学びには「順番」がある
レッスンをしていると、生徒さんが急にできるようになる瞬間に立ち会うことがあります。先日までおぼつかなかった線が、ある日ふっと安定する。迷っていた筆の動きが、するりと滑らかに動くようになる。けれどその変化は、決して突然生まれたものではありません。
アメリカの教育心理学者 ベンジャミン・ブルームは、学びには段階があると考えました。「Bloom's Taxonomy」という学習の段階を整理した枠組みです。学びは、ただ知識を覚えるだけではなく、
- 記憶(Remember)
- 理解(Understand)
- 応用(Apply)
- 分析(Analyze)
- 評価(Evaluate)
- 創造(Create)
へと深まっていくプロセスをたどる、という考え方です。
私たちはつい、「今できているかどうか」で成長を確認します。けれど実際には、その手前に長い時間が流れています。
生徒さんのことをよく見ていると、できるようになる前に少しの迷いが現れることがあります。線が不安定になったり、今までしっかり書けていた線が弱くなったりする。これは、お手本をより深く見られるようになったからこそ、自分の筆跡との違いに気づき始めた証かもしれません。一見すると後退のように見えるその時期は、次の段階へ移ろうとしている大切なサインです。
まだ「理解」の段階にいる人に「表現(創造)」を求めれば息苦しさが生まれます。反対に、 十分に「理解」が育った人には、次の挑戦の機会が必要です。だからこそ、指導者として一人ひとりの変化を丁寧に観察すること、目に見える成果だけで判断しないことを心がけています。
学びとは、まっすぐ積み上がるものではありません。行きつ戻りつしながら、静かに深まっていくもの。基礎を積み重ねる時間は、決して遠回りではなく、次の段階へ進むための準備です。
- 筆の持ち方や線の引き方を覚える段階
- 字の形を理解し、安定して書けるようになる段階
- そして字の意味や余白を意識し、自分なりの表現へと向かう段階
「今できていること」だけを見るのではなく、その人が今どこを歩いているのかを注意深く観ること。小さな変化を見逃さず、次の一歩をそっと後押しすること。それが、指導する者の役割なのだと、改めて心に刻んでいます。