3/29 スポレッタ役・濱田 翔さんインタビュー
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。
みなさまのインタビューをお届けしております。
第10回は、3/29(日)スポレッタ役・濱田 翔さんのインタビューです。
濱田 翔(はまだ しょう)
熊本市出身。東京藝術大学音楽学部卒業。同大学院(独唱科)修了。在学中二年間ローマへ留学。日本オペラ振興会育成部38期生修了。
日本トスティ歌曲コンクール2019にて3位入賞。
オペラではこれまでに《愛の妙薬》《椿姫》《魔笛》《マルタ》《セビリアの理髪師》《コジ・ファン・トゥッテ》《後宮からの誘拐》《ドン・ジョヴァンニ》《ルサルカ》などに主要な役で出演している。
藤原歌劇団公演《イル・トロヴァトーレ》《ピーア・デ・トロメイ》に出演。《ラ・トラヴィアータ》ではアルフレード役アンダースタディも務める。コンサートでは“藤原歌劇団テノールの響宴”などに出演。日本オペラ協会公演 三木稔作曲《静と義経》に三郎役で出演。
上賀茂神社と新国立劇場で行われた新作オペラ「ヤマトタケル〜美しきまほろば」にも出演するなど様々な言語オペラや新作オペラにも積極的に出演している。
BS-TBS「日本名曲アルバム」に杜の音シンガーズ等のメンバーとして出演。
これまでに岩津整明、井ノ上了吏、川上洋司、葉玉洋子、Danilo Rigosa、Sergio Oliva各氏に師事。藤原歌劇団準団員、日本オペラ協会会員。
濱田さんには本年一月下旬、《ルサルカ》王子役でのご出演翌日に、お話を伺いました。
──《ルサルカ》のご盛会、まことにおめでとうございます。ご健康を回復されて立たれた今回の舞台にかける思いは、特別なものであったのではないかと思っております。もしよろしければ、濱田さんのいまの率直なお気持ちをお聞かせいただければ嬉しく存じます。
「ありがとうございます。今回の《ルサルカ》王子役では、昨年以降、初めての主役級をつとめました。周囲からの心配の声もありましたが、これからの人生、歌い続けていくためには残しておきたいハードルでした。そして、そのハードルを無事に乗り越えることができました。
今回の《ルサルカ》は小編成のオーケストラと共に演奏しました。チェコ語、そしてワーグナーの影響も感じられるこの作品への取り組みは、私にとっては大きな挑戦のひとつでもありました。
これまでオペラで人の生き死にを歌いながらも、どこか他人事のように思っていたかもしれません。けれど、自分自身もまた人生の節目を乗り越えたことによって、『生まれ変わった』という感覚を持ちながら王子役を最後まで全うすることができました。自分が心から歌うことができる事柄が、ひとつ増えたのかもしれませんね。」
──大事なお話をお聞かせいただき、ほんとうにありがとうございます。ここからはプリンスオペラ第1回公演《トスカ》について、お伺いいたします。まずは濱田さんが《トスカ》について抱かれる思いをお聞かせいただけますか?
「楽譜を開くと、《トスカ》の舞台となったローマに留学していたことを懐かしく思い返します。聖アンドレア・デッラ・ヴァレ教会も、聖アンジェロ城も思い出の場所。ローマで《トスカ》の合唱に参加したこともありました。」
──それは、なんて貴重な体験なのでしょう! ローマでのお話を、もっと聞かせていただけますか?
「ローマでみんなが言っていたのが『スカルピアは本当に〈カラビニエーリ〉だよね』ということ。〈カラビニエーリ〉はイタリアの国家憲兵隊で、陸海空の軍隊に並ぶ第四の国家組織です。ローマ市内の警察は水色のパトカーだけど、カラビニエーリは紺に赤のスタイリッシュな車。《トスカ》の時代は馬でしたね。そして街中をパトロールするのですが、彼ら自身もまた容姿端麗で、ふるまいも洗練されています。見た目による選考もあると聞きますが、どこか近寄りがたく、またスノビッシュでもあるのがカラビニエーリ。スカルピアはまさに、象徴的なカラビニエーリだよね、ということはみんな話していましたね。」
──ローマに長くいらしたからこそのお話ですね。
「ローマで暮らしていると教会があちこちにあったのも印象的でした。この地に留学していた人たちが共通して言っていたのは、『ローマの人々にとっては、信仰と暮らしが地続きなのが理解出来る』ということ。それだけ、自然な形でカトリックの信仰が根付いているんです。」
──〈信仰〉は、今回の演出・角直之さんが大事にされたいキーワードかもしれません。9月のパネルトークでも、そうしたお話をなさっておいででした。今回、濱田さんが歌われるスポレッタには、任務を遂行するかたわらで祈りの言葉をとなえるという場面もありますね。
「あの場面はさまざまな解釈が可能だと考えています。良心の呵責を感じているのかもしれないし、そうではなく日常のルーティンとして習慣のように唱えているだけかもしれない。スポレッタは、ある意味では現代に生きる日本人を映し出す鏡のような存在かもしれません。組織に属し、スカルピアという上司のもとで、様々な思いを抱きながらも任務を遂行する。ブラック企業に勤める会社員と考えていただけると、わかりやすいのではないかと思います。」
──ブラック企業、なるほど。それではスポレッタは、上司であるスカルピアにどのような思いを抱いているのでしょうか。
「逆らえない上司……ですよね。命令に従っているのは、殺されないためなのか、それともポストを目指しているからなのか。スポレッタは、スカルピアの舎弟のような存在として作中では描かれていますが、演じる側にとってはとても興味深い役です。影のように寄り添い、スカルピアの思惑を理解した上でカヴァラドッシを謀殺する共犯者となる。若い人も、歳を重ねた人も演じることの多い役ですが、様々な解釈が可能です。バックストーリーを考えてみると、いかようにも演じることが出来る。それが魅力ですね。」
──いかようにも……たしかに、おっしゃる通りですね。
「これからプッチーニに取り組んでいこうと考えていた矢先に、今回のお話をいただきました。将来的にカヴァラドッシを見据えた上で、カヴァラドッシに近い場所にいるスポレッタを勉強出来たのは、自分にとってもいい機会だったと思っています。」
──近いうちに濱田さんのカヴァラドッシを拝聴する日を楽しみにしております。さて、プリンスオペラでは「若手声楽家の育成」という面にも注力しています。若手組の同役・姜さんへ、濱田さんが向けられる優しい眼差しには、取材をしていても静かに感銘を受けております。 「若手声楽家の育成」という面において、みなさまに接する時に濱田さんが心がけておいでのことがございましたら、お伺いできれば幸いです。
「自分自身も若手の心づもりでいるので、『こうした方がいいよ』などと強要するつもりはありません。これまで様々なプロダクションに参加してきましたが、凄い人からは背中から学んできました。そのように、若い世代の方々にも現場でしか学べないことを学んでもらいたいですね。
今回の指揮者・澤村さんは、東京春祭でリッカルド・ムーティが指導した《仮面舞踏会》での印象が強く残っています。私は東京オペラシンガーズの一員として合唱で参加していたのですが、ムーティと議論をしているのを見て『日本人にもこんなに凄い指揮者がいるんだ』と感じ入ったことを思い出します。いつか、澤村さんと角さんの組み合わせで仕事を一緒にしたいと願っていたので、個人的にも嬉しいプロダクションです。研修所でも学べないようなことが多くあると思うので、私自身もたくさんのことを吸収していきたいです。」
──最後の質問です。プリンスオペラ代表の明珍さんから、みなさまにお預かりした質問です。「あなたが歌う理由を、教えていただけますか?」
「これが、いちばん難しい質問ですよね。簡単に言ってしまうと『好きだから』ですが……『それしかないから』と言った方が正しいのかもしれません。
大学時代、同期に才能豊かな友人たちが多いことに自信喪失して、自問自答した時期がありました。続けていって、意味があるのだろうかと悩みました。大学院に落ちたら、歌を辞めようと思って受験をしましたが、受かりました。続ける理由ができてしまいました。そして、いまも歌い続けています。
歌を続けていると、何十年に一回という割合かもしれませんが、自分でやりたいことがうまくはまった本番を迎えられることがあります。いわゆる〈ゾーン〉に入れた時なのかもしれません。その歓びを求めて、歌い続けているような気もします。
思春期の頃はロボットコンテストに参加したり、〈つくること〉に情熱を注いでいました。技術系に進むか、音楽系に進むか、考えた末に音楽の道を選びましたが、音楽へのアプローチにも、設計や積み重ねなど共通する要素を感じています。
時間をかけて設計して、積み重ねた音楽を本番にかけた時に、音楽を俯瞰できるような感覚をおぼえることがあります。それは大きな歓びです。……理由は、ひとことでは言い表せませんね。」
そう言って、濱田さんは照れたように笑いました。
作品を概観し、緻密なアプローチを積み重ねてきた濱田さん。学生時代から、東京藝大近くの美術館に足繫く通って感性を養ったというエピソードもお聞かせくださいました。そうした積み重ねのひとつひとつが、濱田さんの豊かな音楽性として揺るぎない柱になっているのを感じました。
濱田さん、ありがとうございました。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、
2026年3月28日(土)・29日(日)
北とぴあ つつじホールで上演いたします。
公演情報はこちらをご覧ください。
チケットはほくチケ(オンライン)、
ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。
オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。
◎ほくとぴあチケットオンライン
みなさまと北とぴあでお会いできますことを、
心より楽しみにしております。