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弁護士の言いぐさ

交通事故の賠償額の基準について

2019.03.10 04:07

 交通事故の当事者(被害者でも加害者でも)になってしまう可能性は誰にでもあります。

 ちなみに、私自身は、信号待ちで追突されて物損事故の被害者になったことがあります。


 交通事故の当事者になった場合に驚かれるかもしれないのは、

損害賠償の金額は、法律で具体的に決められているわけではないということです。


 賠償の金額について「裁判基準」「保険会社基準」などと言われることはありますけれど、

「裁判基準」と言えるような基準を定めた法律そのものはありません。



 交通事故の場合の損害賠償の法的根拠は、基本的には次の条文になります。

民法
(不法行為による損害賠償)
第709条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
自動車損害賠償法
(自動車損害賠償責任)
第3条  自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。


 これらの条文では、損害の範囲あるいは評価方法について具体的な定めがあるわけではありません。

 もし、損害の範囲や金額の評価方法を具体的に定めてしまうと、その範囲にとらわれてしまって、かえって実際に起こる様々な事案で適切な解決が図れなくなってしまう危険があります。ですから、具体的な損害の金額評価は最終的には裁判官に任されています。


 ただ、そうは言っても、年間に多数の事故が発生している中で、イチから被害者に自由な主張・立証をしてもらって、損害の範囲や金額を個々の裁判官が決めるとなると、実務的には解決も遅くなるでしょうし、裁判官の当たりハズレによって認められる賠償額に大きな開きが生じる危険もあります。


 そういった不都合・危険を回避する実務上の工夫として、

日本の交通事故の損害賠償については、これまでの裁判例の積み重ねが書籍にまとめられて、その積み重ねを前提に新たに生じた交通事故の賠償額をある程度は見込むことができるようになっています。

 その書籍で業界で最もメジャーなのは『赤い本」と呼ばれる『損害賠償額算定基準』というもので、毎年発行されています(一般の書店では見かけないかもしれません。)。

 こういった書籍でまとめられたものが事実上の「裁判基準」といえます。



 当然ながら、損害保険会社も、この「裁判基準」は知っています。

 しかし、保険会社には、それぞれの会社の内部で、提示する金額等の基準があり、その基準は「裁判基準」よりも低額です。

 では、なぜ保険会社はこの「裁判基準」ではなく、より低額の賠償額を提示するのかについては、次の理由が考えられます。

 「裁判基準」は、あくまで過去の裁判例等の結果の集積であって、法律ではありませんから、そのような「基準」に保険会社が縛られるわけではありません。

 また、保険会社としては、支払うべき損害賠償の金額が大きくなれば、その積み重ねで、会社の利益は減少しますし、結果として、契約者が支払う保険料の上昇を招くことになります。

 したがって、保険会社としては、自社の利益(出資者の利益)や顧客である保険契約者の負担を考えれば、できるだけ支払う賠償額を低額に抑えたいと考えます。これは、保険会社の立場からすれば当然のことです。


 そうして、結果的に、裁判になる前には、保険会社は、交通事故の被害者に、上記の「裁判基準」よりも低い金額の提示をしてできるだけ「裁判基準」より低い金額で示談をまとめようとします。


 弁護士に相談したりせずに、保険会社の提示した賠償額を受け入れた人の中には、裁判になれば得られた可能性のある金額よりも低い金額の賠償しか受けていない可能性がある人もいると思われます。


 弁護士が代理人になって保険会社と交渉する場合は、

裁判になったらその基準と変わらない金額の賠償責任が認められてしまうであろうという予想から、保険会社は、示談の場合でも「裁判基準」による賠償額に近い金額を認めるかもしれません。




 なお、交通事故にせよその他の事故にせよ、「裁判基準」があれば自動的に損害賠償額が算定できるというものではなく、損害の範囲やその金額の認定が悩ましいものもあります。

 交通事故は、損害額の算定の他にも、過失割合など問題になる点も少なくありません。

 そのため、専門知識のない方が自分で対応するのは困難なことが多いと思います。

 被害者にせよ加害者にせよ、交通事故の当事者になった場合は、弁護士に早期に相談し、依頼すべきです。


 弁護士に依頼したい場合に弁護士費用の心配がないように、任意保険の弁護士費用特約には加入しておくのがオススメです。


 また、弁護士ではない士業やNPO(代理人になったり紛争に関与する資格がないのに「交通事故専門」を標榜しているところがあります。)に相談したりするのは、適正・適法な解決できない危険もありますし、不当に手数料や寄付を取られる危険もありますので、交通事故の当事者には注意していただきたいです。


(マイベストプロ北海道で2017年5月5日に公開したコラムを加除修正しました。)