【ECO SEED10周年】③再エネ設備の組み合わせでエネルギーの地産地消実現した「出雲ICHIGO縁」
◆TSKさんいん中央テレビグループが運営する中国地方最大規模のいちご狩り観光農園◆
地下水の熱利用を含むエネルギーの地産地消で自立した運営を目指す中国地方最大級のいちご狩り観光農園が、2026年1月に島根県出雲市内にオープンしました。この農園は、TSKさんいん中央テレビグループの株式会社TSK農縁(島根県松江市向島町1401、清田睦人代表取締役社長)が運営する「出雲ICHIGO縁」(出雲市大社町北荒木1521-4)です。このほど、現地を訪ね、農園の柱となる再生可能エネルギーを組み合わせた地産地消のエネルギーシステムについて取材する機会を得ました。(エコビジネスライター・名古屋悟)
◆出雲大社から2kmほどに立地する農業体験型テーマパーク◆
「出雲ICHIGO縁」は、日本最古級の神社である出雲大社の近くにオープンしたいちご狩りの観光農園。農業施設は農林水産省の農山漁村振興交付金に基づく島根県出雲市の 農山漁村発イノベーション整備事業(定住促進・交流対策型)地域活性化計画によって整備され、エネルギーシステムは環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金「地域における脱炭素化先行モデル創出事業」によって整備されました。
地域活性化計画によると、大社地域は出雲大社「平成の大遷宮」(2008年~2019年)を契機に毎年多くの観光客が訪れていますが、農業従事者の高齢化や担い手不足に加え、 古くから取り組まれていたブドウハウスの老朽化も相まって遊休農地化が加速度的に進み、農業の衰退や観光地としての景観保全が課題になっているとしています。
こうした状況を踏まえて、「遊休農地を活用したイチゴの収穫体験農園を整備したほか、関連事業として直売を含む物販・飲食施設を整備し、農業体験型テーマパークとして、市の観光施策『365日楽しめる出雲』創出事業と連携して新たな観光資源とすることで、通過型観光から滞在型観光への移行につながる多様な交流人口を創出したいと考えています」と株式会社TSK農縁の津森仁常務取締役は話します。
この施設を整備した株式会社TSK農縁は、2023年4月に設立されたTSKさんいん中央テレビグループの農業法人で、農業離れが進む中、農地の有効活用や耕作放棄地の再生、農業の担い手を増やしていくことを目的に事業を展開しています。1月にオープンした 「出雲ICHIGO縁」のほかにも、雲州人参などを栽培する八束町プロジェクトやICT管理による生キクラゲ栽培なども手掛けています。
「出雲ICHIGO縁」は、中国地方最大規模で約2haの敷地に栽培面積7,500㎡のハウス2棟があり、宙に浮く可動式空中プランターに5万株のいちごが実り、来場者を楽しませています。いちごは、「ベリーポップすず」、「よつぼし」、「スターナイト」の3品種を栽培しています。
いちご狩りのほかにもいちごやいちごを使用したスイーツを購入できるショップやテイクアウト専門のカフェなども併設し、スイーツを楽しみたい人にも魅力的な施設になっています。
◆複数再生可能エネルギーを組み合わせエネルギーの地産地消を実現◆
その農園を支えているのが再生可能エネルギーで、「エネルギーの地産地消」を掲げて多様な地域のエネルギー資源を活用している点が大きな特徴です。
地元の林業で発生する間伐材などを燃料として発電と廃熱有効活用を行う「木質バイオ マスコージェネレーションシステム」、太陽光発電パネルと太陽熱集熱による温水回収システムを一体化させた「ソーラーハイブリッドシステム」、帯水層を蓄熱層として利用する 「帯水層蓄熱ヒートポンプシステム」を施設のエネルギー供給基盤とし、電力融通・常用 防災兼用型の「定置型蓄電池システム」を含め、「電力自営線」と「熱融通導管」で構内 接続することで、多様な再生可能エネルギーの電力と冷・温熱を複合的に融通活用する 「グリーン・グリッド」を構築して最適融通制御を行うことで、自立したエネルギーシステムで運営しています。
また、この農園は「常用防災兼用」の考えで整備されている点も特徴で、「平常時の脱炭素化はもちろんですが、停電時にも電力や冷・温熱を継続利用できる設計になっており、緊急時には来場者や地域の方々の安全・安心にもつなげたいと考えています」と津森氏は施設のもう一つの特徴を解説します。
これらシステムの導入により、従来普及している重油ボイラー等に比べて温室効果ガスであるCO2を80%以上削減する目標としています。
◆システムの中核をなす木質バイオマス◆
システムを構成する再生可能エネルギーシステムのうち、各システムの柱となっている のが、「木質バイオマス・コージェネレーションシステム」(定格発電出力40kW、排熱 回収冷房能力35kW、排熱暖房能力100kW)です。
地元林業の山林管理で出る未利用の間伐材を破砕してチップ化し、木質チップから燃料 ガスを発生させてガスエンジン発電を行うとともに、発電時に排出される排気ガスの熱を利用して温水を供給するコージェネレーション(熱電併給)システムになっており、回収 した温水は吸収式冷温水器を通じて冷水や温水を作って冷暖房熱源として利用しています。
「木質バイオマスの地産地消を通じ、施設の脱炭素化を実現しながら森林・里山の維持発展にも貢献していくという考えのもと、取り組んでいます」と津森氏は話します。
◆地中のエネルギーを効率的に生かす帯水層蓄熱ヒートポンプシステム◆
「お客様が気付かないまま足下でスマートな役割を果たしているのが帯水層蓄熱ヒートポンプシステムです」と津森氏が紹介する「帯水層蓄熱ヒートポンプシステム」は、地下の帯水層を蓄熱層として活用するもので、施設の冷暖房に利用しています。
2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の暖房 運転時に生じる冷熱、夏期の冷房運転時に生じる温熱を、それぞれ蓄える仕組みになっています。
暖房時は夏期の冷房運転で温められた地下水をくみ上げて暖房熱源に利用し、冷えた地下水は冷房用の井戸に還元します。逆に、冷房時は冬期の暖房で冷えた地下水をくみ上げて 冷房熱源に利用し、温まった地下水は暖房用の井戸に還元します。こうすることで、冷暖房に必要となるエネルギーを、再生可能エネルギーで地産地消できる仕組みになっています。
くみ上げた地下水を熱源に水冷式ヒートポンプチラー(冷房能力286kW、暖房能力315kW)を介して施設の冷暖房を行っています。この水冷式ヒートポンプチラーには、低GWP冷媒が使用されており、メーカーの従来機と比べてCOP(エネルギー消費効率)が約10~20%向上しています。
冷房用の井戸は敷地北側に設置された駐車場内、暖房用の井戸は施設南側に配置され、深さは各100mで、それぞれの井戸は140m離れており、互いに熱干渉しない距離を保って整備されています。
当初は「木質バイオマスコージェネレーションシステム」と「ソーラーハイブリッドシステム」で運用する考えだったそうですが、熱需要をすべて賄うことが難しいことが分かり、現地で活用できる地産地消型の再生可能エネルギーとして、地中熱の採用を検討したそうです。
その地中熱も当初は一般的なクローズドループ(地中に埋設した密閉パイプ内に封入された流体を循環させ、地中の温度を間接的に回収する方式)を検討したものの、需要を満たすための井戸が数多く必要になることから既存のボーリングデータを参照し、地下水を熱源として利用できることが分かり、帯水層を蓄熱層として利用する方式を選定したとのことです。
◆ソーラーハイブリッドシステム◆
「ソーラーハイブリッドシステム」は、太陽光発電パネルに太陽集熱による温水回収システムを組み合わせた先進PVTパネルを採用しています。
パネルは、帯水層蓄熱ヒートポンプなどが格納されている機械室、木質バイオマスコージェネレーションシステムが格納されている施設の屋根にそれぞれ設置されています。パネルはそれぞれ100枚で発電能力60kW、採熱暖房能力160kWとなっています。発電パネル部で熱を回収してパネル温度が下がることで、発電効率を向上させながら回収した熱を給湯などに有効利用する太陽エネルギーの複合利用により、従来のパネルよりもCO2削減効果が20%向上しているとしています。
◆常用防災兼用の要となる定置型蓄電池システム◆
常用防災兼用を図る上で重要になるのが、「定置型の大容量蓄電池システム」です。平常時は構内で電力を融通供給するための電力自営線と、余剰電力の充放電を行う蓄電池を活用して電力需要が少ない時間には余剰電力を蓄電し、電力需要が多い時間には蓄電した電力を放電供給することで電力需給を平準化します。一方、停電・災害時は太陽光発電と蓄電池を活用し、非常用電力を供給します。
◆効率的な運転に欠かせないグリーン・グリッド制御盤◆
これらの設備を効率よく運用するために欠かせないのが、「グリーン・グリッド制御盤」です。各施設の電力や冷温熱は、用途や規模で差異があるほか、季節や時間帯によっても変化します。
多様な施設で構成される構内での再エネ地産地消を実現するため、「再エネの電力と熱を 施設間で融通し、過不足を充放電や蓄・放熱で賄う、再エネの地産地消を最大化することで、エネルギーの自立化を図っています」としています。
◆生産性と品質向上にICTも駆使◆
いちごの生産そのものもICT(情報通信技術)を導入。温度や湿度、日射量などをリアルタイムで測定するセンサーをハウス内に設置し、イチゴの生育に最適な環境を自動制御しています。ICTを活用することで、生産性と品質の向上を実現していく考えです。
◆エネルギー地産地消や地域の観光資源等に加え、環境教育の場としての役割も視野◆
「出雲ICHIGO縁」は12月から5月の期間で営業。冬期の観光需要を底上げする役割も期待されています。年間4~6万人の来場者を見込んでおり、今年も4月からゴールデンウイークにかけての週末はすでに予約が埋まっているとしています。
また、多様な再生可能エネルギーを地産地消する、先進技術を駆使したエネルギーシステムへの関心は高く、国の機関等をはじめ多くの視察者が訪れているとのことです。
津森氏は最後に「エネルギーの地産地消、常用防災兼用の施設、地域の観光資源として地域に貢献していくことに加え、今後、市内の教育機関との連携も深め、環境教育の場としての活用なども進めていければと考えています」と述べており、TSK農縁の取り組みは今後も注目が集まりそうです。
※記事中の写真のうち、井戸の写真は日本地下水開発㈱提供。その他の写真は、ECO SEED撮影
【出雲ICHIGO縁へのアクセス】
出雲大社より車で約7分
山陰自動車道「出雲IC」より車で約15分
一畑電車大社線「浜山公園北口駅」より徒歩約10分
出雲縁結び空港からレンタカーで約40分
「出雲ICHIGO縁」のホームページは以下URLとなります。