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偉人『森鴎外の発想力』

2026.05.29 00:00

今週の提案記事『発想力の要素 No.2組み合わせる力』(こちら)を記し、発想力を組み合わせた人物『森鴎外』について記事にすることに決めた。森鴎外について語られる時、大概夏目漱石が引き合いに出される。夏目漱石が「内面を深く掘る作家」だとすると、森鴎外は「複数の価値観を立体的に配置する作家」として対比される事がある。今回はこの森鴎外の複数の価値観を組み合わせる発想力の凄さに焦点を当てたいと考える。

皆さんは森鴎外の作品といえば何を思い出すだろうか。やはり教科書で学ぶ『舞姫』だろうか?それとも社会問題に切り込んだ『高瀬舟』か、人間らしさとは何かをテーマに説話文学の「安寿と厨子王」をもとにした『山椒大夫』か、東京の風景描写が美しい都市生活と恋愛(孤独・身分差・女性の生きづらさ)を描いた『雁』か、武士社会の忠義と集団心理を描いた歴史小説『阿部一族』などあるが、どれも白黒結論がつけられ答えが明確に出る作品ではなく、西洋と日本、医学と文学、理性と感情、国家と個人などそうした対立を消さずに抱え込むことで深い作品を生み出した人物である。その視点からすると森鴎外の複数の視点でそれを掛け合わせる力や組み合わせる力はすごいとしか言いようがない。

ではどうして鴎外が複数の視点で物語を執筆できたのか・・・それは単に聡明だっただけではなく、人生そのものが異なる世界の交差点に立てていたからである。つまり鴎外は軍医・官僚・小説家・翻訳家・知識人と複数の立場を実際に生きていたからだ。普通の作家なら「文学者の視点」に偏りがちな作品を生むが、鴎外は国家を運営する視点、医学的に人を見る視点、個人として苦悩する視点、留学を通して西洋文化を見る視点などを持っていたため、一つの答えを生み出す作品ではなく、より複雑な視点で作品をさまざまな立場で描く事ができたと言って良い。つまり森鴎外の発想力は、実際に自ら複数の立場で歩いてきた人生だからこそ「答えを一つに固定しない」こと、そして「異なる価値観を並列で保持する」こと、最後に「矛盾を矛盾のまま描く」事ができたのである。現代では優れた映画監督や社会派小説家、ドキュメンタリー作家などが近い発想として作品を残しているが、鴎外の作品は100年以上経っても簡単に答えが出ない問題提起をさせ、深い思考を促しているのだ。つまりいろいろな視点から見えてくるものを対比比較し組み合わせた鴎外にしか生み出せない発想を行っているといえよう。

例えば鴎外はドイツ留学で価値観が揺さぶられ、現地で個人主義、恋愛観、芸術観、国家観の違いを直接体験し、その結果、「日本の常識は絶対ではない」と気付き一つの価値観を絶対化しなくなり自然に多面的な見方が育ったと言えるでしょう。また翻訳者としら生まれる発想は単なる西洋文学や哲学を日本に紹介しただけではなく、日本語や日本文化の中でどう再構成するかを考え続けた。例えば『舞姫』では、鴎外自身の個人的恋愛感情や国家への忠誠、近代化する日本人の葛藤を同時に描いているが、一見「恋愛小説」に見えて、実際は「近代日本人とは何か」を実験的に考える作品として、鴎外は一つの物語に複数のテーマを重ねる発想を用いたのではないだろうか。

また鴎外は医者(軍医)であったため人間を非常に冷静に観察し、感情だけで判断しない或いは感情を過剰に説明せずに人物を解剖するように作品に描いている。また人間を多角的に見ることや原因を複数考える立場を文学にも入れ込んでいる。それが『高瀬舟』で罪人にも理屈があり、役人にも迷いがあるよって「善悪」が単純ではないことや「安楽死」「貧困」「罪とは何か」という倫理問題を、短い会話だけで浮かび上がらせている。医師的な観察眼を作品に網羅し、社会問題を小さな人間ドラマに圧縮する発想で作品を描いている。

その他に多くの人は不安定さを嫌うため白黒をつけたい、正解を決めたい、一つの立場に安心したいと考えるが森鴎外は逆で「人間は矛盾したままで存在する」と考え、作品でも国家に尽くしたいが個人の幸福も捨てがたいという両立しない感情をそのまま作品に残し、当時としては非常に高度な発想で作品を描いている。つまり鴎外は簡単な結論を出したがらない作家で個人の自由と国家、理性と感情、西洋化と日本的価値観などの対立を「どちらが正しい」と決めつけずに対比で読者に考えさせる構造を作る発想を持っていた。私は親にとってこの考え方は必要べきものであると考えている。

森鴎外の発想力は、「西洋と日本を往復しながら、異なる価値観を組み合わせる力」に特徴があり、単なる文学者ではなく、軍医・官僚・小説家・翻訳家・知識人でもあったため、発想の源泉が非常に多層的であった。その立場を活用して発想力豊かに組み合わせることにより、漱石とは真逆の作品を生み出す事ができたといえよう。こう考えると人生というものはやはり多くの経験を積ませることにより多くのものが見え始め、その経験をもとに人生が豊かになるという事が鴎外の人生から学ぶことができると証明された。



2026年4月3日『森鴎外と母』(記事はこちら