【ECO SEED10周年】②ZEBとの親和性の高さ証明された帯水層蓄熱と新たな分野での導入
◆活躍の場が広がる日本地下水開発の帯水層蓄熱システム◆
地下水の熱利用拡大を視野に地下水揚水規制緩和に向けた検討が本格化する中、夏用と冬用の井戸で冷温熱を使い分ける帯水層蓄熱が注目されています。とりわけ日本地下水開発株式会社(JGD:山形県、桂木聖彦代表取締役)が開発した「高効率帯水層蓄熱システム」は帯水層蓄熱をベースに積雪寒冷地でネット・ゼロ・エネルギー・ビル(『ZEB』)を実現し、『ZEB』を目指す施主にとって注目すべき再生可能エネルギー熱利用技術です。実証により帯水層蓄熱と『ZEB』の親和性の高さが証明され、建物間で熱融通等を行う面的利用の実証も始まっているほか、農業分野での導入も始まり、注目されます。(エコビジネスライター・名古屋悟)
◆ZEB実現のベースとなるJGD高効率帯水層蓄熱システム◆
帯水層蓄熱が『ZEB』実現に効果があることを知る上でまず重要なのは、同社が開発した「高効率帯水層蓄熱システム」です。
このシステムは、NEDO事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014~2018年度)で確立した国内初のシステムで、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。
冷房利用で温められた地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用。一方、暖房で利用して冷えた地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。
このシステムを同社関連会社の事務所で空調に導入した結果、従来の帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)と比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成しました。
また、熱を利用した後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術もこの実証事業で確立しています。
現在、国において地下水の熱利用に向けて地下水の揚水規制の緩和が検討されています。熱利用後の地下水の還元が大きなポイントの1つに挙げられており、JGDの高効率帯水層蓄熱システムはすでにこれに対応できる技術も確立している点が魅力です。
◆積雪寒冷地でのZEBを実現した高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム◆
この「高効率帯水層蓄熱システム」を発展させ、冬期の積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地域で『ZEB』を実現したのが、2019年度から2024年度にかけて実施したNEDO助成事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」による「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の実証です。
この研究開発では、「高効率帯水層蓄熱システム」に太陽光発電設備(30・7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを追加設置して『ZEB』を目指しました。
◆4年間全年度で運用上も「ZEB」を達成…冷暖房・給湯・冬期の無散水融雪の3つの熱需要を満たす◆
JGDの関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木:JESC)ZEB棟で実証試験が行われ、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計3つの熱需要に対応し、ゼネラルヒートポンプ工業と共同開発したヒートポンプ(冷房能力30kW、暖房能力30・1kW、給湯能力30・2kW:以下、HP)を使用しています。
JESC-ZEB棟では、2021年2月からデータを収集。その結果、2021年度から2024年度の年間トータルエネルギー収支は、削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、4年間の全年度を通じて運用上でも『ZEB』を達成しました。
◆需要側に有利な温度の地下水揚水が可能◆
蓄熱のメリットは、需要側に有利な温度の地下水揚水が可能な点としています。
例えば2022年度の計測結果を見ると、地下水初期温度は16℃ですが、冷房開始時は事前の冷熱蓄熱でより冷たい温度(13・3℃)、暖房開始時は事前の温熱蓄熱でより温かい温度(24・4℃)の地下水が得られ、その後は蓄熱の消費(揚水量の累積)に伴い初期温度に向けて収束していっています。
『ZEB』達成の大きなポイントをについて、JGDの桂木聖彦代表取締役は、「夏期の冷房でHPを使わず地下水の冷熱だけで冷房するフリークーリングを行っている点が挙げられるほか、給湯用に導入した真空管式太陽熱温水器で集めた熱を利用する点、通常は冬期に融雪で利用する無散水融雪システムを夏にも運転させて集めた温熱を冬期に暖房で使う井戸周辺の帯水層に貯めておく点です」と述べています。
例えばフリークーリングの効果を計測結果から見ると、フリークーリングとHP冷房をそれぞれ実施した2023年度夏の結果では、フリークーリングのシステムCOP(SCOP)が23・00、HP冷房のSCOPが8・74となっており、エネルギー消費量削減効果の高さがうかがえます。
これらの結果から「積雪寒冷地でも『ZEB』を実現したことなどを踏まえると帯水層蓄熱は『ZEB』との親和性が高いことが示されたと思っています」と自信を覗かせます。
◆積雪寒冷地を重点エリアに高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム展開◆
JGDは、「ZEBプランナー」でもあります。
「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の対象について聞くと、「高効率帯水層蓄熱は、『ZEB』との相性が非常に良いです」とし、「東北地方はじめ積雪寒冷地域を重点エリアとし、『ZEB』仕様建物の設計事務所や再生可能エネルギー熱の導入に積極的な設計者、環境意識が高い施主や設計者、CO2排出量削減意識が高い施主や設計者などをターゲットにしていきたいと思っています」としています。
対象となる施設については、建物面積500㎡~1500㎡規模の建物で、特に老健施設や診療所など24時間空調が必要な施設や、防災拠点となる庁舎や消防署などが主な対象になっていくのではないかとしています。
◆高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システムで「面的利用」の実証も開始◆
JGDは、これらの研究成果をさらに発展させる方針で、新たにNEDOの「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」(2024年度から2028年度)において複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」(ゼネラルヒートポンプ工業と共同提案)をスタートしています。
高効率帯水層蓄熱システムを中心とした再エネ熱をZEBならびにZEH-Mといった複数施設で利用する面的熱利用システムの熱源とし、熱負荷の平準化、熱融通、熱利用を高度化することで、2028年度に再エネ熱利用システムの導入コストを2024年度比で25%削減、ランニングコストを25%削減することを目標としているとしています。
実証は本社に隣接する敷地でZEH-Mを目指す社員寮(木造2階建て約600㎡:1K15部屋)とZEB改修した山形事務所(鉄骨平屋建て約200㎡)の2棟で行う考えです。
共通の帯水層蓄熱システムを2棟で利用する形で、「高効率帯水層蓄熱システム」をベースに、太陽光発電設備、断熱効果を高めた外壁、給湯回路に真空管式太陽熱温水器などを導入する予定です。
社員寮は夜から朝、山形事務所は日中に電気や熱の需要が集中するため、熱需要の分散が期待できますが、「ZEH-M」社員寮には風呂等の熱需要が大きい点がZEBとは異なる点で、給湯の消費エネルギーをどの程度まで削減することができるかが今後のポイントになるとしています。
社員寮は15部屋ありますが、5部屋を高効率帯水層蓄熱システムによるHP給湯、5部屋をエコキュート、5部屋をガス給湯とし、比較試験を行う計画になっており、実証の結果が注目されます。
2025年内に山形事務所のZEB改修、高効率帯水層蓄熱システム用の井戸2本の工事を終えており、今年5月には社員寮の建築工事を着工し、その後、2026年秋には竣工予定で、2棟での本格的な実証を開始する見込みとなっています。
なお、同社による帯水層蓄熱システムは公共・民間含めこれまでに11施設で導入され、このうち2施設が高効率帯水層蓄熱システムとなっています。
◆農業分野でも導入始まった帯水層蓄熱システム…出雲の地で◆
帯水層蓄熱システムは、建物だけでなく農業分野での導入も始まっています。
JGDの帯水層蓄熱システムを導入したのは、TSKさんいん中央テレビグループの農業法人である株式会社TSK農縁(島根県松江市向島町140-1、清田睦人代表取締役社長)が2026年1月に出雲市内に開園した「出雲ICHIGO縁」(島根県出雲市大社町北荒木1521-4)です。
「出雲ICHIGO縁」は、約2haの敷地に栽培面積7,500㎡のハウス2棟からなる中国地方最大規模のいちごのハウス栽培施設です。
非常に大型の観光農園で、熱需要が非常に大きな施設です。
TSK農縁では、いちごの観光農園を作るにあたり、エネルギーの地産地消を掲げ、地域のエネルギー資源である木質バイオマスコージェネレーションや太陽光発電・熱ハイブリッドシステムの利用を当初から視野に入れていましたが、熱需要をすべて賄うことが難しいことから、その他のエネルギー資源も検討。その結果、同地に豊富に存在する地下水にたどり着き、地下水の流れる速度などから熱需要の不足分を帯水層蓄熱システムで補うことになったとしています。
春から夏は帯水層蓄熱を利用してヒートポンプによる施設冷房を行いながら冬期用の井戸に蓄熱し、秋から冬に蓄熱した温熱を利用してヒートポンプによる施設暖房を行う計画になっています。
また、「出雲ICHIGO縁」の特徴として、この帯水層蓄熱によるヒートポンプシステムの駆動に必要な電力は、木質バイオマス発電など再生可能エネルギー発電で賄うことになっており、グリーンな冷暖房を実現している点も特徴になっています。
積雪寒冷地での『ZEB』を実現し、建物以外で用途でも導入が始まったJGDの高効率帯水層蓄熱システムは、今後の動向も注目されます。
※記事中の図は、すべてJGD提供
※「出雲ICHIGO縁」の詳細は別途紹介します。
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