【ECO SEED10周年】⑤10年間全年度で設計削減率をクリアし続ける鈴廣蒲鉾本店ZEB新本社屋~地下水熱などを利用
2018年に「広報『地中熱』」で紹介した鈴廣蒲鉾本店(神奈川県小田原市風祭)の地下水熱ヒートポンプシステム」を備えたゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:改正建築物省エネ法施行以前の規格)となる新本社屋が10年目を迎えました。10年後の今、地下水熱ヒートポンプシステムを含め、運転の状況はどうなっているのでしょうか?鈴廣蒲鉾本店経営管理チーム総務部次長の廣石仁志氏を再訪し、取材しました。【エコビジネスライター・名古屋悟(ECO SEED代表)】
◆これまで取り組んできた省エネ、創エネの集大成◆
鈴廣蒲鉾本店は、創業160年を超える国内屈指の老舗かまぼこメーカーです。
ZEBとして2015年8月に完成した新社屋は、創業150年を記念して建築された3階建て延べ床面積2,134㎡の新築の建物です。
経済産業省の「2014年度住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業」に採択されて省エネ、再エネ設備の導入を進めました。
「これまで取り組んできた省エネ、創エネの集大成」と位置付けた社屋には、壁や屋根を断熱構造とすることはもちろん、窓にはLow‐e複層ガラス、照明電力削減も行うため自動調光機能を備えたLED照明など省エネルギー(省エネ)設備を備えるほか、太陽光パネル(38kW)など再生可能エネルギー発電や非常時を想定した蓄電池を備えています。
そして電力消費量が最も多い空調設備に地下水を熱源とする外調機、水熱源ヒートポンプシステム、ヒートポンプ給湯器を導入し、消費電力の削減に繋げています。
◆地下水熱利用ヒートポンプシステム…熱利用後はトイレ用水などカスケード利用◆
空調や給湯器の熱源としている地下水は、年間を通じて温度が16℃程度の地下水を70mの井戸1本からくみ上げ、夏は冷房、冬は暖房に利用しています。
1、2階では部屋ごとに水熱源ヒートポンプエアコンが設けられ、オフィススペースとなる3Fは床吹き出し空調が設置されています。また、地下水は職員が利用する社員食堂の給湯熱源としても利用されています。
なお、毎分740リットルくみ上げられて熱利用される地下水は、熱利用後にトイレ用水や散水用水、景観用水など中水としてカスケード利用している点も特徴です。
食品メーカーである鈴廣蒲鉾本店が省エネ、創エネに力を注ぐ理由を改めて廣石氏に聞くと、「かまぼこ等加工食品の製造では、原料の輸送や製造の工程で、冷蔵・冷凍、解凍、加熱の工程がいくつもあります。水やエネルギーを使うからこそエネルギー問題に取り組んでいるのです」と背景を語り、「かまぼこの製造では水をたくさん使うため、以前から井戸を使っています。従来は、製造用の水資源として利用していましたが、さらなる省エネ化を図る過程で熱資源としての役割にも着目し、導入に至りました」と地下水熱ヒートポンプシステムを導入した経緯を解説します。
本社屋での取り組みは、神奈川県の「2015年度かながわ地球環境賞」を受賞するなど各方面で高い評価を受けています。
◆設備の不具合もほぼなくメンテナンスフリーで10年◆
そのシステムの運転状況について聞くと、「これらのシステムの導入による設計削減率は55.5%となっていますが、導入初年度から10年度目を迎えた状況の中、全ての年度で56%以上の削減率を維持し続けています」と廣石氏。運用開始後の3年間、2023年度には60%を超える削減率も達成しています。
直近の2年度はやや削減率が下がっていますが、「夏の猛暑などが続き、室内機の設定温度を下げたことなどが影響していますが、設計削減率は達成しています」と述べ、エネルギー消費削減効果が持続している状況を示しています。
メンテナンス性については、「今後、設備の耐用年数等による更新などが出てくると思いますが、運用開始からこれまではおかげさまでほぼノーメンテナンスと言ってもよい状況です」と述べています。蓄電池のパワーコンディショナーに一部不具合が生じたものの、水熱源ヒートポンプや井戸ポンプなどのその他設備については故障も能力低下もなく安定した運転を継続していると言います。
◆東日本大震災契機に加速した同社の省エネ、創エネの取り組み◆
鈴廣蒲鉾本店が省エネや再エネ利用に積極的なスタンスなのは、2011年3月11日の東日本大震災の経験が大きかったとしています。
エネルギーを多く使うことから従来から省エネには積極的に取り組んでいましたが、東日本大震災当時、計画停電の影響を避けるピークカットの取り組みを強化して一層の省エネを進めた結果、従来から取り組んできた省エネに加えてさらに20%のピークカットを達成。さらに、東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所の事故から、原発に頼らない方針を固め、創エネにも取り組むことになったとしています。
最初に取り組んだのが太陽光発電で、本社近くにある風祭店や同じ敷地にある食事処「千世倭樓」の事務棟などの屋根に太陽光パネルを設置するなど再エネ利用が始まりました。
◆新本社屋だけではない地中熱(地下水熱)利用◆
再エネ熱である地中熱は、レストラン「えれんなごっそ」に地中熱換気システム(年間電力消費量20%削減を達成)を皮切りに利用を広げています。
紹介した新本社屋での地下水熱利用のほかにも2016年度には「恵水工場」でガス吸収式冷温水機の更新に合わせ、「地下水熱ヒートポンプシステム」による全館空調システムを導入。新本社屋とほぼ同じ70mの井戸を熱源に冷暖房システムが導入されています。
この「恵水工場」で熱源利用している井戸は休止していたものを再利用したもので、このような視点も持続可能性を高める上で無駄がなく、注目すべき点です。
さらに、「恵水工場」では、全館空調で熱源として利用した地下水を包装場クリーンルーム導入外気負荷処理の軽減を図るための熱源として二次利用(カスケード利用)するシステムも追加し、さらなる消費電力の削減に繋げているとしています。
団体客が昼食等で利用する施設を持つ風祭店では、井戸水を利用した太陽熱給湯システム(原水として井戸水を使用)も導入し、従来のガス利用に比べてガス使用量20%削減も実現しています。
地下水利用が身近な同社では、地下水を製造用や熱源用としての利用しているほか、景観用水、トイレ用水など多様な地下水利用を進めていますが、まだうまく活用できていない地下水もあるとし、「引き続き地下水の多様な利用を視野に取り組んでいきたいと思っています」と述べており、今後の取り組みにも注目していきたいと思います。
※記事中の写真はECO SEED撮影、図やグラフは鈴廣蒲鉾本店提供
※鈴廣蒲鉾本店ホームページは以下URL。