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とある冒険者の手記

番外編.悪夢からの解放

2026.02.27 14:37

暗闇の中にヘリオは佇んでいた。

周りを見渡すも、何処までも続く闇。


「また、この夢か……」


彼は、これが夢だと理解していた。

最近、毎日では無いが何度も見る夢。

これから起こる展開も分かっている。

分かっているが結末を変えられない。


すると、前方にスポットライトのように光が差す。

そこにはボロボロの姿で横たわるアリス。

ヘリオは彼に駆け寄り、回復魔法をかけようとするが発動しない。

焦りと動揺が自身を蝕む。

そして、アリスの姿は徐々に朽ちていき、白骨化した。



***************



「っ!!!」


ヘリオは弾かれるように目が覚めた。

夢の内容が内容だけに、呼吸は荒く、大量の汗をかいていた。


「……くそっ」


右手で目元を覆い、小さく呟く。


「ヘリオ、大丈夫?」


声に顔を向ければ、そこにはアリスが心配そうな顔で体を起こしていた。


「すまない、起こした」

「ううん。また、あの夢?」

「あぁ………」


憔悴しているヘリオの背中を、アリスは優しく撫でる。

アリスが死にかけ、ヘリオが激しく感情を顕にした日から見るようになった悪夢。

自分の事が絡んでいるからか、アリスはヘリオに申し訳なさを感じていた。



***************



そんなある日。トライヨラ大陸で、見たことの無いトラルヴィドラールが目撃された。

その力は強力で、ヴァリガルマンダに匹敵するほどだという。

“武王ウクラマトから救援要請が入ったから、お前達も手伝ってくれ”と、ガウラから連絡を受けたアリスは、ヘリオを連れ、ガウラとヴァルの案内の元、トライヨラへとやってきた。


「ガウラ!来てくれて嬉しいぜ!」

「ラマチ、なんだか大変なことになってるらしいね」

「あぁ。今回のトラルヴィドラールは手強くてな。被害が拡大するばかりで参ってるんだ」

「みたいだね。とりあえず、今私が声をかけられる戦力を連れてきたよ」


ガウラの言葉に、ウクラマトはアリス達を見る。


「ヴァルは前に会ったことあるけど、他の2人は?」

「私の弟と、そのパートナーだよ」

「ヘリオ·リガンです」

「俺はフ·アリス·ティアです」

「私はウクラマトだ!堅苦しいのは苦手だから、敬語とかは気にしなくていいぞ!」


気さくに笑うウクラマト。

それに困ったように溜め息を吐くミコッテがいた。


「ラマチ。もう少し王らしくしてもいいと思うのだが…」

「コーナ兄さんは堅苦しすぎるんだよ」

「はぁ、全く…。まぁ、それは置いといて。ラマチ、そろそろ本題に入らないと」

「そうだな」


理王のコーナに促され、改めて今回のトラルヴィドラールについて話し始める。

トラルヴィドラールの正体は、キングベヒーモスだという。

本来なら、トライヨラには居ない種なのだが、誰かが幼体を面白半分で連れてきて野放しになった可能性があるという。


「エーテルを大量に摂取しているのか、メテオの威力が強力で、こちらでは手の打ちようもなかったのです」

「……なるほどね。ベヒーモス系は何度か戦ったことはあるけど、メテオは確かにやっかいだね。発動する前に何とかするか、身を隠せるところにおびき寄せて戦えたらいいんだけど……」


作戦会議が始まり、誘い出す場所はオルコ·パチャの南部山岳地帯に決まった。

メテオ対策で身を隠せる様に、ヨカフイ族に頼んで大きな石材を幾つか設置してもらうこととなった。

全ての準備が整い、ヴァルがキングベヒーモスを予定の場所に誘い出す。

目的地まで来た時、キングベヒーモスの攻撃を大きく飛んで避けるヴァル。

待機していたアリスが、すかさずシールドロブをキングベヒーモスに仕掛けた。

キングベヒーモスの注意がアリスに向いた瞬間。


「お前の相手はこの俺だ!!」


挑発を入れ、キングベヒーモスのヘイトを取っていく。

それに続くようにガウラ、ヘリオも飛び出す。

ヴァルも体制を立て直し、それに続く。

各々、ジョブの役割をこなしながら、キングベヒーモスにダメージを与えていく。

キングベヒーモスもミールストームを発生させたり、サンダーボルトを吐いたりと、激しい攻撃を繰り出す。

それを、冷静に、確実に避けながら、キングベヒーモスにダメージを与えていく。

徐々に傷だらけになっていくキングベヒーモス。

そして、ガウラが叫ぶ。


「ベヒーモスの足が震えてるっ!!ヤツの体力は限界だ!!メテオに気をつけろ!!!」


その言葉通り、キングベヒーモスは咆哮を上げ、メテオを唱え始める。

設置しておいた石材の影からヴァルとガウラは遠距離攻撃、ヘリオは石材の影に移動し、バリアを全体に張る。

アリスはギリギリまで直接攻撃をし、近くの石材に走って隠れた。

メテオが発動し、周りの物を吹き飛ばしていく。

そこで、このキングベヒーモスのメテオが、今までのモノとは別格に強い事を知った。


「話には聞いてたけど、これは予想外だっ!!」


何発かのメテオを想定して設置していた石材が、今の一撃で全て吹き飛んでしまっていた。


「とにかく叩くぞ!!」


一斉にキングベヒーモスに総攻撃をかける4人。

だが、弱っているとはいえ、元々の体力が多いキングベヒーモス。

2回目のメテオを唱える姿勢に入った。


「みんな!俺の後ろにっ!!」


アリスが叫ぶ。

3人が後ろに集まると、アリスはメテオのタイミングを見計らい、パッセージ·オブ·アームズを展開。

ヘリオは、バリアを張りつつ攻撃。

ヴァルとガウラは遠距離攻撃を仕掛ける。

2度目のメテオがおさまると、ヘリオはアリスを回復。

また、総攻撃をかけるが3度目のメテオが唱えられる。

アリスは覚悟を決めて盾を構える。

ヘリオに最大限のバリアを張るように伝え、再度皆を自分の後ろに誘導。

メテオのタイミングに合わせてインビンシブルを発動させた。

これでキングベヒーモスを倒せなければ、次のメテオで全滅する。

それを全員が理解しているからか、ヴァルとガウラ、ヘリオは遠距離攻撃を休まず放っている。

そして、3度目のメテオがおさまると、キングベヒーモスが蹌踉けた。

すかさず、ガウラのバトルボイスが発せられ、ヴァルは祖霊降ろしのコンボを放ち、アリスもコンフィテオルのコンボを叩き込む。

だが、キングベヒーモスは咆哮を上げ、4発目のメテオの詠唱に入った。

エーテル視をしていたアリスとヴァルが同時に呟く。


「「これを耐えれば、もうメテオは打てない…」」


状況的にそれは難しい。


パッセもインビンも使い、石材も無い。


まさに万事休す。


アリスの全身に嫌な汗が流れる。


どうすればいいか、策が思いつかない。


そんな時だった。


「俺の後ろにっ!!」


そう叫んだのはヘリオだった。

その手には暗黒騎士の大剣。

彼の意図を察し、皆が後ろに集まる。

ヘリオは大剣を盾替わりにし、リビングデッドを発動。

それを見たアリスは幻具を持ち、白魔道士にジョブチェンジする。


ヘリオの行動は、アリスを護れなかった時の記憶から来るものであった。

彼の“今度は必ず護る”と言う強い意志。


リビングデッドからウォーキングデッドに変わった瞬間、アリスはベネディクションをかけ、バリアを張る。

何とかメテオを防ぎきり、最初に飛び出したのはヴァルだった。

体力もエーテルも限界で、動けなくなっているキングベヒーモスの前に位置取ると、武器をクロスさせた。


「ヘリオっ!!!」


ヴァルの呼び掛けに、ヘリオは迷わず彼女に向かって駆け出し、武器のクロスさせた部分に足をかける。


「行けっ!!」


ヴァルはそう叫んで、ヘリオを上空へ打ち上げた。

キングベヒーモスの頭上から、ヘリオは落下と同時に大剣を振り下ろし、頭を一刀両断。

キングベヒーモスはそのまま倒れ、エーテルの粒子となって消えた。

それを見届けた後、ヘリオは自身の両手を見つめる。

そして、護り抜いた実感に拳を握り、小さくガッツポーズを取った。


「ヘリオっ!!」

「っ?!」


アリスがヘリオに駆け寄り、抱きしめた。

そのアリスの身体は小さく震えていた。

アリスもまた、策が思いつかなかった焦りと、自分の代わりに皆の壁となったヘリオの行動に、彼を失うかもしれない恐怖を感じてしまっていた。

それに気付いたヘリオは、アリスの背中に手を回し、優しく撫でた。


「心配かけた」

「うん……っ、うんっ」


アリスの声は震えていて、泣いているのが分かる。


「ヘリオ」

「姉さん……」


そこに近寄ってきたのは、姉のガウラだった。


「今回は何とか出来たな」

「……あぁ」


そう返事をしたヘリオの表情は、心做しか晴れやかだった。

それから、ヘリオが悪夢に悩まされる事が無くなったのであった。