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【第19回】ノルウェー、テルアビブ、エジプト――旅が医師の死生観を変えた

2026.02.28 15:05

新人時代、24時間病院にいた林にとって、学会は「唯一の出口」でした。発表後、ノルウェーの夜行列車に飛び乗り、行き先も決めずに降りた駅。そこの博物館で出会ったのは、老人を崖から突き落とす儀式の道具――命に対する価値観が、一瞬で崩れます――。


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📝今週のよりぬき

・学会が唯一の息抜きだった

・ヨーロッパとアメリカ、医療における価値観

・「日本の介護=虐待である」

・ノルウェーで見た、生き延びるための儀式

・テルアビブの庭では土器が発掘される

・オリンピックにも携わる「神グルト」デザイナー


🇺🇸ヨーロッパ、アメリカ……
国によって違う“命”や“介護”の考えかた

早川 今日は、リスナーの方からご質問いただいています。


【ご質問】新人時代の海外での船員医師のエピソードがものすごく興味深く、まるで小説を読んでいるようでした。先生はこれまで、どんな国を訪れていらっしゃったのでしょうか?海外の旅が好きなので、他のエピソードも教えていただけたら幸いです。(広島県・コスモポリターモさん)


 ああ、海王丸に乗った時の話ですね。


早川 あの話は以前、オープニングトークでさらっとしていただこうとしたら、メインの話になるぐらい、すごい内容だったんですよね。

今日はぜひ、先生の海外でのご経験を伺いたいなと思います。


林 若い頃って、もう本当に24時間病院にいるみたいな生活だったんです。そうすると、唯一の息抜きというか、病院から離れられるのが学会だったんですよね。

だから、とにかく病院から離れるために学会に行く、みたいな。今考えるとひどい話ですけどね。家族は置きっぱなしで、自分だけ行って楽しんでくるわけだから……。


早川 学会って、どんな感じなんですか? ケースバイケースだと思うんですけれども。


林 大きな病院で研究している医者は、やっぱり業績を出したいし、出す義務もあります。だから色々な研究をして、評価してもらうために論文を書いたり、学会発表をするんです。

まず学会で発表して、論文にするというのが昔の流れでした。今はもっとスピードが速くなって、発表する前に論文が出ちゃうみたいな時代になりつつありますけどね。

それでも学会は重要で、研究者として「こんなことを発見しました」「研究してみたらこう分かりました」と発表する場なわけです。


早川 なるほど。


林 たとえばヨーロッパまで行って、学会に集中するとなると、もうドキドキするわけです。知らない人たちの前で英語で発表するんですから。だから準備期間も含めて数カ月は余裕なんてないんだけど、終わったあとは「次の日すぐに東京へ帰ります」とはならない。「いやいや、2日ぐらい伸ばしてもいいんじゃないか」って思うわけです。普段、病院に拘束されて寝泊まりしてるような我々にとって、解放感に包まれる貴重な時間です。


早川 そうですよね。


林 病棟から電話も来ないし、教授の目も気にならない。ハメを外すわけじゃないけど、せっかくだからここでしか見られないものを見ようって思う。若い頃は無頓着だったこともあって、決められた観光コースじゃなくて、適当な電車に飛び乗ってみたりして、行き先も決めずに色んなところに行きました。これまで2、30カ国近く行ってるかな。


早川 イメージでは、欧米が多そうですが。


林 欧米は多いけど、アメリカが一番多いですね。

そうそう、欧米って、一括りにしちゃいけないんです。ヨーロッパとアメリカって、考え方がだいぶ違うんですよ。


早川 そうなんですか。


林 アメリカは、これは主観が入っているかもしれないけれど、基本的に「お金」と「結果」みたいなものが重視されやすい。医療の価値観も「インパクトがあるか」が中心になりがちです。一方でヨーロッパの学会は、もっと深くて。「命とは何か」とか、緩和医療とかそういうテーマを訴えることが多いです。アメリカで緩和医療の話を聞きに行ったことはないんだけど、北欧だとむしろメジャーだったりする。

そういう学会を通して衝撃的だったのが、日本では介護施設で、ヘルパーさんが利用者さんの口元までスプーンを運んで食事介助を行うのは当たり前じゃないですか。それが、ある発表の場で、質問者がズバッと「日本のそれは介護ではなく虐待である」って言ったんですよね。

それだけ、国によって考え方が違う。学会には本当に、新しい発見があると思いました。


🌏ノルウェーで目にした
命を落とす“儀式”の道具

早川 尊厳死の考え方なんかも、国によって違いますもんね。


林 そうですね。北欧で印象的だったのは、ノルウェーで電車に飛び乗って、どこで降りるかも決めてなかった時の話です。当時はまだインターネットがなくて、ガイドブック片手に夜行電車に乗りました。ある駅に民族博物館があるという情報を見つけて、駅から歩いて10分ぐらいだったから、降りて行ってみたんです。

その博物館には原始の時代から最近までの生活の展示があって見ていたんだけど、螺旋階段の脇に、高校生の頃、グラウンドをならすのに使った「トンボ」ってあるでしょ。あれの長いやつみたいなのがおいてあったんです。棒の部分が15メートルぐらいあって、すごく長い。それが何本かあるんです。


早川 そんなに長いものが? なんだろう。


 それは何か、という説明板があって、それを読んで愕然としました。

ノルウェーも昔は貧しくて、飢饉があれば餓死するような時代があったそうです。その道具は、そういう時代に行われた儀式の道具だった。

本当に切ない話だけど、村人たちが、年を取って動けなくなったお年寄りを崖の上まで連れて行って、立たせて、皆でその長い“トンボみたいな道具”を持って突き落とすんです。それだけじゃなくて、死にきれなかったお年寄りは崖の下で待っている人が、木のバットでとどめをさす。そのバットも展示されていました。

年を取った方が若い方が生き延びるために、命を落としていく……という。その儀式が20世紀の初めまで残っていたと書いてあって、衝撃でした。

その時の学会で介護とか緩和の話を聞きに行っていたこともあって「福祉国家と言われる国でこんなことが起きていたのか」と、深い気づきがあったんですよね。


早川 それは、計画せずに飛び乗ったからこそ、出会えた話ですね。


林 そう。もう一回同じ場所にはいけないと思います。最寄駅の名前も覚えていないし、何線に乗ったのかも分からないんです。ノルウェーのオスロから電車に乗ったのは覚えているんですけどね。案内所で「どこか行きたいんですけど」と尋ねたら「この電車に乗るといろんなところがあるよ」って言われて乗ったもんですから。ノルウェーというと一般的にはフィヨルドとか氷河のイメージだけど、そうじゃないところに行きたかったんですよね。


早川 今後、どこにでも行けるとしたらどんな国に行ってみたいですか?


 行ったことない国でいうと……エジプトですね。

文明って、繰り返すじゃないですか。

日本にいると5000年前って想像もつかないけれど、地球上の一部の地域では、5000年前にはしっかり文明社会が出来上がっていて、5000年前と今、あまり変わっていないところもあると思います。エジプトはそのひとつですよね。


早川 確かに。


 イスラエルには何回か行ってるんだけど、イスラエルのテルアビブで愕然とした話があって。現地の教授の家に招かれた時に、リビングに、いかにも遺跡から出てきた土器みたいなものが、コーヒーカップと一緒に並んでいたんですよ。「これどうしたの?」って聞いたら、「うちの庭から出てきた」って。

「この辺は掘ればそういうのがどんどん出てくるから、みんな勝手に飾ってるよ」って言われて、驚いた。


早川 庭から、ですか。


林 近くに公園もあって、そこを20メートルぐらい掘り下げたところが展示されているんです。一番下のところなんか見ると、何千年にもわたって積み重なった地層の様子が見てとれる。日本みたいに大火事があれば全部焼けてしまう木ではなく、石で築いた文明は何千年も残るんですね。何千年も前に地下都市があったと考えると……本当にすごいことです。


🐮教えて!神グルト
「神グルトのロゴへのこだわりは?」


早川 神グルトのロゴって、どういった形で生まれたんでしょう?


 そもそもネーミング自体は、神楽坂の自宅の実験から始まったヨーグルトなので「神グルト」としました。

それと、最初に食べてもらったのが病院の院長だった親友で。彼は食べてからアレルギーがすごく改善されて「これ神じゃん!」と言ってくれたこともあって、この名前になりました。

製品化するにあたって、ロゴはいろいろ考えました。最初は自分でデザインしたけど、さすがにと思って、デザイナーさんにお願いすることにして。ただ、起業直前ってお金がないじゃないですか。まぁ、今もないんだけど(苦笑)。

そんな時、たまたま知り合いが「デザイナーさんを紹介する」って言ってくれて。そのデザイナーさんは昔から売れていて、一時期は有名なヨーグルトとかアイスのデザインをされていた方だったんです。「絶対お願いするお金が足りないよ」と思ったんだけど、一旦会ってみたんですね。


早川 なるほど。


 その方は社会的なことに興味がある方でした。起業の思いとかやりたいことを、このラジオみたく熱く語ってたら「すごい面白いじゃない。で、何をしてほしいの?」って。そこで「会社のロゴも商品のロゴも作りたい」って話したら、「やる」って言ってくれたんです。


早川 おお……!


 「いや、でも、本当にお金ないので」って言ったら、「別に金はどうでもいいよ」って言うんです。「いや、どうでもいいって言っても、こちらはその“どうでもいい金額”すら払えないんです」って返したら、「じゃあ、いくらなら払えるの?」。「100万円もないんです。頑張っても50万円までで、そんな金額でお願いするのは申し訳ないです」って言ったら、「全然50でいいよ。後で出世払いね」と引き受けてくれて、今があります。


早川 すごい話ですね。


 彼に、神グルトと会社のロゴ、名刺、ステッカー、全部作っていただいて、今でもありがたく使っています。

ちなみにその方は、1964年の東京オリンピックのデザインに関わった方なんです。あの東京オリンピックって、世界で初めてピクトグラムが生まれたオリンピックでしょう。代々木の選手村のところにテントやプレハブがあって、そこに日本中の若いデザイナーが集められて、何カ月かオリンピックに関わる仕事をしていたそうで。その後独立されて、パリと青山に事務所を持っていたようです。そんな方が作ってくれた、思いのこもったロゴなんです。


早川 それだけすごい方が、神グルトに携わってくれているんですね。


 デザインを決める時、20種類くらい案を出してくれてますから、相当時間かかってると思います。その中で「これだ」と思ったのが、今のデザインだったんですよね。(了)