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ダンス評.com

遠藤康行、小池ミモザ etc.「Memory of Zero/メモリー・オブ・ゼロ」神奈川県民ホール 大ホール

2019.03.10 13:43

大ホールの舞台上に特設席を設けて、演奏家たちも舞台上で演奏し、ダンサー(演者)たちを間近で見られるという演出の粋な新作バレエ公演。一柳慧氏の音楽も見どころ・聞きどころという趣向だ。

ヨーロッパで長く活躍した遠藤康行氏が振付と出演、同じくヨーロッパで活躍中の小池ミモザ氏が主演を務めた。ダンサーにはほかに鳥居かほり氏、高岸直樹氏、引間文佳氏がいて、オーディションで選ばれたダンサーたちも参加する。白井晃氏は、せりふを述べる案内役のような形で出演。

2本立てで、公式の説明では以下のようになっている。

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第1部 身体の記憶Memory of Body

クラシックバレエからモダンバレエが生まれ、モダンダンス、そしてコンテンポラリーダンスの時代へ。身体はどこへ向かうのか。一柳 慧の音楽とダンサーの身体が絡み合い、交錯し、ダンスの変遷をたどる旅。

第2部 最後の物たちの国でIn the Country of Last Things

原作/ポール・オースター 訳/柴田元幸

遠い世界へ旅立った彼女から、手紙が届いた―。ポール・オースターの小説「最後の物たちの国で」をモチーフに、一柳慧が音楽、白井晃が構成・演出、遠藤康行が振付を手がける。主人公アンナ(小池ミモザ)が消息不明の兄を追い、行き着いたのは、何もかもが破滅へと向かい限りなくゼロに近づく世界。飢えや略奪、悪夢のように悲惨な出来事に次から次へと巻き込まれ、それでも生きようとするアンナが最後に見出す希望とは?神奈川県民ホールの巨大な空間が滅亡の街へと姿を変え、記憶の音楽が響き始める。

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第1部「身体の記憶/Memory of Body」は、舞台の垂れ幕が背景となり、そこに数字が映し出される。年号がどんどん移り変わっていく。ダンサーたちが舞台に登場したときに、チョークのようなもので床に書いていたのも年号だ。

第1部は「ダンスの変遷」を表現したらしいが、正直、どこがどう変遷していっているのか、よくつかめなかった。ダンスの歴史やその時々の動きの特徴を知っている人には興味深かったのかもしれないが、眠気に勝てなかった。この部は「アブストラクト(抽象)」バレエということだが、こういうのはよほど卓越した振付とダンスで構成しないと、なかなか見られるものにはならない。ダンサーたちが下手なわけでは決してないのだが、群舞としてもあまり楽しくないというか、ドタバタしているという印象が強く残ってしまった。

第1部の後、20分の休憩。

第2部は、「具象」のバレエで、小説の物語を下敷きにしている。ポール・オースターの『最後の物たちの国で』のストーリーはかなり暗いが、今回の公演ではラストで主人公はかすかな希望を失ってはいない。

第1部で感じた消化不良の気分は、第2部で払しょくされた。物語バレエとしての振付はなかなかよかった。音楽とダンサーたちのエネルギーも伝わってきた。

垂れ幕が上がり、通常の客席を、物語の舞台の遠景として使って、客席の中をダンサーたちが走り回ってから、舞台に上がってくる、という演出は素晴らしい。通常は客の目には触れないようにすると思われる金具の台のようなものを使い、バラックが並ぶようなすさんだ街の風景を表しているのも効果的だった。

最後、通常の客席の一番上の階の中央にある扉があちら側から開けられ、その向こうには窓があって、自然光が劇場の中に差し込む。それが主人公たちの行く末を照らす光となっている、という演出もすてきだった。

いかにもバレエを習っていますという風情の子どもの観客たちには少々過激ではと思われる性的なシーンや暴力的なシーンもあったが、実はクラシックバレエだって、なかなかに残虐なところもある。裏切り、狂気、死は、大概、付き物だ。

ポール・オースターのような現代文学を新作バレエにする試みは、どんどんやってほしい。本公演「最後の物たちの国で」でダンサーはトウシューズを履いていないが、構成や踊りの動きから「現代バレエ」と言っていいだろう。もし今後も「バレエ」という踊りが残っていくのなら、古典(クラシック)バレエを現代的解釈で新たに上演する(古典のまま上演するのも大事だろうが)ことに加えて、新しい物語でバレエを作っていくことも必要だろう。その必要性、そして可能性を大いに感じさせてくれた、意欲的な新作の物語バレエだった。

アフタートークで遠藤康行氏と小池ミモザ氏が言っていたように、ヨーロッパでは同じ演目のダンス公演を長期間行い、創作もどんどん行っている。その中で、観客も思い立ったらすぐ劇場に足を運び、新しい作品にもたくさん触れる機会があって、目が肥えていく。そして、劇場やカンパニーはさらに公演を行っていくことが期待されていく。劇場以外でもダンスが見られる企画も国・地域によってはよくあるらしい。

日本では、当日思い立ってダンスを見に行くのはハードルが高い。話題の公演はほぼ売り切れているし、小規模な作品は公演日時が限られていて選択肢が少ない場合が多い。そうすると、ダンサーや振付家の生活も劇場運営も厳しくて、ダンスを見る観客人口も増えない。ニワトリが先か卵が先か問題だが、日常生活の中でダンスも必要だよねという土壌が醸成されれば、状況は改善されるはず。日本でも、きっと落語とかは、思い立ったらすぐ聞きに行ける環境なのではないだろうか?

それにしても、「バレエ」公演では、「コンテンポラリーダンス」(といってもさまざまだが)公演よりも、観客の中高年者率が高い。今回見に行ったのが昼間だったせいもあるかもしれないが(オーディションで受かって参加したダンサーたちの親もいたからかも?)。

「バレエ」公演と銘打っているからこそ、コンテンポラリーっぽかった第1部は、もう少し頑張ってほしかった。あれが「コンテンポラリーダンス」かと初めてバレエ以外のダンスを見た人が思ったら、つまらないと思ってもう挑戦しなくなってしまうかもしれない。それだともったいない。

でも、「物語バレエ」は今後も作り続けてほしい。「アブストラクト」はたまたま今回の作品が合わなかっただけかもしれないので、機会があればまた見ることもあるかもしれない。

演出に凝っているのは分かるが、ものすごく豪勢な舞台セットというわけでもなかったし、とにかくチケット代が一般6,500円は高い!小池ミモザ氏が海外在住でその渡航費や、演奏が生演奏なので演奏家の分とか、いろいろかかったのだろうが、庶民の正直な気持ちとしてはやはり高かった。


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一柳 慧×白井 晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト

構成・演出:白井 晃

振付:遠藤康行

音楽監修:一柳 慧

出演:小池ミモザ、遠藤康行、白井 晃、鳥居かほり、高岸直樹、引間文佳 ほか

指揮:板倉康明/ピアノ:一柳 慧、藤原亜美/管弦楽:東京シンフォニエッタ

公演日時: 2019年03月09日(土)~2019年03月10日(日)

【公演スケジュール】

3.9(土) 18:00開演 [17:30開場]

3.10(日) 15:00開演 [14:30開場] ※前売完売(当日券は若干枚を販売いたします)

【アフタートーク出演】

3.9(土) 一柳慧、白井晃、板倉康明

3.10(日) 一柳慧、白井晃、遠藤康行、小池ミモザ

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