3/29 カヴァラドッシ役・前川健生さん インタビュー
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。
みなさまのインタビューをお届けしております。
第12回は、3/29カヴァラドッシ役・前川健生さんのインタビューです。
前川健生(まえかわ けんしょう)
愛知県一宮市出身。新城市(旧鳳来町)にて育つ。
愛知県立時習館高校普通科卒業。国立音楽大学声楽科卒業。東京学芸大学大学院音楽コース修了。二期会オペラ研修所第 58 期マスタークラス修了。修了時の成績により、東京二期会オペラ劇場「魔笛」(宮本亜門演出)のタミーノ役のアンダースタディに指名される。第 20回東京音楽コンクール第2位、第 90 回日本音楽コンクール入選、第1回ジュディッタ・パスタ国際オペラ歌手コンクール第1位、チェコ音楽の祭典 2023 最優秀賞、イタリア声楽コンコルソテノール特賞など受賞歴多数。
東京二期会オペラ劇場「ダナエの愛」にて二期会デビューを皮切りに、「イル・トロヴァトーレ」使者役、「ノルマ」フラーヴィオ役、「ばらの騎士」テノール歌手役、「アルチーナ」オロンテ役、「三部作-ジャンニ・スキッキ」リヌッチョ役、「ルル」アルヴァ役、「平和の日」ピエモンテ人役で出演。また「ノルマ」「トスカ」「蝶々夫人」「エロディアード」ではカヴァーキャストをつとめる。また調布市民オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」にてメインキャストとして本格デビュー、その他「コジ・ファン・トゥッテ」のフェルランド役、「魔笛」タミーノ役、「愛の妙薬」ネモリーノ役、 「椿姫」アルフレード役、「ラ・ボエーム」ロドルフォ役、「トスカ」カヴァラドッシ役、「カルメン」ドン・ホセ等で出演。 メサイア、モーツァルトレクイエム、戴冠ミサ、ヴェスペレミサ、第九交響曲、シューベルトミサ曲などでソリスト、「遥かなる恋人に寄せて」「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「詩人の恋」「消えた男の日記」などの連作歌曲のレパートリーでも活動。マケドニア国立歌劇場にて、日本マケドニア国交樹立 20 周年記念公演「夕鶴」の与ひょう役のカヴァーキャストとして抜擢。
ウィーン国立音楽大学夏期ゼミナールにて研修を受ける。
宗次エンジェル基金/公益社団法人日本演奏連盟新進演奏家国内奨学生。
遊 音楽企画代表としてこれまでに「鶴見オクトーバーコンサート」「ふるさと再生・復興への祈り」「立川ニューイヤー・オペラガラ」などのコンサートを企画。2017 年 10 月より福島県広野町から広野夢大使の委嘱を受ける。
声楽を齋藤喬、平山初喜、大野徹也に師事。演奏法を故中村初穂に師事。
二期会会員、ぐるーぷなーべ会員。広野夢大使。ブルゴーニュワイン音楽隊 “Les Cadets de Vitalite” メンバー。
──プリンスオペラ立ち上げから、ご尽力されてきた前川さん。第1回オーディションの時にも、SNSでの情報発信に積極的だったことも記憶しています。また、アーツカウンシル東京などの助成金申請をはじめ、さまざまな面からサポートしてくださっておいでです。時に悩み、迷う明珍さんのことも、いちばん近くで見守ってきたことと思います。もしよろしければ、いまの率直な思いをお聞かせいただけますか?
「私自身も『遊 音楽企画』という団体を2016年に立ち上げて、今年で十年になります。『遊 音楽企画』では地域での音楽イベントや、プロデュースの依頼をいただき、これまでにさまざまな企画を手掛けてきました。そうした経験を積む中で、できること・できないことも分かってきました。
明珍さんと出会ったのは2018年。共演がきっかけで、毎年必ずコンサートを共にするようになりました。いちばん共演してきたんじゃないかな……。これまで生きてきた道はそれぞれに違いますが、話すこともとても腑に落ちるし、クラシック業界やオペラ界で生きてきた中での心構えや苦労など一致することも多かったですね。音楽的にも、人間的にも、考えることが近く、気が合うのでしょう。非常にすがすがしく、いい友達であり、仲間です。
そんな明珍さんが、私財を投げ打ってオペラ団体を立ち上げることを決めた時、迷わずに『協力したい』と思いました。自分がこれまでの経験の中で、ぶつかってきた壁などもあったので、それを伝えたいという気持ちもありました。おせっかいやきなのかもしれませんが、一緒に取り組めることをとても嬉しく思っています。
今日にいたるまでも、明珍さんができること、私ができること、それぞれにうまく分業できているのではないかと感じています。分担して、非常にいいバランスで取り組めていますね。稽古でも、毎回すがすがしい気持ちで帰途につきます。」
──お二方の絆、そしてすがすがしさは、とても伝わってきます。それでは、続いてカヴァラドッシという役についてお伺いいたします。
年明けのふじみ野での《蝶々夫人》ピンカートン役、二月の東京二期会《カヴァレリア・ルスティカーナ》トゥリッドゥ役など、近年は徐々に1880年代以降の作品へとレパートリーを広げておいでの印象も抱きます。稽古場で前川さんのカヴァラドッシを聴いていると、長期的に周到な準備を重ねてきたうえで、レパートリーの移行期をすごしておいでなのがわかります。
二十代から三十代を経て、四十代に向かういま、レパートリーの変化と共に、カヴァラドッシという役について自由にお話いただけますか?
「近年、ベルカント後期以降の役柄をお仕事としていただく機会が増えてきました。二月の《カヴァレリア・ルスティカーナ》でも、役柄としても、声としても、一定の評価をいただけたことをとても嬉しく感じています。自分はやはり、リリック・テノールであり、ドラマティック・テノールやスピント色の強いテノールではないことは理解していますが、年齢の変化と共に演じられる役柄が広がっていることを自然に受け入れたいです。
39歳を迎えた去年までは『コンクールを受ける』ということを、自分の目標に据えていました。それは、ベルカントの勉強の機会をつくっていくため。コンクールの審査員である、尊敬の念を抱く先生方に何を聴いていただきたいかと思った時に、やはりベルカント・オペラやヴェルディの作品が浮かびました。コンクールでいい演奏をするためには、もちろんそのための準備も必要です。そうやって、去年までは『コンクールを受ける』ということを通じて、ベルカント・オペラに集中して取り組む時期を設けることにより、コンディションを整えてきたのかもしれません。その末に、今回のカヴァラドッシやピンカートン、トゥリッドゥ、そしてカヴァーとして参加している東京二期会《ルル》アルヴァなど、多岐に渡る作品に取り組めているのだと感じています。
カヴァラドッシは、30歳の時に初めて取り組みました。ちょうど、いまの山本くんの年齢ですね。澤村さんも副指揮者として参加していました。周囲には『(声には)重たいんじゃないか』と言う声もありましたが、お客様からは評判がよかった。いずれ、自分のレパートリーの中核となってくる役だろうとも考えました。
だからこそ、しばらくカヴァラドッシから『離れる』選択をしました。第一幕の〈妙なる調和〉は、その当時も比較的楽に歌えていましたが、第二幕以降になると当時の技術では、自分にない色で歌わざるを得なかった。だから、自然な色で歌えるまで待とうと決めて、落ち着いて勉強をすることを決めました。時間がかかりましたが、いまこうしてカヴァラドッシに取り組めることは嬉しいことですね。
カヴァラドッシは非常にテノールらしい王道の役だと考えています。プッチーニの音楽の中にも、ベルカントの様式感は受け継がれています。カヴァラドッシは直情的で心の弱い部分も描かれますが、とても誇り高く、信念を持って生きている人物。共感を抱きながら演じています。澤村マエストロの音楽、そして角さんの演出ともに、非常に芸術性が高いので、そこに溺れないようにしながら、なるべく俯瞰して作品に臨むようにしています。」
──稽古場でも、前川さんが演じられるカヴァラドッシからは、その視座の高さを感じます。
さて、プリンスオペラが大事にする「若手声楽家の育成」というテーマ。前川さんも後進の方々をご指導される立場となり、さまざまに考えられることも多いと思います。稽古場での前川さんはムードメーカーとして、みなさまにへだてなく朗らかに声を掛けておいでなのも印象的です。そうした在り方からも、若手の方々は「第一線で活躍する歌手像」を、前川さんの姿から学んでおいでのことではないかと感じています。そして、オペラ歌手としてキャリアを構築していきたい方々にとって、現場での学びはなによりも尊いものだと感じます。
前川さんの抱える後進の方々への思い、そして客観的に見た時のプリンスオペラの個性をお聞かせいただけますか?
「東京二期会に2015年に入会し、幸運なことにその年にデビューを飾ることができました。二期会会員になってからの十年、様々なプロダクションに関わらせていただき、現場での濃密な学びを得ました。その中で感じてきたことは、一流の方々ほど未経験の若い方々に丁寧に接してくださったということ。それは、一流の方々が若者たちに期待しているという優しさゆえだったのだろうと、振り返ります。
尊敬する先輩でもある今井俊輔さんとは、2015年に《トスカ》ハイライトでご一緒させていただいたのが初めての出会いでした。凄みと迫力のある声とは対照的に、お話させていただくと実に優しい方。とても印象的でした。こういう風になりたい、とも思いました。
自分自身も指導する立場となり、あらためて後進の育成ということを考えるようになりました。その時に考えたのは、若い子たちに『この人みたいになりたい』と思えるような方々と、現場での学びを積んでほしいということ。私自身も東京二期会の公演に十数回携わってきた経験をへて、二期会に育てていただいた恩義と感謝を感じています。そして、かつての自分が先輩方に抱いてきた憧れや、『プロとはこうあるべき』という姿を背中で学ばせていただいた経験を、若い子たちに積んでもらうためにはどうすればいいかということも考えるようになりました。
そんな矢先、明珍さんからプリンスオペラの構想を打ち明けられました。年々、予算などの関係で現場の規模が縮小していく中で、明珍さんは志ひとつでオペラ界に一石を投じようとしている。そして私自身の学びや経験も伝える中で、すこし上の世代と若い世代の子たちがひとつの現場で作品をつくりあげていくという現在のプリンスオペラの雛型ができあがっていきました。
今回のプロダクションは、若い世代の方々にとって大きな刺激となることでしょう。澤村さんの音楽、角さんの演出、いずれも世界に通用するものです。その中で得た刺激が、次に向けての〈持続〉となるといいと願っています。素晴らしいプロダクションに参加すると、その刺激が次の舞台に向けての〈持続〉を生みます。それは団体にとっても同じで、『この団体、いいらしいぞ』という憧れを持ってもらえるような運営であることが非常に重要です。年々、憧れを形にできるような機会が減っていく中で、プリンスオペラがすこしでもそういう場として育っていってほしいと願います。
そういう場がないなら自分がつくる、という明珍さんの思いひとつで生まれたプリンスオペラ。だからこそ私も『やるならこうやろう』と、自分の思いを託すことができました。ひとつひとつ、様々なことを乗り越えながら、自分たちの憧れも実現していく。そうした積み重ねを示していくことで、若い世代の方々が、なにか動き出すきっかけになったらいいですね。」
──ありがとうございます。それでは、最後の質問です。プリンスオペラ代表の明珍さんから、みなさまにお預かりした質問です。
「あなたが歌う理由を、教えていただけますか?」
「……この質問、難しい質問ですよね。でも、不遜かもしれないけれど、『僕が歌わずに、誰が歌う』という強い思いが湧き上がってくるんです。」
「こういう強いエネルギーは、特にテノールが必要とするものかもしれません。テノールの役はどこか短絡的であり、カヴァラドッシのように直情的であり、そして恐れ知らず。困難に果敢に飛び込んでいく。自分に嘘をつかない。そして、自分を誇りに思い、愛する者のために立ち上がる。テノールはそんな人たちだと思います。自分自身のマインドも、典型的なテノールだと感じています。
そうしたテノールとしての生き方やマインドを、肯定している自分がいるんです。生きていると、問題や課題は山積みです。また、コンクールでも、オーディションでも、周りを見ると、それぞれに本当に素晴らしい人ばかり。でもそこで、『僕が歌わないでどうするんだ』って気持ちが湧き上がるんです。ハッピーな人間なのかもしれませんね。
さまざまな現場でも、圧倒されることもあります。その積み重ねです。でもそのたびに、『俺もいいところあるじゃないか』って気持ちを切り替えられるんです。翌日には、またカラッと切り替えて、元気にがんばろうと思える。その繰り返しです。
そう。『僕が歌わないで、誰が歌うんだ』っていうのが、僕の答えなんでしょうね。」
そう言って、前川さんは朗らかに笑いました。
どんな時も前向きに、未来を信じて、道を切り拓いてきた前川さん。そんな前川さんと、明珍さんの絆がプリンスオペラの種を蒔き、育てています。
前川さん、ありがとうございます。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、
2026年3月28日(土)・29日(日)
北とぴあ つつじホールで上演いたします。
公演情報はこちらをご覧ください。
チケットは、ほくチケ(オンライン)、
ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。
オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。
◎ほくとぴあチケットオンライン
みなさまと北とぴあでお会いできますことを、
心より楽しみにしております。