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道草

2026.03.07 09:11

     いつか日本文学も読まないといけない。。と感じていたので、最近、とりあえず夏目漱石を読み始めることにしました。たしか「こころ」という作品は学校の教科書に載っていましたし、「坊ちゃん」という作品では、「赤シャツ」「野だいこ」「山嵐」といったキャラクター名が有名です。夏目さんが活躍した「明治」というと、その時代を舞台にした司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」なんていう作品もあり、なんとなく親近感があって読み始めました。


  とは言うものの、夏目さんという人は、英語が得意で日本の国費でイギリス留学していたほどの秀才であり、しかも、日本語においても繊細な表現力を駆使して、今に至るまで読者に読み継がれる文学作品を書いた才人、、という自分の先入観もあり、正直なところなんとなく読むのがおっくうだったのですが、でもやはり実際行動を起こして読んでみるといいですね。今回読んで、夏目さんの生い立ちや苦労が少しシェアできたような感じがしました。


  今回紹介するこの「道草」という作品。彼が逝去する1年前に書かれたものです。彼の自伝小説ともいわれているようですが、実際、かなり夏目さんご本人の生活感が投影されているように思えます。彼の生涯をネットなんかで調べてみるとわかりますが、実は夏目さんの人生は波乱に満ちています。生活に苦労のない秀才のように思っていましたが、まったくさにあらず。生まれた家は、明治という新しい時代にに取り残されつつある(没落しかけの)旧家で、家が貧しく、上に男の子(兄)が数人いる下の男の子だったこともあり、幼少のころに養子に出されます。しかし、養子に行った先でいろいろ問題があり、結局は実家に出戻る羽目になります。子供の口減らしをしたかった実家では、邪魔扱いされ、養子に行った先では老後の生活費の面倒をみさせようとする養父母の思惑が見え隠れがする、そういった本家と養子家の行き来で、彼は世間の身勝手さ、たとえ肉親と言えども、自分の子供でも邪魔者扱いする親の薄情さを痛いほど経験したのです。また、大人になって、イギリス留学後、物書きに転身し苦労の末なんとか時流作家になっても、彼の印税を頼る親せきの無心相談や子供時代「養育費」という名目で、老いた養父・母からの金の相談。。そういったお金の苦労のためか、長年の持病である胃潰瘍が悪化する晩年においても、体に鞭を打ち続け文筆生活を続けていったのです。


  「こころ」「虞美人草(ぐびじんそう)」「三四郎」など、当時の上流階級の若者の友情や恋愛心理を繊細な心理描写と華麗な文体で描いた夏目漱石も実際の生活はかなり苦しかったことがこの小説から実感できます。また、この小説で感じたのは、明治という時代に生きる人々のギスギス感です。今のような国民年金制度や、世界に冠たる国民皆保険制度などの社会保障制度がなく、また、昭和の頃、よくニュースなどで聞かれた「1億総中流」という言葉もかったこの時代、日本は相当な格差社会であったように感じられます。人は年老いたら頼れる人間に頼って、生活費の無心をすることは当然のことのようにこの小説には描かれます。また、東京の中心地と言われるような、例えば丸の内の近辺などでも、まだまだ至る所に空き地が点在していたようで、いくら文明化が花咲いた時代といっても、明治時代はまだまだ経済発展の途上の過程にあった時代なのだと感じられます。


  そいうった時代にあって繊細な心をもって文筆活動に励んでいた夏目さんにとって、生きることは、大変な労苦だったと想像します。実際、この小説を書く頃は、悪性の胃潰瘍をわずれっていたようで、これがもとで、この小説を書き終わった一年後、わずか50歳で、他界することになります。


  現在でも、小説がたびたびテレビドラマ化されたり、舞台化されたりする夏目漱石さん。これまで、明るく爽やかな青春小説を描いてきた、というイメージを(作品を読みもしないのに、勝手に)膨らませていましたが、個人的にはこの「道草」(や「こころ」)の暗さや挫折感にとてもひきつけられ、一層夏目さんの作品に興味がわいてきました。。(考えてみれば、我々がよく知っている夏目さんの写真って、なんとなくほうづえをついて、陰鬱な表情をしていまよね。。)