぼえてない。
ハル:だいぶ飲んでたから。
アキ:……そうだな。
ハル:「世界終末の日に、自分は恋人と心中するんだ。だから明日は心中記念日だ」って。楽しそうにさ。羨ましかった。
アキ:だいぶ酷いこと言ってんな。
ハル:まあね。こちとら寂しい独り身だっていうのに。
アキ:……悪かった。
ハル:いいよ。いつものことだ。君に細やかな気遣いは期待してない。
アキ:…………
ハル:あれ?なに落ち込んでんの。
アキ:……気遣いが、たりなかったのか。
ハル:…………
アキ:気遣いが足りなかったから、夏希は……
ハル:浮気でもされた?
アキ:…………
ハル:カッとなって、心中前に殺しちゃったんだ?
アキ:……なつき、どうして……
ハル:どういう状況だったの。
アキ:……隠れ家に帰ったら、夏希が、知らない奴と二人で……
ハル:真っ最中だった?
アキ:ハル!
ハル:ごめんって。
アキ:……服は、脱いでなかった。
ハル:ほう。
アキ:けど、あれは……そういうことだろ。じゃなきゃどうして家に入れるんだよ、ありえないだろ。こんな日に!どうして!
ハル:……ふーん
アキ:夏希、どうして……なぜなんだ……
ハル:……手、拭きなよ。ダッシュボードにウェットティッシュいれてある。
アキ:あ……
ハル:顔もね。真っ赤だよ。
0:アキ、サンバイザーの鏡で自分の顔を確認する。返り血が顔までべったりついている。
アキ:不審者じゃないか……
ハル:(笑う)
アキ:お前、よく乗せたな
ハル:そりゃ乗せるでしょ
アキ:危機感が足りない。
ハル:今の君に言われてもなぁ
アキ:くそっ、乾いてなかなか取れない
ハル:血の汚れってしつこいんだよね
アキ:鼻毛までこびりついてる。
ハル:抜いたら?
アキ:どこに捨てるんだよ
ハル:床に適当に放り投げればいいよ
アキ:前、泥つけて入ったら激怒したじゃないか
ハル:愛車だもの
アキ:もういいのか。
ハル:今日で終わりだからね
アキ:おわり……
ハル:そう、終わり。
アキ:……ハルは、怖くないのか。
ハル:んー……そうだな、前はこわかった。
アキ:今は?
ハル:今はちょっと、興奮してる。
アキ:はぁ?
ハル:なんていうのかな、雷がおちてくるのを待ってる気分というか。
アキ:お前雷苦手だろ。
ハル:いつの話だよ。
アキ:保育園の時……
ハル:よく覚えてるなぁ
アキ:毎回かくまってやった恩を忘れたのか
ハル:おぼえてる、おぼえてるよ。えーっとじゃあ、初雪をまつ気分みたいな?
アキ:そんな可愛いもんかよ。
ハル:ただの自然現象のひとつってこと。
アキ:その自然現象で、みんな死ぬ。
ハル:そう、みんな平等に死ぬ。自然は差別なんてしない。
アキ:……………
ハル:想像してみて。これから6時間か……9時間後ぐらい。夜空がぱっと輝いて、大きな火球が落ちてくる。何も知らなければ、夜を飛び越して昼がやってきたのか思うかもしれないね。きっと、それは今まで見たことのないほど美しい光景だよ。
アキ:だから?
ハル:死ぬ前にみる情景として、なかなかいい部類だろ。
アキ:その後死ぬってのに?
ハル:しょうがない。
アキ:いやだ。
ハル:そう言ったってどうしようもない。
アキ:嫌なもんは嫌だ!
ハル:アキ。
アキ:いやだ!しにたくない!もっと生きたい!どうしてだ夏希!どうしてこんな目に!どうして!
ハル:…………
アキ:いやだ、もういやだ。ひとりでしにたくない。いやだ、こわい……
0:アキの嗚咽。だんだん泣き声が大人しくなる。
ハル:……顔、ふいたら?
アキ:(鼻をすする)
ハル:少しはすっきりした?
アキ:……ん。
ハル:ほら、夏希さんはいないけど、1人じゃないだろ?
アキ:……ああ。
ハル:幼馴染で我慢して。
アキ:……ただの幼馴染じゃない、親友だ。
ハル:(笑う)
アキ:高速のったのか。
ハル:こっちの方面だと事故少ないから、まだ通れるんだよ。
アキ:……へぇ。
ハル:なに?
アキ:下見してた?
ハル:あはっ、気づいた?実は最期の場所、決めててさ。
アキ:……そっか。
ハル:付き合ってくれる?
アキ:どこでもいい。ひとりじゃないなら。
ハル:よかった。
0:アキ、鼻をすする。
ハル:めっちゃ泣いてたね。
アキ:泣くだろ普通。お前も泣け。
ハル:やだよ。
アキ:泣けよ。
ハル:事故ってもいいの?
アキ:…………ふん。
ハル:……アキさぁ、童貞じゃないよね?
アキ:は?
ハル:殺人童貞。
アキ:……その言葉、嫌いだ。
ハル:そういえば夏希さん、言葉遣い気にする人だったね。
アキ:夏希の話はいいだろ。
ハル:ははは。
アキ:……殺したことは、ある。夏希がはじめてじゃない。
ハル:だよね。
アキ:みんなそんなもんだろ。
ハル:そりゃそうだ。優しい人から死んでいく。
アキ:生きるためだ。仕方なかった。
ハル:ここ5、6ヶ月は落ち着いてたね。
アキ:派手な奴も、さっさと死んだ。
ハル:残ったのは小賢しいやつと臆病者だけ。
アキ:お前はどっちだ?
ハル:どっちだと思う?ちなみにアキは臆病者の方ね。
アキ:……わかってる!
ハル:ごめんごめん。
アキ:お前はいつも一言多い。
ハル:つい言いたくなるんだよね、言わない方がいいってわかってるのに。
アキ:ホントはハルも怖いんじゃないか。だからべらべら喋ってる。
ハル:うーん、どうかな。
アキ:なんだよ、その返事。
ハル:ふふ。
アキ:……楽しそうだ。
ハル:君といっしょだからね。
アキ:……夏希、殺した後にな。
ハル:うん。
アキ:悲しい、より先に「これでひとりぼっちだ」と思ったんだよ。
ハル:後悔した?
アキ:してる。今も。
ハル:そっか。
アキ:でも裏切られたと思うと我慢できなくて。
ハル:夏希さん、良い人だったのにね。
アキ:なんか理由があったのかもしれない。
ハル:うん。
アキ:ハルは……こんなことにならなきゃ一人だったんだよな
ハル:うーん。
アキ:お前、つよいよ。他のヤツとちがう。
ハル:そんなことないよ。
アキ:ある。
ハル:ないって。
アキ:さっき残ったやつは小賢しいやつと臆病なやつって言ったよな。
ハル:言ったね。
アキ:辛抱強くて友達想いなやつ、も追加してくれ。
ハル:ふふふ。褒めるね。
アキ:言い残したことがないようにしないと。
ハル:なるほど。
アキ:ハルはないのか。言い残したこと。
ハル:言っていいの?
アキ:多少の文句なら我慢する。
ハル:多少なんだ。
アキ:口には気をつけろよ、殺人鬼の前だぞ。
ハル:こっわ~
アキ:……嘘。何言ったってゆるすよ、お前なら。
ハル:……そう。
アキ:ああ。
ハル:じゃあ、言わせてもらおうかな、……ずっと君の事が好きだった。
アキ:……それ、は、恋愛的な意味で?
ハル:恋愛的な意味で。
アキ:……おどろいた。
ハル:だろうね。
アキ:まったく気づかなかった。
ハル:きみ、鈍いもんね。夏希さんも。
アキ:ぐっ……
ハル:似たものカップルで、ぴったりだったよ。両方から恋愛相談持ち掛けられるのには参ったけど。
アキ:はぁ!?聞いてないぞ!
ハル:言うわけないでしょ。相談対象きみなんだから。
アキ:そ、そうか。そりゃそうだな……
ハル:うん。
アキ:……まて、ならお前知ってたのか?
ハル:なに?
アキ:夏希が浮気してたって知ってたのか!?
ハル:知らないよ。
アキ:そ、そうか……
ハル:うん。知らない、というかそんな事実ないと思う。
アキ:事実が、ない……?
ハル:そろそろ高速おりるね。トイレ大丈夫そ?
アキ:あ、ああ……いやまてまてまて。
ハル:え?
アキ:え、じゃないよ。「え」じゃ。そんな事実ないってどういうことだよ!
ハル:……きみがさぁ、落ち込むと思って言わなかったんだけどさ。
アキ:何か知ってるなら、さっさと言え!
ハル:夏希さんと一緒にいた人に、心あたりあるんだよね。
アキ:は……?
ハル:オレンジのシャツに、白いスーツの人でしょ。でっかいオパールのピアスつけてる。
アキ:オパールの、ピアス……
ハル:あとは……そうそう、腰に護身用のナイフさしてたはずだよ。みた?
アキ:見た……
ハル:その人、医者。精神科医。
アキ:い、医者がなんで……
ハル:夏希さんに相談されてね、アキがいよいよ限界っぽいって。それで紹介したの。なかなか連絡とれなくって、ギリギリのタイミングになっちゃった。
アキ:ならお前も一緒にいれば……!
ハル:医者紹介するぐらいで、そんな大事故引き起こると思わないでしょう?夏希さんもなんでいきなり家にあげたのかね。
アキ:じゃあ、誤解で……?そんな、そんなことって……!
0:アキ、呼吸が荒くなる。パニック状態の一歩手前。
ハル:……なんてね。
アキ:……ハル?
ハル:うそうそ。冗談だよ。夏希さんは君を裏切った卑怯なやつなんだ。君は悪くない、君はなにも間違ってないよ。
アキ:つ、作り話だっていうのか?
ハル:……アキは、どっちの方が救われる?
アキ:さ、さっき特徴だってあげて……!
ハル:たまたますれちがった人の、それっぽい特徴を言っただけ、とかは?生き残りも少ないご時世だしさ。
アキ:なにを、信じればいい……
ハル:アキの、信じたい方を。
アキ:……好きだってのも、嘘か。
ハル:それは、本当。
アキ:そうか……
0:車窓から海の景色。
ハル:みて、海がみえてきたよ。
アキ:…………
ハル:きこえてる?
アキ:結局、海にしたんだな。
ハル:ここで世界を割る星をみようよ。
アキ:……(ためいき)
ハル:アキ?
アキ:……もし、世界が終わらなかったら、ハルは告白しなかったか?
ハル:……そうだね、君と夏希さんが結婚して……友人代表インタビューでもして、素知らぬ顔で独身貴族を謳歌してただろうね。もしくは、やることなくてネトゲでもしてたかも。
アキ:……そうか……
ハル:知りたくなかった?
アキ:お前の告白を聞いたせいで、色々考えてしまうんだ。あの時言ったあの台詞や……行動の真意を。
ハル:……
アキ:頭が、ぐちゃぐちゃだ……
ハル:……もう少し、ドライブを続けようか。
アキ:…………
ハル:アキ、喉かわいてない?
アキ:え?
ハル:後ろの座席に水置いてるからさ、飲んでいいよ。
アキ:……飲みかけじゃないか。
ハル:イマドキ新品の水なんて置いてるはずないだろ。
アキ:……まあ。
ハル:それ飲んで、少し落ち着きなよ。飲まず食わずだったんだろ?
アキ:………
ハル:信用できない?
アキ:そんなこと……!
ハル:まあ、アキの好きに(すればいい)
0:アキ、勢いよく飲み干す。
アキ:どうだ!飲んだぞ!
ハル:……っぷ。はははっ、すごい飲みっぷり!さすがアキ。
アキ:だろ?
0:二人、目を合わせぎこちなく微笑む。少しの間。
アキ:……ハルを、疑ってるわけじゃないんだ。
ハル:うん。
アキ:ただ……こわくてたまらない。
ハル:なにが?
アキ:……すべてが。世界も、常識も、自分も……死に慣れすぎちまった
ハル:ああ……
アキ:あんなに簡単に、夏希を殺せるとは思わなかった
ハル:うん
アキ:たとえば、もし、万が一、今日地球が終わらなかったとして、
ハル:終わるけどね。
アキ:もしもの話。
ハル:わかってる。
アキ:もしも隕石が降ってこなかったとして……元の世界に、適応できると思うか?
ハル:…………
アキ:争いのない世界に。食料の心配のない世界に。人を殺しちゃいけない世界に……戻れんのかな。
ハル:……無理かもしれないね。
アキ:…………
ハル:一度人を殺してしまったら、殺すという選択肢をとることを覚えたら、その前には戻れない。この世界は、人殺しに慣れ過ぎた。
アキ:……最後にひとつだけ、聞かせてくれ。
ハル:なあに?
アキ:ハルは、夏希が嫌いだったのか?
ハル:まさか!君の恋人を嫌うわけないだろ。
アキ:……そっか。
ハル:うん。
アキ:……なら、いい
0:アキ、穏やかに眠る。
0:少し間をあけて。
ハル:……アキ、寝た?……寝たみたいだね。
ハル:…好きも、嫌いも意味がないよ。世界はもう終わるんだから。未来なんてない。希望もない。ただ、君と二人ここにいる。それだけがすべてで、それ以外はすべて嘘だ。
0:ハルの回想。夏希役はアキがやってください。
0:SE無線の音。
夏希:ハルさん、少しよろしいですか?
ハル:(M)チャンスだ、と思った。
夏希:最近アキが限界みたいで、どうしたら……
ハル:(M)千載一遇のチャンスが、ようやく回ってきたんだと。
夏希:医者を?それは有難いですけど、いきなり家に呼ぶなんて……
ハル:(M)もしかしたら、を願って声をかけた。
夏希:わかりました。ハルさんからもよろしくお願いしますね。
ハル:(M)不安げなあのこの声を思い出す。夏希さんは、アキそっくりに素直で、信じやすく……そして、馬鹿な子だった。
0:回想おわり。ハル、車を路肩にとめ、アキの冷たい頬に口づける。空は夕焼け。
ハル:ああ、いい景色だ。……でも、なんでだろう。ちょっと寂しいね、アキ。
0:終わり。
0:補填①ハルは信用ならない語り手である
0:補填②ハルが本当に「医者」を手配したかどうかは彼しか知らない。