公用車の任意保険
下記の記事によると、岐阜市の公用車が任意保険に未加入で交通事故を起こし、「双方ともけがはありませんでしたが、公用車は任意保険に加入していなかったため物損被害の約45万円を市が公費で賠償することで示談が成立し、おととい支払われました。」
「職員間で保険について情報共有されていなかったためで、市は車両管理体制の整備などで再発を防止するということです。」
下記の記事によると、「公用車は軽貨物車で、昨年9月5日にリース契約し、12月5日に納車された。納車後、任意保険に入る決まりだったが、管理担当の職員が手続きの確認を怠っていた」そうだ。
なるほど。
まず、任意保険の話をする前に、自賠責保険の話をしておこう。
自賠責保険は、「自動車」を運行する全ての人や団体が加入することが義務付けられている(自動車損害賠償保障法第5条)。これに違反すると、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処せられる(同法第86条の3第1項第1号)。
自動車損害賠償保障法には、国や地方公共団体の公用車を適用除外にする旨の規定がないから、公用車についても、自賠責保険の加入が義務付けられている。
ただし、自衛隊の戦車や装甲車などの特殊車両は、道路運送車両法の適用除外とされているので(自衛隊法第114条第1項・自衛隊法施行令第157条)、自動車損害賠償保障法の「自動車」に当たらないため(自動車損害賠償保障法第2条第1項)、自賠責保険の加入が義務付けられていない。
次に、任意保険についてだが、任意保険である以上、加入するかどうかは自由であって、国や地方公共団体の公用車だからといって加入が義務付けられているわけではない。
このように自衛隊の特殊車両が自賠責保険に加入しておらず、また、国や地方公共団体の公用車が任意保険の加入を義務付けられていないのはおかしいのではないかと思われるかも知れない。
しかし、このような法の建て付けであっても、なんら法的には問題がないのだ。
なぜならば、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と定められており(国家賠償法第1条第1項)、国や地方公共団体には十分な資力があるので、被害者は、国や地方公共団体から確実に損害賠償の支払いを受けられるからだ。
実際問題として、国や地方公共団体が大量に保有している公用車のすべてに任意保険をかけると、その保険料が高額になってしまう一方で、公用車が事故を起こすことが少ないため、任意保険に加入しない方が費用対効果が高く合理的なのだ。
ところが、最近、公用車に任意保険をかける地方公共団体が増えている。勝手な想像だが、おそらく被害者側からの要望を受けて、公用車の事故処理を迅速かつ適切に行うためだと思われる。
被害者が地方公共団体を被告として国家賠償請求訴訟を提起して勝訴し、損害賠償金の支払いを受けるには、かなりの時間と手間を要する。
示談(和解)をするにしても、「法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること」については、議会の議決が必要であり(地方自治法第96条第1項第13号)、議会は年中無休ではなく、一定の期間(会期)だけ活動するため、すぐに議会の議決が得られず、被害者救済が遅れる。
そこで、公用車に任意保険をかけて、保険会社に支払ってもらうことにより、迅速に被害者救済を図ろうというわけだろう。
そうだとすれば、すべての公用車に任意保険をかけて高い保険料を払うよりも、法律上地方公共団体の義務に属する損害賠償の額の決定について、首長の専決処分(指定専決)を認める議決(地方自治法第180条第1項)をしてもらった方が安上がりであって、費用対効果が高いのではなかろうか。
もっとも、上記記事の岐阜市の例規集を検索したら、岐阜市の「地方自治法第180条第1項の規定による市長の専決処分事項(昭和51年10月1日 市議会議)」がヒットし、次の事項について市長の専決処分を認めている。
「 (7) 和解及び調停(前号に規定する和解及び調停を除く。)でその目的の価額が100万円以下(交通事故に係るもので、自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)の適用を受けるものにあっては、同法に規定する当該保険金額の最高額の範囲内)のもの。
(8) 法律上市の義務に属する損害賠償の額の決定で当該決定に係る額が100万円以下(交通事故に係るもので、自動車損害賠償保障法の適用を受けるものにあっては、同法に規定する当該保険金額の最高額の範囲内)のもの。」
それにもかかわらず、岐阜市では公用車に任意保険をかける決まりになっているのは、事故処理には手間と時間がかかるので、保険会社にやってもらった方が、地方公共団体としては事務処理の負担が軽減されて助かるというメリットがあるからではないかと思われる。
cf.1自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)
(定義)
第二条 この法律で「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
3 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
4 この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう。
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。 ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)
第五条 自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
第八十六条の三 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第五条の規定に違反したとき。
二 第二十三条の九第一項の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らし、又は自己の利益のために使用したとき。
2 第八十四条の二第二項又は第三項の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
cf.2自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)
(道路運送車両法の適用除外)
第百十四条 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)の規定は、自衛隊の使用する自動車のうち、政令で定めるものについては、適用しない。
2 道路運送車両法の規定が適用されない自衛隊の使用する自動車については、防衛大臣は、保安基準並びに整備及び検査の基準を定めなければならない。
3 道路運送車両法の規定が適用されない自動車は、防衛大臣の定めるところにより、他の自動車と明らかに識別することができるような番号及び標識を付さなければならない。
4 自衛隊の使用する自動車以外の自動車は、前項に規定する番号若しくは標識又はこれらにまぎらわしい番号若しくは標識を付してはならない。
5 第三項の自動車に付する標識の制式は、官報で告示する。
cf.3自衛隊法施行令(昭和二十九年政令第百七十九号)
(道路運送車両法の適用除外)
第百五十七条 法第百十四条第一項に規定する自衛隊で使用する自動車のうち、政令で定めるものは、陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊の使用する自動車で、次に掲げるものとする。
一 大型特殊自動車及びこれによりけん引される被けん引自動車
二 前号に掲げるもののほか、防衛大臣の申出により国土交通大臣が指定した自動車
cf.4地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
<第1項第1号から第12号まで省略:久保>
十三 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。
<以下、省略:久保>
第百八十条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
② 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
cf.5岐阜市の「地方自治法第180条第1項の規定による市長の専決処分事項(昭和51年10月1日 市議会議決)
市長において専決処分をすることを得る事項(昭和22年7月10日市議会議決)の全部を次のとおり改正する。
地方自治法(昭和22年法律第67号)第180条第1項の規定により、次の事項は市長において専決処分することができるものとする。
(1) 200万円未満の補正の必要に伴い、歳入歳出予算(第2号及び第3号に掲げるものを除く。)の補正をすること。
(2) 国庫支出金又は寄付金等の特定財源の範囲内において500万円未満の歳入歳出予算の補正をすること。
(3) 基金にするための歳入歳出予算の補正をすること。
(4) 200万円未満において債務負担行為又は繰越明許費の補正をすること。
(5) 10万円未満の権利を放棄すること。
(6) 市営住宅及び特定公共賃貸住宅の管理上必要な訴えの提起、和解及び調停に関すること。
(7) 和解及び調停(前号に規定する和解及び調停を除く。)でその目的の価額が100万円以下(交通事故に係るもので、自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)の適用を受けるものにあっては、同法に規定する当該保険金額の最高額の範囲内)のもの。
(8) 法律上市の義務に属する損害賠償の額の決定で当該決定に係る額が100万円以下(交通事故に係るもので、自動車損害賠償保障法の適用を受けるものにあっては、同法に規定する当該保険金額の最高額の範囲内)のもの。