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【マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)インタビュー】懐かしい未来を共有していく決意。

2026.02.28 04:59
2025年。日本の47後道府県のすべてをめぐるツアー「集炎」を行ったGEZAN。そのツアーの終結点とも言える初の武道館ワンマンが迫ってきている。平和に対するメッセージを発信し続け、自分たちの信じた道を自分たちで開拓してきたGEZAN。武道館のおよそ1月前の2月15日に新作『I KNOW HOW NOW』が発表された。なぜ47都道府県ツアーに向かったのか。なぜ武道館だったのか。その答えは3月14日に明かされる。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito



 ––– 去年、47都道府県をめぐるGEZANのツアー「集炎」が行われました。まずすべての都道府県に足跡を残すツアーへ向かうことにしたそもそもの思いを教えてください。

 インターネットとかのおかげでというか、インターネットのせいというか、すべての都道府県に行ったことがあるような気分になってしまっていたんですね。どの県も名前は知ってるし、鹿児島は暖かいよなとか、北海道は寒いよなとか、感覚的には知ってるようなつもりになってる。けれどそれは単なる情報であって、実際に体を使ってその場所に行って感じたものとは違うよなっていうことを、いろんなときに感じていたんです。自分たちが武道館ライブをやるって決めたときに、今、自分が住んでる場所のことというか、国のことというか、ちゃんと1回向き合ったうえでステージに立ちたいって思った。それで47都道府県を回ろうってなったのがきっかけですね。

––– ツアーの前に武道館は決まってたんですか。

 ほぼ同時でしたね。自分のなかではふたつは切り離せないものだっていう感じもあって。海外に行く機会がすごい増えて。外に出れば出るほど、自分がいる国のことを考えるきっかけが増える。なかにいるとそれがすべてで、わからないこと、見えなくなってしまっていることが多いけど、違う町や違う場所に行くことで、違いが浮き上がってくるじゃないですか。日本だと普通だと思ってたことは海外だと特別で、海外のあの国では特別だと思ってたことが日本では普通なんだなみたいな。そんな反転するような機会がいっぱいあって。自分のなかで、住んでる町の輪郭が見えてきた感じがあって。そういうのに試されてく過程で、まずは全部に会いに行こうっていう。

––– 全国をツアーで巡ってみてどうでした?

 土地の持ってる力はやっぱすごいですよ。温泉とか飯とかっていう部分でも。そういうひとつひとつが結びついた町の空気みたいなのが、ライブハウスなどは背負ってるんですね。そういうものがすごい染みついた場所のある種の霊性というか。いられた時間が長い短いは町によって違うんですけど、そういうものを浴びると一瞬で暮らしが流れ込んでくるというか。ライブハウスを運営したりしてる人たちの日常とかが、なだれ込んでくるような感じがあって。やっぱりこれはデータには絶対置き換えられないものだよなって思いましたね。

––– ライブハウスは、その土地でしか生まれない文化の核みたいなものですから。

 東京より強いんじゃないですかね。東京はどうしても開店して閉店してっていうサイクルも速いし、ビジネスとすごい近い町ではあるから。地方に行けば行くほど、そういうものを超越した意志みたいなもので、ハコを回してる人たちのブルースというか、そういうものがありやすいから。東京ももちろんあるんですよ。けれど地方都市のほうが、より個人のブルースがなだれ込んでくる機会は多い気がする。コロナみたいな厳しい時期も乗り越えて今も続いてるハコには、何かしらの意志というか信念って言われるようなものが、必ずありますから。

––– ある部分では、ライブを活動の主軸においているバンドっていう存在も、それに近いものがあるんじゃないですか。

 そうですよね。すごい不都合な形態だと思ってるし。パソコンで音楽がいっぱい作れる環境のなかで、ひたすらスタジオ入って。ただ、メンバーの衝突とか不都合さみたいなものからしか生まれてこないグルーブは確実にあって。見てる人も人だし、聞いてる人も人だし、DEALを読む人も人だから。完全な人なんて、そう多くはなくて、不完全だからこそ完全を追い求める。人間の持ってる不完全さみたいなものの価値が、もっともっと見出されてくるような気がしてて。ライブハウスとかライブバンドとかフリーペーパーとかは、フィジカルなものですよね。そういう存在は、時代の感覚的には、古い形態だったり古い媒体って言われやすいと思うんですけど、俺はむしろ最先端だと思う。「懐かしい未来」って言葉をよく使うんですけど、すごく未来的なイメージがある。SF的なビジョンで言うと、すべての数字とか電子情報みたいなものが破壊されて、すべてのデータみたいなものが消失した沙漠みたいなところで、レコードとプレイヤーだけが砂のなかに埋もれている。そこだけに残された記録だけが未来を走ってるっていうか。ちょっと飛躍しすぎてるイメージだけど、どこかで数字とかデータみたいなものに疲れていっている流れっていうのはある気がしていて。自分はバンドの不都合さに可能性を感じている。それはライブハウスにも言えるかなって。

––– ソロではなくて、最初からバンド志向だったんですか。

 バンドが1番かっこいいですからね。最小形態の社会みたいなところがあると思ってて。全然思い通りにならないっていう。だからおもしろいっていうことでもあるんですけど。

––– 47都道府県をめぐってきて、海外でのライブも経て、その先にある武道館。武道館では変わった自分になっているイメージってあります?

 すべての県を回ったことで、輪郭がより見えてきた。明確にこれが変わったっていうことではっきり言えるのは、「私たち」っていう言葉が言いやすくなったっていうこと。武道館だけじゃないんですけど、ここに集まった人たち、この流れのなかで集まった人たちのことを、いったん自分は「私たち」と呼ぼうっていう気持ちになってますね。

––– 発言を見たり読んだりしていると、マヒトゥさんは人を信じてるなっていう感じがすごいするんですよ。それが音楽にも現れている。諦めてないっていうか。

 その気持ちが破綻してしまうと、手放しちゃった風船がふっと空へ飛んでいくみたいな感覚になってしまうと思うんです。自分のなかで取り返しのつかない傷になるっていうのが、なんかわかっていて。信じてるというよりも、信じたいっていうほうが本音で言えば近くて。なぜならそっちの方が挑戦としてはすごい難しいから。いい波を感じたい。その波に乗るのか、それともその波を自分でもっと大きな渦にしようとするのか。それは人それぞれだけど。どうせなら足を引っ張るよりは押したい。そうしないと、やってられないぐらい世界が混乱してると思うし。俺が恩恵を受けてきた、例えば「橋の下世界音楽祭」はいつも背中を押してくれる。「で、お前はどうすんだ」って問いかけられる。もらったものを次にパスしていくっていうのは、表現の基本だと思う。今のこの不満みたいなものをよりソリッドな言葉で話すこと以上に、前進したいっていう気持ち。ひとつのライブが終わろうが、武道館が終わろうが、アルバムが出ようが、その後もずっと日常は続いていくわけだから。結局自分で頑張るしかないし、自分自身に集中するしかないって思ってるんですけどね。

––– この2月にアルバム『I KNOW HOW NOW』がリリースされました。武道館公演の前に出すというのは制作に入る前に持っていたのですか。

 やれることを全部やって、すべて求めて。あとは、ただただそこに集まった人たちと次の次元に行くっていう。もうこれだけ。何も出し惜しみもせずに、自分の持ってるデータフォルダみたいなものを空っぽにして、すべてを出してから武道館に行くっていうイメージが最初からあったんです。すべてを放った後って、いい意味でメチャクチャ空っぽになるはず。そうなるとまた新しい風が入ってくると思うんですよね。そのためにも「もうちょっとああしておけば良かった」とか「あれもやれたかも」みたいなことは一切残したくないっていう。やり残しは絶対あるんですけどね。

––– 武道館はマヒトゥさんにとってどんな存在ですか。

 憧れがあったというよりも、明確に1回設定したって感じじゃないですか。やっぱりすごく試される場所だと思うんですよね。場所の持ってる力とかも含めて。

––– 武道館の次は思い描いてるのですか。

 まったく考えてないです。1番楽しみなのは、今やれることを全部出し切ったときにどんな気分になるのか。広い世界を求めるのか。クローズしていくのか。左に流れていくのが右に流れていくのか。海を渡るのか。小さくなることを目指すのか。自分たちがどんな気分になるのかを、本当に楽しみにしてる。こればっかりは誰もコントロールできないと思うんで。

––– そこの部分が自分としても楽しみなんですよね?

 楽しみですね。そこには嘘つかずにやりたいなと思う。何かが終わるときは、必ず次のはじまりのサインがあるはずなんで。ライブをやってるときにもきっといっぱい出てるし、自分の内側からも出てると思うし。武道館の景色のなかにもそういう断片がいっぱい飛び交ってるはず。そういうものをキャッチするのが楽しみですね。

––– 自分を奮い立たせている活力源ってなんだと思います?

 やっぱり希望ですね。いろんな動きをするなかで、自分の内側に舞い込んでくる希望の破片みたいなもの。それだけが自分の日常を埋めてるわけではもちろんなくて。でもやっぱり動くと波紋がある。その波紋のなかには必ず自由の気配とか予感とか、そういうものがあって。それが生きてる実感とも言えるし。まだ何か風を起こせるんだなっていうこと。それを感じられるってのはすごい重要なことだと思う。別に世界のうねり具合と同調する必要もない。どれだけ悲惨な世界に世界になっていっても、小さな喜びに見えるかもしれないけど、そこのピント合わせをする集中力も大事だと思う。わがままさというか、そういう視点を自分のなかで明確に育てておくっていうか。その視点を成長させておくことがサバイブするうえでも重要なんじゃないですかね。

 ––– 最後に、今の日本ってどう思います?

 質問がでかいな(笑)。サンキュー&ファッキューって感じかな。ちゃんと感謝してる部分もあります。日本のなかでもいろんなことが起きている。そのなかでも最高の瞬間はたくさんある。一緒に最高の瞬間を作ってくれる仲間もいる。「どんな国か?」って聞かれて一言で答えられないのと同じように、複雑さのなかにある。同時にその複雑さをなくすような、平たくひとつのものにまとめていこうとする動きに関しては、やっぱりすごい抵抗感があるんですよ。裏も表もないし、純潔も亜種とか混ざりものとか、そんなものもなくて。すべては混在した矛盾を抱えている。光も影も、天使も悪魔も、平熱も情熱も、全部がひとつのなかで渦巻いて、ずっと流れている。固定された定義はなくて、ただただ流動する。そんな流線のなかを、ただ切り取ってくだけしかないから。それを固定する動きに関しては自分は抵抗してきたし、これからも抵抗していく。そうじゃなきゃすくい取れないものの恩恵に、自分は救われてきてるから。複雑さを許してもらえる空間で、自分はいびつな形のままで、ここまでやれてきてるしね。

GEZAN 日本武道館 単独公演『独炎』

開催日:2026年3月14日(土)

会場:日本武道館

ACT:GEZAN

PA : 内田直之