「ツッコミどころ満載」 駐日中国大使館の「日本批判」投稿に反論する
中華人民共和国駐日本国大使館は3月1日、X(公式Twitter)で「#日本に関する九つの問い」(#关于日本的九问)という連続投稿を中文と日本語の両方で行い、日本批判を展開した。その日本批判だが、まさに「ツッコミどころ満載」で「自分のことは棚に上げて、よくそんなことが言えるな!どの口が言っているのか?」と突っ込みたくなること、請け合いである。
日本語には「物言えば唇寒し」という言葉がある。口を開くと秋の冷たい風が唇に触れて寒々とした気分になるように、人の悪口を言ったり自分を自慢したりすると後味の悪さや寂しい気持ちが残る、転じて「余計なことを口にすると災いを招く」という教訓でもある。中国人には、日本人のこうしたデリケートな感情はおそらく理解できないだろうが、中国大使館のXへの投稿は、まさに「物言えば唇寒し」で、自分に批判が跳ね返ってくること、つまり「災いを招く」ことを予想せずに、なぜこんな投稿ができたのか不思議に思う。
しかし逆に日本人の立場からは、「物言えば唇寒し」だから、といって「沈黙」する訳にはいかない。中国側からの不当な批判には反論せずにはいられない。
その「九つの問い」とは、以下のとおり。
【一、高市首相は台湾関連の誤った発言を真に反省したか?】
【二、日本は台湾問題で言動が一致しているか?】
【三、日本軍国主義は徹底的に清算されたか?】
【四、日本は侵略の歴史を心から反省しているか?】
【五、戦後賠償において、日本はドイツと比較してどのような点で見劣りするのか?】
【六、日本の侵略戦争が残した問題は解決されたか?】
【七、日本は本当に「専守防衛」を堅持しているか?】
【八、日本は本当に「平和国家」なのか?】
【九、日本の人権状況は本当に良いのか?】
原文は、Xで確認してもらうとして、以下にその要旨と、私なりの「ツッコミ」を述べてみたい。
~日本は台湾問題の対話による解決を求めてきた~
まず【一、高市首相は台湾関連の誤った発言を真に反省したか?】では、「高市首相の台湾関連発言は、第二次世界大戦後、日本の指導者として初めて、中国に対する武力による威嚇の意味合いを含む発言だった」とし、「『台湾有事』であるか否かが日本に何の関係があるのか。なぜ、いわゆる『台湾有事』のシナリオを自国と執拗に結びつけ、なんとかして米国を引き込んで話をしようとするのか。高市首相の発言は、釈明すればするほど「本音」を吐露するもので、代償を払ってでも台湾海峡に軍事介入し、中国の内政に干渉しようとする一部勢力の目的を露呈している」とする。
また【二、日本は台湾問題で言動が一致しているか?】では、「1972年の国交回復時に署名された「中日共同声明」には、日本政府が中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府と承認し、台湾が中国の領土の不可分の一部であることを十分理解し、尊重」すると明記されているとしたうえで、「近年、日本の政界では『台湾有事は日本有事』との論調が広がり、政府高官や与党上層部、国会議員、地方高官が頻繁に台湾を訪問し、台湾に近い地域で標的を定めた軍事配備を強化している」。「これらは明白な背信行為であり、中日関係の政治的な基礎を根本から損ない、両国関係の発展に深刻な障害をもたらしている」と主張する。
<反論>ここでいう「台湾有事」とは、まさに中国が台湾に武力侵攻する事態にことだが、われわれ日本から言わせれば、台湾有事は日本有事だけではない、アジア有事であり世界有事だ。トランプ大統領が、核開発を理由にイランを攻撃し、麻薬対策を理由にベネズエラを攻撃したのと同様に、中国がいくら自分の不可分の領土で内政問題だといっても、アジア随一の民主国家・台湾に軍事侵攻し、何の罪もない台湾住民を殺害する行為を黙って見捨てる訳がない。米国が台湾を防衛するために西太平洋に兵力を展開し、それに対して中国が攻撃を仕掛け、米軍に被害が及ぶとしたら、日本は日米同盟という枠組みの中で存立危機事態を宣言し、武力介入に踏み込むのは当然の帰結ということになる。中国の政権内部には台湾侵攻に反対した張又侠軍事委員会副主席など、軍内部にも反習近平勢力がいると伝えられているが、台湾への軍事侵攻に、はたして正当性や大義があるのか、政権内部で民主的に議論をするほうが、軍国主義復活を云々して日本を批判するより先ではないのか?
~日本は戦後一貫して「平和国家」の道を歩んできた~
【三、日本軍国主義は徹底的に清算されたか?】では、極東国際軍事裁判(東京裁判)について「日本のA級戦犯に判決を下し、国際社会による日本軍国主義に対する正義の清算であった」とし、サンフランシスコ平和条約について、「日本は米国及び米国が集めた一部の国々と(条約を)締結し、敗戦の歴史の教訓を極力矮小化し、軍国主義による侵略の罪責から逃れようとしてきた」とし、「軍国主義と徹底的に決別しなかったことで、日本では今なお侵略戦争の思想的根源や政治的残存勢力が害をなしている。日本右翼勢力は軍拡推進に拍車をかけ、第二次世界大戦の結果と戦後の国際秩序に挑戦している」と主張する。
<反論>中国は、極東国際軍事裁判について「(当時)冷戦の開始で早期終了」したとし、「裁判自体が政治的妥協のみで終了した」と評価し、サンフランシスコ平和条約についても中国が内戦で参加しなかったため、一部の国々だけによって矮小化されたと否定的に評価する。しかし、それは一般的な国際政治学者とは見解を異とする、一方的に単純化した見方にすぎない。
またA級戦犯容疑者だった岸信介やA級戦犯の判決を受けた重光葵が、のちに追放解除され総理大臣や外相に就任したことをもって、戦後秩序への挑戦だとか軍国主義復活だとこじつけ、さらに1951年に追放解除された公職追放者21万人はあたかも全員が軍国主義者や戦犯であるかのように扱っているが、事実誤認も甚だしい。
そのうえで中国側は、極東軍事裁判やサンフランシスコ平和条約などの敗戦の結果と戦後の国際秩序を日本は否定し挑戦しているというが、極東軍事裁判の結果やサンフランシスコ平和条約を遵守し、戦後一貫して「平和国家」としての道を歩み、国際社会に貢献してきたのが日本であることは、世界のほとんど国が認めている。一方で、現在の国際秩序、選挙を通じた民主主義、市民の自由と人権など、20世紀までに人類が到達した「文明の成果や価値観」を否定しているのが中国であり、かつての「植民地帝国主義」を復活させているのが中国である。チベットやウイグル、南モンゴル、それに香港での人権弾圧、さらに一帯一路という名の経済進出と相手国を「債務の罠」に陥れる植民地政策をみればそれは明らかだ。
【四、日本は侵略の歴史を心から反省しているか?】では、「(日本の)一部の右翼政治屋や為政者は、歴史を正視することを常に拒んでいる」。「侵略を極力矮小化し、否認し、さらには美化し続けている」。「歴史教科書の改竄を進め、『南京大虐殺』や『慰安婦』強制連行などの歴史的事実を否認している」とし、「歴史を否認することは責任を認めないことであり、教訓を忘れれば必然的に同じ過ちを繰り返すことになる」と主張する。
<反論>歴史的な事実を認めようとせず、有ったことを無かったことにしているのは、むしろ中国のほうである。文化大革命をはじめ毛沢東による数多くの失策をしっかりと検証して反省せず、89年天安門事件で学生や市民に対する虐殺の事実を認めず、いまも多くの民主活動家や異見論者の口を封じ、言論・表現の自由を奪っているのは中国共産党政権である。
~日本は戦後処理に当たり透明化と説明責任を果たしてきた~
【五、戦後賠償において、日本はドイツと比較してどのような点で見劣りするのか?】では、「日本は戦後賠償問題において(ドイツとは)全く異なる態度を取ってきた。条約締結によって問題を1回で解決することを図り、戦争責任に対する体系的な清算を回避してきた」とし、「強制連行された労働者や「慰安婦」、細菌戦などの被害者及びその遺族が日本で提起した賠償訴訟は、ほとんどが敗訴に終わり」「民間被害者に対する法的・道義的責任を長年にわたり回避してきた」と主張する。
<反論>ドイツがユダヤ人に対するホロコースト・民族浄化・ジェノサイドを行ったのと違い、日本はそうした民族政策は採ったことがなく、むしろ「八紘一宇」のスローガンの下に諸民族の平等と融和を理念とした。人類史や文明史に対して罪を犯したドイツとは、謝罪や国家賠償の意味が違うのである。また個人賠償請求についても、戦時労働や慰安婦に「強制」という事実があったのかどうかの認定は難しく、その証拠は明確に示されていないのが実態だ。
さらに「反省」という意味では、日本の新聞テレビは毎年8月になれば、戦争の歴史を回顧する特集・特番を制作し、読者や視聴者、子供たちが戦争の歴史を忘れないようにという訴えを継続してきた。また学校でも平和教育を徹底してきた。その一方で、中国では子供たちに日本への憎しみを植え付け、幼い子供にも銃をとって戦うことを強いる軍国(愛国)主義教育を行うなど、教育現場もメディアも平和教育とは真逆の、戦争を煽る洗脳教育しかしていないのが実態だ。
【六、日本の侵略戦争が残した問題は解決されたか?】では、「第二次世界大戦中、20万人以上の女性が日本側によっていわゆる「慰安婦」として強制連行され、長期にわたり性的奴隷の状態に置かれた。1000万人以上の労働者が強制連行され、非人道的な環境下で過酷な労働を強いられた」と主張するほか、「日本の遺棄化学兵器約40万発」の廃棄処分が完了していないこと、日本軍の占領地で強制的に流通させられたとする「軍票」の補償が未解決となっている問題、さらに日本に略奪された「大量の貴重な文化財がいまだに日本側に占有」されている問題などを取り上げている。
<反論>慰安婦や戦時労働者の問題は、前述のとおり強制だとする明確な証拠はなく、ここでいう20万人とか1000万人以上などという漠然とした数字も、一般に国際的学術水準では確認困難で、根拠のない、かなり拡張された推計に過ぎない。また遺棄化学兵器の廃棄も、処理に時間がかかっているのは確かだが、継続作業中のものであり、「意図的放棄」と断定される、いわれはない。
さらに第2次大戦の終結後、国民党と共産軍による内戦に陥り、大陸と台湾に分断して互いに正統性を主張し、互いを罵倒しあう中で、どちらが中国人民を代表する正統政府なのか、戦後も四半世紀にわたって決着がつかず、1971年の国連加盟と台湾の脱退という形で一応落ち着いたが、その後も、国際社会は中国と台湾のどちらか一方の承認と断交を迫られ、中国と台湾がそれぞれ経済支援を約束する形での外交関係樹立を迫られてきた。こうした中台対立が、戦後処理の問題を遅らせた原因でもあった。日本政府としては誠実に扱ってきた戦後処理問題の問題を一方的に日本の責任に帰すのは、自分たちの内戦状態や対立という過去の背景を無視する態度そのものだ。
~日本の戦後80年を評価せず過去史にこだわって何の利益があるのか~
【七、日本は本当に「専守防衛」を堅持しているか?】では、日本の防衛政策転換について、2015年の安全保障関連法案で、日本と「密接な関係にある他国」が武力攻撃を受け、かつそれが「存立危機事態」に該当すると認定された場合、日本は集団的自衛権を行使できると定めたこと。2022年に新たな「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を閣議決定し、「敵基地攻撃能力」を国家防衛戦略に明記し、「自衛隊に先制攻撃権を付与した」こと、そしていま高市政権が武器輸出3原則の見直しを検討していることなどから「『専守防衛』はすでに有名無実化」し、「かつて好戦的で武力を乱用した日本が再び『戦える国』『戦おうとする国』」になろうとしていると主張する。
<反論>ここでは、日本は事実上の軍事国家へ回帰しているというフレームを作って非難しているが、軍事管制国家、軍事至上主義国家は中国のことである。日本が「専守防衛」とだけ言っていれば済む事態ではなくなったのは、毎年、軍事費を膨張させ、核兵器をはじめ先端兵器の増強を進め、尖閣諸島や沖縄など日本の領土を簒奪しようと野心をたぎらせる隣国・中国の存在があるからだ。「かつて好戦的で武力を乱用した日本」というが、台湾への軍事侵攻や東シナ海や南シナ海、インドやブータンなどへの領土拡大の意図を隠さず、軍拡を進め、米国を越える覇権国家を目指し、軍国主義の道をひた走っているのは習近平の中国である。
【八、日本は本当に「平和国家」なのか?】では
戦力の不保持を謳った「日本国憲法第九条」は、日本による「国際社会に対する厳粛な約束であり、国際社会へ復帰するための政治的・法的な礎でもあった」が、高市政権はこの憲法を改正し自衛隊を「正式な軍隊」に変えようとしていると主張。「同時に、日本の軍事費は14年連続で増加し、直近5年間で約60%急増した。2025年の1人当たり防衛費は中国の3倍に達している」とし、「なぜ自国の防衛上の必要を超える攻撃能力の開発にこれほどまでに執着するのか」と問うている。
<反論>他国には内政干渉するなと言っておきながら、日本の憲法問題に口を挟み、憲法改正を批判するのは内政干渉の極みである。先の総選挙では、中国外交部報道官が「その結果に内政干渉しない」といいながら、大阪総領事が「首相の首を切る」だとか露骨に脅しをかけ、SNS上では反高市言論を拡散しまくっていたのはどこの国だったか。日本の防衛費が14年連続で増加したといっているが、日本の防衛費はGDP比で長年1%前後に抑制されてきたという事実も、軍国主義復活論を否定する客観的指標となっている。中国の軍事費(国防予算)は冷戦終結の1991年に530億元だったものが2023年には2.1兆元まで40倍近くも増大した。どんなに国民経済が疲弊しても、国防費だけは高い伸びを示し、ことに1990年代が2010年代前半まではほとんどの年で10%以上、ときには20%を越える伸びを示すことさえあった(いずれも世界銀行のデータによる)。まさに「どの口が言っているのか?」である。
もう一度いう。日本は戦後、サンフランシスコ平和条約と国連憲章を守り、一貫して「平和国家」としての道を歩んできた。その事実は国際社会によって高く評価されている。
【九、日本の人権状況は本当に良いのか?】では、「日本は長年にわたり『人権の優等生』を自任し、しばしば『人権カード』を切って他国の内政に干渉してきた」とし、「日本はアイヌや琉球人など少数民族の権利を長期にわたって侵害」し。「水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息などの公害病が発生した際」には「事実を隠蔽し、対応を遅らせ」、「経済的繁栄という表象の下にある貧困と差別の問題も軽視できない。日本の相対的貧困率は15.4%に達し、約6人に1人が社会の一般的水準を大きく下回る生活を送り、子供の7人に1人が食料不足や栄養の偏りという状況に直面している」などと主張する。
<反論>アイヌや琉球人のこと、水俣病など公害病のことなどは、いつの時代の話をしているのかと思う。かつて差別された人たちがいたからこそ、その人たちの特別法を整備して互いに分け隔てなく平和に暮らせるようになり、公害病を克服するための様々な対策や法律を整備したからこそ、日本は世界に冠たる環境先進国になったのである。そういう努力を無視して、過去にだけ目を向けることに何の利益があるのか。
また「日本軍国主義は大虐殺、生体実験、細菌戦、従軍『慰安婦』など人権上の惨劇を数多く引き起こした。その残虐性は人類史上極めて稀に見るものである」というが、中国共産党は文化大革命をはじめとする政治運動で地主や知識人など累計7000万人を殺害し、武力侵攻したチベットやウイグル、南モンゴルでは民族浄化政策を行い、法輪功信者やウイグル人、それに誘拐した一般市民・子供からの臓器摘出は今も続く国家ぐるみの残虐な犯罪行為であり、香港市民からの選挙と自由な言論の剥奪、チベットやウイグル・南モンゴル人、それに民主活動家や人権弁護士などに対する「自白の強要や証拠の捏造」、さらにコロナ・ウィルスの蔓延に対する強制措置への市民の無言の抗議活動「白紙革命」などに対して、「市民の抗議に耳を貸さず、警察を動員して鎮圧する」のは、むしろ中国の日常茶飯事であり、それらは「人類史上極めて稀に見るもの」と言わざるをえない。
「自国の一般市民の権利すら保障できない政府に、他国をことさらにあげつらい、批判する資格はない」という指摘は、そのまま中国に突き返すことができる。(カギ括弧内はいずれも中国大使館の投稿文書)
そもそも国の外交の出先である在外公館の役割は、駐在国で相手国の信頼を勝ち取り、自分たちの外交を推進するために有利な環境を整えることにあるはずだ。そのためには相手国の国民心理に働きかける宣伝工作や政治家への直接的な影響力工作も必要であろう。しかし、いま駐日中国大使館が日常的に行っているXへの投稿は、その真逆のことを行うだけで、日本人を敵に回し、日本国民の間に反中国の感情を植え付け、敵対者を増やすことにしか役に立っていない。在日大使館にいる中国外交官たちに聞きたい。何のために日本に駐在しているのか?そんなことばかりしていて日本滞在を楽しむことなどできるのか?